2018.06.14
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道徳一年生(NO.5「様々な場面を疑似体験させていこう!」)

特定非営利活動法人TISEC 理事 荒畑 美貴子

 これまで、道徳の授業の中で、子ども達に短時間で読み取りをさせていくときには、指導法のユニバーサルデザイン化を行い、個のニーズに応じた支援をしていく必要があることをお伝えしてきました。道徳では、場面を理解することと登場人物の心情を理解することが、学習の前提となるからです。そしてその理解の上に、自分で考えたり友達と意見を交換したりして、価値観を構築していく必要があるからです。

 道徳の教科書に、数多くの場面が扱われているのは、より多彩な場面を学習することで、道徳的価値を獲得していってほしいという願いの表れだろうと思います。例えば、地域によっては電車に乗る機会が少ない子ども達もいると思いますが、駅の場面が出てくる教材を扱わないでいいということではありません。一生涯に渡って電車に乗らないわけではないからです。身近な人が亡くなるような場面を扱った教材であっても同様です。自分たちの暮らす地域では、絶対に地震は起きないと言い切ることはできないのですから、震災関連の教材も扱っていく必要があるでしょう。もちろん、これは一般論であって、地域の特徴に沿った教材を選んでいく必要性があることも、付け加えておきたいと思います。

 児童文学作家の石井桃子さんは、「おとなになってから、老人になってから、あなたを支えてくれるのは子ども時代の『あなた』です」とおっしゃっています。(「石井桃子のことば」新潮社)子ども時代に多くの体験をすることが、後の人生を支えていくことを考えれば、実体験はできなくても、教材を通して学ぶことは、とても価値のあることだといえます。学校での学びは、人生という舞台に立つための、練習の場であるからです。 

 とはいえ、身近なところにその場面がない場合もあります。そこで、疑似体験をよりよいものにしていくための工夫を考えていってほしいと思います。

【映像資料を活用する】 

 6年生の道徳の教科書(光村図書出版)に、チョコレートの開発を担当している方の話が掲載されています。それによると、カカオ豆を生産している中南米や西アフリカ、東南アジアなどの暮らしは豊かとはいえず、生産者の中にはチョコレートを食べたことのない人も多いとありました。日本では、スーパーでもコンビニエンスストアでも、たくさんの種類のチョコレートが並んでいて、食べようと思えば手に入りやすい環境にあります。しかし、カカオ豆を生産している国のことを、知らない人が多いのだろうなと感じました。私自身も、そういったことを耳にしたのは初めてでした。

 そこで、検索してみると、実際の映像を見ることができました。文字で読むだけではなく、映像を見ると大人でもわかりやすいと思いました。(参考;https://entabe.jp/news/article/5328)

 これは一例にすぎません。必要に応じて映像資料を活用していってください。

【体験を聞く】

 私には三人の子どもがおりますが、長男だけは修学旅行で広島を訪ねました。下の子ども達は、予算の関係で関西方面の旅行だけになってしまい、とても残念だと思ったことを思い出します。と申しますのは、日頃から口数の少ない長男が、原爆の語り部さんから伺った話が、一番心に残ったと教えてくれたからです。もちろん、写真や映像で原爆の知識を得ていたと思いますが、実際に被曝した方の言葉は、何よりも重かったのだろうと思いました。

 同様のことが、私の教師生活の中にもありました。ずいぶん前に、八王子の空襲を体験された方から、子ども達と一緒に話を聞いたことがあります。被災当時、小学2〜3年生だったというその方は、幼い弟の手を引いて、市内の中心から逃げたそうです。そのとき、目の前を歩いていた男性の頭に爆弾が当たったということでした。その男性が、「痛いよー、痛いよー」と何度も言うのですが、子どもには、何もできることはなかった。でも、そのときの声を忘れることはできないということでした。

 体験された方の言葉から、子ども達は多くのことを感じ取ることができます。機会を作っていくことができればいいと思います。

【見学のチャンスを生かす】

 社会科見学や生活科見学などの機会を捉え、体験を意識付けしていくことも大切です。普段は使うことのない電車やバスを利用したときのマナー、車内や駅の様子、見学場所で気を付けることなどの学習を通して、道徳で学んだことを実体験に活かしているのだという意識をもたせましょう。

【他教科と関連付ける】

 国語での読み取り、社会や理科での学習などを通して、場面をイメージしやすくなるように働きかけていくことも必要です。教科の学習に道徳的価値が入り込むだけではなく、他教科での学びが道徳の授業にも流れ込んでいくように、双方向の繋がりを考えていくことができればと思います。

 終わりに、最近の体験を少しお伝えします。先日、算数の苦手な子どもたちを相手に、授業を行って公開しました。多くの方に見せる授業を成立させるためには、一歩一歩階段を上らせるような支援を必要としました。そしてこの支援は、とても言葉に言い表しきれるものではありませんでした。

 教育のユニバーサルデザイン化とか、個の教育的ニーズに応えるといった使命を教師は負っています。今後、ますます重要視される教師の資質になっていくでしょう。ただ、忘れてはいけないのは、その答えを子ども達から貰うということです。子どもの実態に応じることなく、ユニバーサルデザイン化も支援もないのです。

 親しい若手教師が、「若手にはスキルが少ないから、ついつい子どもに厳しくなってしまう。他にどうしたらいいのかわからないときがある」という話をしてくれました。支援の幅を広げるためには、経験がものをいいます。でも、どのような方法があるのかを知っていれば、試してみようというチャンスも訪れるのだろうと思います。

 私が書いていること以外にも、支援の方法はたくさんあります。ぜひ、学び続けていってほしいと思います。

荒畑 美貴子(あらはた みきこ)

特定非営利活動法人TISEC 理事
NPO法人を立ち上げ、若手教師の育成と、発達障害などを抱えている子どもたちの支援を行っています。http://www.tisec-yunagi.com

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