2018.08.08
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道徳一年生(NO.8 「道徳的な行為に高めるために」)

特定非営利活動法人TISEC 理事 荒畑 美貴子

 子どもたちと関わっていると、なぜそんなことをしてしまうのかなと思うことがたびたびあります。友達に意地悪なことをしてはいけないとわかっているはずなのに、ついついやってしまいます。道徳の研究を続けていらっしゃる先輩教師が、「道徳というのは、わかっているけど思うようにならない自分と向き合うことが大切だ」とおっしゃっていました。確かにそういう側面があるのだろうと痛感します。

 では、どうしたら自分が納得してから行動に移すことができるようになるのでしょうか。そもそも人は、本当に正しい判断をするための感覚や知識を、生まれながらにもっているものなのでしょうか。


 子どもたちに対して何が正しいのかを教えようと思うと、大人は言って聞かせようとします。言うまでもなく、人は人と関わって生きなければならず、社会や自然とも関わらねばなりません。だから、それらと関わりながら暮らすには、バランスを取ることや、相手を尊重することが大切です。そして、これらのことを子どもたちに言って聞かせることは、とても簡単なように見えます。一度言ってわからなければ、毎日でも伝えることが肝要でしょう。しかし、お題目のように唱えてみたところで、成果が上がらないだろうということを、私たちは知っています。

 では、教えることが全てダメなのかというと、そうではありません。社会の中で生きていくためには、教えることも必要です。命の危険に関わることや、ルールやマナーを守ることは、言葉できちんと教えるべきです。

 それから、大人が手本を見せることも、とても大切です。背中を見て育つという言葉があるように、子どもが人の言動を模倣することで学び取る量は、とてつもなく大きいと思います。言い換えれば、悪い行為であっても、真似をして覚えてしまうということです。ですから、子どもの傍にいる親や教師が、子どもの手本となり得るような言動を心がけ、子どもから尊敬されるような存在とならなければなりません。

 そして、教えられたり真似たりしたことによって学んだことを深めたり、視野を広げたり、未知なることを学び取ったりするために、教育があるのだろうと思います。子どもたちが主体的に学ぶことを通して、価値を形成していくことを助けていくための教育が必要となるのです。


 従来型の教育をいかに改革していくかについては、新学習指導要領にも示されていますし、改訂にあたっての考え方も様々な研究者によって解説されていますので、ぜひ紐解いてみてください。私はそれに重複する内容ではなく、就学前から心がけていくこと、小学校に入学してからも引き継いていくべき子どもへの接し方についてお伝えしようと思います。

 まず大切なことは、いいことをしたという経験と、それがよかったという気持ちを一致させていくことです。言い換えれば、悪いことをすると気分が悪いという経験を確認していくことでもあります。しかし、まれにではありますが、子どもの周囲にいる大人が、自分の気分で褒めたり叱ったりすることがあります。そうなると、子どもの中に、いいことをしても気分が悪くなることもあるといった、逆転した経験が積み重なっていくことになります。ですから、いいことをすると心が温かくなる、温かなエネルギーによって包まれるような気がするといった感覚を育てていくことこそが、最も大切なのです。

 もちろん、人の行為というのは、善悪だけの判断で単純に決められるものではありません。ある道徳の教科書に、骨折した子どもに対して、クラスメイトはあらゆることを手伝ってしまうけれど、本人は自分のできることはやりたいと思っているのだという話があります。優しさや思いやりは、押し売りではなくて、相手の気持ちを尊重した上に成り立ちます。いいことをすれば褒められるというのは、あくまでも土台であって、そこに自分で判断していく力を育んでいかなければならないのです。

 道徳の授業などにおいて、子どもたちが教材の中の登場人物の考えを知ることでシチュエーションを広げたり、対話の中から新たな考えを知ったり深めたりできるように、そして自分で判断してやってみることが、相手にも自分にも温かなエネルギーをもたらすことになるのだという経験を重ねていくことができるように、これからも研鑽を続けていこうと思います。

荒畑 美貴子(あらはた みきこ)

特定非営利活動法人TISEC 理事
NPO法人を立ち上げ、若手教師の育成と、発達障害などを抱えている子どもたちの支援を行っています。http://www.tisec-yunagi.com

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