2018.07.03
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道徳一年生(NO.6「演じることを通して感情を味わわせよう!」)

特定非営利活動法人TISEC 理事 荒畑 美貴子

 これまで、道徳を学習するにあたって、子ども達が場面を捉えることや感情の動きを把握することが大切であることに触れてきました。今回は、感情の把握の方法に焦点を当てて考えてみたいと思います。

 相手のみならず自分自身の感情に気付いたりイメージしたりすることは、人との関わりを作っていく上で欠かすことができません。しかし、子ども達の感情は未分化で未発達です。例えば泣いている子どもに向かって大人が、「悔しいよね」と励ましているときの言葉と実際の感情が、必ずしも一致しているとは限らないのです。子どもは悲しくて泣いているのか、悔しかったから泣けてきたのか、その辺りを言葉で表現することは難しいのです。もやもやした嫌な気持ちという捉え方しか、できていないかもしれません。ですから、まず感情に名前を付けて、共通の言葉で感情を扱うことができるようにする必要があるといえます。

また、感情を分化させていき、その多様性に気付かせていくことも必要です。ワクワクするような高揚感を、「楽しい」と表現すべきなのか、「嬉しい」と表現する方がふさわしいのか、そのひとつひとつに気付かせていくのです。

 ポジティブな感情はまだしも、相手のネガティブな感情を全く理解できないとすれば摩擦の原因にもなりかねません。相手が悲しいのか苦しいのか、それとも悔しいのか、許せない気持ちでいるのか、そういったことをイメージできないとトラブルが大きくなってしまいます。


 では、感情に名前を付けたり、感情の複雑さをイメージしたりするための、効果的な方法はあるのでしょうか。私は道徳の授業の中に、感情そのものを扱うチャンスがあると考えています。そして、最も有効な手段は、演じさせることです。それも、両者の立場を、全員に体験させるような方法をとることを考えてほしいと思っています。代表の児童が演じるのを見ることによって、場面をよりリアルに捉えることはできるでしょうが、自分自身も演じてみなければ、その場の感情を理解するのが難しい子どももいます。また、体験して初めて、予想していたものと違ったものを感じ取ることができるのです。

 ひとつの教材を例に考えてみましょう。低学年で用いられる教材に「およげないりすさん」(文部科学省「わたしたちの道徳」1・2年)があります。その最初の部分を書き抜いてみます。

 『池のほとりで、あひるさんと かめさんと 白鳥さんが、池の中の しまへ行って、あそぶそうだんを していました。

 そこへ、りすさんが やって来ました。

「ぼくもいっしょに つれていって。」

 と、みんなに たのみました。

 すると、みんなが 言いました。

「りすさんは、およげないから、だめ。」

 そしてみんなは、すうっと池に入ると、しまの方へ およいでいってしまいました。』

 ここに登場するのは、あひるとかめ、白鳥とりすの4人です。演じるときには、4人グループを作って、全員がそれぞれの役になれるように役割をローテーションさせながら演じさせます。つまり、全員がりすの役を演じ、「だめ」という言葉を浴びせられる体験ができるようにするのです。また、他の3人の役割では、大人数で一人に対して拒否をするという体験をさせることになります。

 教師が読み聞かせをしたり、友達が演じるのを見たりするだけでなく、実際にこの場面を体験することによって、感情は大きく揺すぶられます。その体験によって獲得できることは、とてつもなく大きいのです。

 この教材に類似した授業の実践を、学びの場の授業実践リポートでも公開していますので、ぜひ参考になさってください。(https://www.manabinoba.com/class_reports/015917.html


 子ども達は、体験を通して学ぶことが大好きです。座学からはイメージできないことも、しやすくなります。何より、国語や算数が苦手だと思っている子ども達が、道徳の授業中にキラキラと輝き出すのです。私は、そんな子どもの姿を数多く見てきました。楽しい道徳の授業を積み重ねることは、子ども達の自己肯定感を高める一助にもなりうると信じています。

荒畑 美貴子(あらはた みきこ)

特定非営利活動法人TISEC 理事
NPO法人を立ち上げ、若手教師の育成と、発達障害などを抱えている子どもたちの支援を行っています。http://www.tisec-yunagi.com

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