2022.03.31
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新学習指導要領が高校でも開始!~10年後の教育の姿を見据えて~

平成23年(2011年)11月に文部科学省が発行した「高等学校キャリア教育の手引き」をみると、この10年で教育が大きく変化したことがわかります。手引きには各教科等におけるキャリア教育の取り組み事例が掲載されています。掲載される事例はその時代における最先端のものです。10年あまり前の状況はどうだったかなあと思い、「総合的な学習の時間における取り組み」を見ました。みなさんはどんな事例が、当時の最先端として掲載されていたと思いますか。

立命館宇治中学校・高等学校 数学科教諭(高校3年学年主任・研究主任) 酒井 淳平

10年間での大きな変化

総合的な学習の時間の事例として掲載されていたのは、自己と社会の関りについて主体的に探究することを目標とした単元で、身近な社会の諸課題を探究して未来社会を創造するというものでした。具体的に例として示されたのは「都会か田舎、どちらが住みやすいのか」のディベートでした。

これを書いているのは2021年度末、新学習指導要領開始直前です。2021年度の感覚でこの事例を見ると、これは最先端でもなくどこでもやっていることであり、最先端という感じはしません。今では高校生が地域の方と一緒に何か企画をするなど、高校生が街の活性化をするような取り組みが急速に広がっています。つまり自己と社会の関りについて主体的に探究するというテーマは変わっていないとしても、10年前のように提案して終わりではなく、何かを実行するレベルまで探究することが多くの学校で実践されているのです。教育を実践する立場として、10年前の最先端が、今は普通の取り組みになっているという事実は忘れてはいけないことだと思います。同時に、実践が進化している背景には10年前にしっかり「(生徒が)社会と自己の関りについて主体的に探究する」という考え方が提示されていたことがあります。未来を見据えた考え方があれば、その時代にはできなかったことも少しずつ実践できるようになっていくのです。

ここからの10年を見通す

私事になりますが、学びの場.comで連載を始めさせていただいたのは2013年度でした。途中何度も休憩を挟みながら続けさせてもらいましたが、連載としては今回がラストになります。結果的に現在の学習指導要領実施の期間に連載をさせていただいたことになります。改めてふりかえると、キャリア教育から始め、アクティブラーニング、探究と執筆テーマは少しずつ変化しています。しかしこの間ずっと大切にしてきたのは「生徒の内発的動機」であり、「生徒がお客さまではなく生産者として価値を産み出すこと」でした。キャリア教育も探究もアクティブラーニングも、これを形にするものとしてとらえてきました。STEAM教育も同じです。

OECDがEducation2030を発表し、新学習指導要領が始まるので、その時々にスポットが当たる言葉は変わるでしょうし、10年もたてば実践も進化していると思います。みなさんはここからの10年、どんな実践が重要になると思いますか。そして、どんな実践に取り組みたいですか。そして教育実践に流行りはあるのかもしれませんが、教育の目的が生徒の社会的自立であり、生徒がしっかり自分の人生を歩んでいけるようになること、これは時代を越えて変わらないことです。10年後にも大事にされる考え方にはどんなものがあると思いますか。

未来という作品の観客は新しい時代の子どもたち

未来を「予測」する最良の方法は、それを「発明」することである。「パーソナル・コンピュータの父」と呼ばれるアラン・ケイの言葉です。この言葉について、多摩大学大学院名誉教授・田坂広志さんのメールマガジン「風の便り」の内容を紹介します[五季 第79便(2021年4月9日)]。
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もし、「未来」というものが、我々が主体的に「発明」していくものであり、我々が能動的に「創造」していくものであるならば、「未来」とは、我々の残す「作品」に他ならない。そして、もし、それが、我々の残す「作品」であるならば、その「作品」の「観客」とは、我々にとっての「未来」を「過去」として眺める新しい時代の子供たちに他ならない。
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未来が私たちの残す作品だとしたときに、その観客は未来を過去として眺める新しい時代の子どもたちに他ならないのです。おそらく約10年後に、新学習指導要領1期生の生徒たちは社会人になり、そのときに次の学習指導要領が始まるでしょう。未来もあっという間に過去になるのです。10年後社会に出た高校生たちがどんな姿になっているのか、その姿を考えるときに学校の持つ可能性が大きいことに気づきます。そしてこの変化の激しい時代に教育に関われることの責任感と同時に、そのありがたさにも気づきます。

新学習指導要領という舞台で、どんな作品が残せるのか。それを観客はどのように受け止めるか。それを決めるのは私たち次第なのです。みんなで作っていく機会を与えてもらっていることに感謝しながら、そして10年後にどんな景色になっているのかを楽しみにしながら連載を終えたいと思います。長い間ありがとうございました。

酒井 淳平(さかい じゅんぺい)

立命館宇治中学校・高等学校 数学科教諭(高校3年学年主任・研究主任)
文科省から研究開発学校とWWLの指定を受けて、探究のカリキュラム作りに取り組んでいます。
キャリア教育と探究を核にしたカリキュラム作りに挑戦中です。

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