2023.12.14
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「君たちはどう生きるか」を問い続ける道徳教育「一歩踏み込んだ直感をいかすために」(NO.8)

前回、直感にはふたつの側面があり、インスピレーションを自分の視点からの解決策、イントゥイションを俯瞰的な視点から見た「自分にも、相手にも環境にもいい」解決策という分類を試みました。
なぜ、私が直感をふたつに分けようとこだわっているのかというと、子どもたちの様子を見ていて、もう一歩踏み込んだ考えをもってほしいと思う場面に出会うことが度々あるからです。その例をお伝えしながら、イントゥイションの大切さに気づいていただけたら嬉しいです。

特定非営利活動法人TISEC 理事 荒畑 美貴子

「あの子には、寂しい気持ちはないよ」

以前、クラス替えがあって親しい友達とクラスが別々になってしまったAさんと出会いました。Aさんは、いつも何かに怒っているようで、度々棘のある反応を見せていました。弱い気持ちを見せまいと、肩肘を張っているのではないかと心配しました。

そんな中、Aさんの友達に、「Aさんは、あなたたちと離れてしまったから寂しいんじゃないのかな」と声を聞いてみたことがあります。「すると、「あの子は寂しいという気持ちのない子だよ」と言い返されてしまいました。子どもたちは、良くも悪くも、言動の表面に見えるものから人を判断するものだなと驚きました。その結果、Aさんは友達とも疎遠になって、ますます孤独感を深めていったように見えました。

実はAさんは、家庭でも問題を抱えていたようで、その不安から不本意な表現をしていたのかもしれません。もちろん、同じ年代の子どもたちは教師とは異なりますので、個人的な情報は本人の口から語られることが全てです。そうであっても、高学年になり、中学生、高校生と進むに従って、友達が奥底にもっている思いに近づく努力をしていってほしいものです。自分から優しい言葉をかけることで、相手も優しさを見せることができるかもしれないからです。

骨折している友達への対応をめぐって

学校生活の中では、ごくたまに友達が骨折することがあります。腕を骨折した場合には、荷物を持ってあげたり給食の配膳を手伝ったりすることが可能です。足の骨折だと、荷物の持ち運び以外にも、本人の移動への手助けも必要になります。階段の移動は危険を伴うので教職員が対応する必要がありますが、教師が全ての支援をすることは困難なので、子どもたちの手伝いはありがたいと思います。

しかし、骨折している本人の気持ちをよそに、自分の思い込みだけで手伝おうとする子どももいます。親切心から手伝っているのですから、非難するようなことではないのですが、怪我をした本人が自分でもできるころはやろうと思っているときにはトラブルが起きることもあります。 

つまり、「怪我をしている友達に、こんな手伝いが必要だな」というインスピレーションは大切であっても、「自分にもいい、相手にもいい」という視点のイントゥイションを得られていないのです。相手が何を望んでいるのかにも、目を向けられるといいと思います。

「相手に聞いてみる」ことの大切さ

もし、相手の立場や気持ちをイメージできず、自分の視点からしか物事を判断できずにトラブルを起こしがちであるならば、質問をすることが解決の糸口になるかもしれません。相手にどうしてほしいのか、困っていることは何なのかを聞き出すのです。

しかし、質問する際には、相手が心を開いて話をしてくれることなど、二者の間に土台となる信頼関係がないとうまくいきません。

一方、相手に質問されるまで本人が黙っているというのも考えものです。もし困っているなら、自分から伝える勇気も必要なのです。こんなふうに助けてほしい、話を聞いてほしい、仲良くしてほしいなどの気持ちを伝えることも大切だということを、学んでいってほしいと思います。

「自分にもいい、相手にもいい」関係を作るための黄金律

以下に書くことは、子どもたちがすぐに身につけられるものではありませんが、ゴールをはっきりさせることで指導の方向性が見えるのではないかと考え、お伝えします。

ひとつめは、自分から相手に働きかけるときには、相手の気持ちや考えを尊重することです。相手が自分と異なる考えをもっていて、それがよい方法だとは思えない場合でさえ、強い意見で相手をねじ伏せるようなことは控えるべきなのです。ただ、それが相手の命など重大なことに関わる場合には、伝えたことでどのような反応があるのかを十分に想定し、対応策を準備しておく必要があります。

ふたつめは、自分が何を伝えれば、相手が正しいことがらを見つけ出せるようになるのかを考えることです。正論を押し付けるのではなく、自分で最善策を見出せるように仕向けるのです。しかし、自分が十分に考えてから伝えたとしても、相手が自分の思うような選択をしないこともあります。それは、相手の決めたことなので、尊重すればいいのです。もし、相手が考えを改めずに失敗することになったとしても、それは相手の学びに繋がるのだと考えていきましょう。

荒畑 美貴子(あらはた みきこ)

特定非営利活動法人TISEC 理事
NPO法人を立ち上げ、若手教師の育成と、発達障害などを抱えている子どもたちの支援を行っています。http://www.tisec-yunagi.com

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