2021.04.15
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「総合的な"探究"の時間」は「総合的な"学習"の時間」と大きく違う!

今期も執筆させていただくことになりました。よろしくお願いします。

今回は「総合的な学習の時間」と「総合的な探究の時間」の違いについて考えたいと思います。この違いこそが新学習指導要領のポイントではないか?そう思えるほどこの違いは大きなものです。みなさんはこの2つの違いについてどのように思われますか?

立命館宇治中学校・高等学校 数学科教諭(高校3年学年主任・研究主任) 酒井 淳平

総合的な探究の時間と総合的な学習の時間

新学習指導要領の先行実施で、実はすでに総合的な探究の時間は始まっています。しかし、学校現場ではどちらも「総合」と略されることが多く、そのこともあってか、その違いはあまり意識されていないように思います。また新学習指導要領に「探究」という言葉が多く出てくることから、総合的な探究の時間は「探究ブームの一環」のようにさえ思われているかもしれません。

新学習指導要領によると、それぞれの目標は次のようになっています。
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「総合的な学習の時間」の目標
探究的な見方・考え方を働かせ,横断的・総合的な学習を行うことを通して,よりよく課題を解決し,自己の生き方を考えていくための資質・能力を次のとおり育成することを目指す。
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「総合的な探究の時間」の目標
探究の見方・考え方を働かせ,横断的・総合的な学習を行うことを通して,自己の在り方生き方を考えながら,よりよく課題を発見し解決していくための資質・能力を次のとおり育成することを目指す。
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2つの違いが分かったでしょうか?次節でもう少し詳しく2つの違いについて考えたいと思います。

少しの違いに潜む大きな違い

総合的な探究の時間の目標は、総合的な学習の時間の目標と書かれている順番が少し違うだけにも見えます。もう少し詳しく見てましょう。たしかにどちらも「自己の生き方を考える」という文言が入っています。しかし、総合的な学習の時間では、「課題を解決する過程で自己の生き方を考える」のに対して、総合的な探究の時間では、「自己の在り方生き方を考えながら、課題発見する」と書かれています。総合的な探究の時間では課題発見に重きをおかれているともいえるでしょう。実際、総合的な学習の時間に「課題発見」という言葉は入っていません。ここが大切なポイントです。

社会にはいろいろな課題があります。しかし、人が解決したいと思う課題は違い、すべての課題を解決することはできないのが人生です。そして人は人生で自分が解決したい問題を仕事やライフワークなど何らかの形で解決していきます。おそらくこの文章を読まれている方は教育関係者が多いと思いますが、それは「教育に関する課題」こそが自分のテーマだと思い、その分野で課題を発見し解決するという人生を歩んでいるはずです。

ここから分かるように、自分が解決したいと思う課題に出会うことは、これからの生き方を考える上で極めて重要なことです。これはもしかしたらキャリア教育というべきものかもしれません(本校はこのように考え、総合的な探究の時間とキャリア教育こそがカリキュラムの要であるという仮説をもって、総合的な探究の時間のカリキュラム開発に取り組んでいます)。自らが解決したいと思う課題との出会い、これこそが総合的な探究の時間の肝なのです。

総合的な学習の時間では、たとえば「環境問題」など、教員がテーマを設定し、生徒が課題解決をするという学習が行われたかもしれません。総合的な探究の時間でも、導入として教員から課題などを与えることがあるかもしれませんが、ゴールはそこではなく、生徒が自ら解決したいと思う課題に出会い、その課題解決に取り組むことなのです。これは強く強調したいことです。

総合的な探究の時間のカリキュラムを作る際に大切なこと

札幌新陽高校の荒井優前校長は「出会いと原体験こそが重要である」と講演などで言われます。実は荒井前校長のこの言葉こそが、総合的な探究の時間の内容を考える鍵になります。

たとえば教員が決めたテーマに従って生徒が探究し(例:環境)、そのテーマに沿った施設(例:大学の環境に関する研究室や科学センターなど)を訪問するという学習は、生徒が課題を解決することに重きをおいている総合的な学習の時間では否定されるものではありません。しかし課題発見に重きをおく総合的な探究の時間においては、「生徒が出会う人」「生徒の人生に大きな影響を与えるような体験」を考えることが重要になるのではないでしょうか。「出会いと原体験」が起こるような学習をデザインすることが重要なのです。もちろん生徒がそこで感動するだけでなく、その後自分でアクションを継続するなど次につながることが目標であることは言うまでもありません。

大正大学の浦崎太郎教授は、ご自身のブログの中で総学と総探の違いについて、「コペルニクス的転回とさえ言うことができる」と書かれています。重要な視点は生徒の自走性なのです。自分が解決したい課題に取り組むからこそ、生徒は自走します。浦崎教授は、こうした変革に対しては、もはや「是か否か」「するかしないか」ではなく、「実行して当然」「そのためにどうするか」という態度で臨むことが必要といえると書かれ、これが高校と地域の協働を進める上で、ぜひ肝に銘じていただきたい点であると締めくくられています。全く同じことを感じます。

新学習指導要領では、予測困難な時代だからこそ、自ら課題を見つけ、自ら学び、自ら考え、自ら判断して行動し、より良い社会や人生を切り拓いていく力を育てることが強調されています。より良い社会や人生を切り拓いていく力、それは生徒が解決したい課題に出会い、その課題解決を通じて育まれる力そのものです。こう考えると、この力を育てることは総合的な探究の時間でこそ達成できるのではないでしょうか。もちろんその土台にはキャリア教育があることも忘れてはいけないことでしょう。

ここまで総合的な探究の時間が、総合的な学習の時間とどう違うのか書いてきましたがいかがでしょうか。おそらく総合的な探究の時間の理解が新指導要領の理解を決めるようにも思います。そしてその土台はキャリア教育にあることも忘れてはいけないと思います。

次回はキャリア教育について、書きたいと思います。今期もよろしくお願いします。

酒井 淳平(さかい じゅんぺい)

立命館宇治中学校・高等学校 数学科教諭(高校3年学年主任・研究主任)
文科省から研究開発学校とWWLの指定を受けて、探究のカリキュラム作りに取り組んでいます。
キャリア教育と探究を核にしたカリキュラム作りに挑戦中です。

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