「君たちはどう生きるか」を問い続ける道徳教育~言動に移す勇気を支えるために~(NO.9)
前回まで、「自分にもいい、相手にもいい」関係をつくったり維持したりするためには、場面に応じて相手の気持ちや立場をイメージし、インスピレーションやイントゥイションを得ることが重要であるという話をしてきました。
しかし、一生懸命に考えたとしても、それを言動に移すことがなければ意味がありません。相手が困っているときに何もせず、時間を置いてから、「実はあのとき助けてあげようと思っていた」と言い訳しても後の祭りです。関係を修復するために、思った以上の時間とエネルギーが必要になるでしょう。そうならないために、子どもたちにどのような力を付ければいいのかについて、お伝えしていこうと思います。
特定非営利活動法人TISEC 理事 荒畑 美貴子
言動に移す練習をさせる
ソーシャルスキルトレーニングは、言動を取るためのトレーニングとして、とても優れています。一度練習しておくと実生活に反映しやすくなりますし、子どもたちがコツを知ることで自信がつきます。
感謝の伝え方、謝り方、頼み方、質問の仕方などの基本を身に付けるだけであっても十分ですし、道徳の教材を学ぶ中で、簡単に取り上げられそうなものから取り組んでいただいても構いません。
これまで、このコーナーでもソーシャルスキルを具体的にご紹介してきましたので、ぜひ参考になさってください。
好ましい言動の取り方を習慣化させる
私たちは、たとえソーシャルスキルトレーニングを数回受けたとしても、それをいちいち思い出しながら話したり行動したりしていることはありません。好ましいと思う言動を繰り返すことで慣れていきます。そして、次第にリラックスして関わることができるようになっていくのです。つまり、関わり方を知識ではなく、「能力」として身につけていくということです。自転車の乗り方を一度覚えると、ずっと乗ることができるように、能力として身につけたものは生涯を乗り切っていく力になります。
ですから私は、「習慣化」というのは、生きていく上でとても大切なキーワードだと思っています。「おはよう」と挨拶することも、誰かに親切にされたときに「ありがとう」と返すことも、身の回りのことを整えることであったとしても、習慣化できれば無意識でできるようになっていくからです。そのために、周囲の大人が上手くできたときには褒めたり認めたりすることが大切なのではないでしょうか。子どもたちのモチベーションを維持するのは、自分も価値ある人間だと感じられる応援だと思うのです。
誰もがソーシャルスキルを学び続けていることを知らせる
子どもたちは、友達と仲良くなりたいと思っていますし、自分らしくありたいとか自分自身をよりよくしたいとも思っています。しかし、ときには失敗することもあり、心が折れそうになることさえあります。そうすると、投げやりな気持ちが湧いてくるのも当然です。そんなとき、問題解決のための手法を教えるだけではなく、大人であっても苦労していることを伝えることも必要だと思っています。
つまるところ、ソーシャルスキルとかコミュニケーションの能力というのは、大人になれば完璧にできるようになるという類のものではありません。大人であっても人との関わり方に悩み、スキルを磨き続けているのだろうと思います。大人も、スキルを磨くということに関しては、子どもと同じ道を歩んでいるということです。
先日、自分が関わりの中で苦しんだ経験を伝えた手紙を、3年生になったかつての教え子に送りました。すると、次のような返事がありました。
「先生の手紙を読んでびっくりしました。大人なのに苦労していて、それでも仕事を頑張っていることを知ったからです。ぼくは、大人になったら先生になります。そうしたら今度はぼくが助けます」
この子どもは、関わり方が得意な方ではなく、また環境に慣れるのにも時間がかかるようなタイプでした。それで、私の近況を知らせる中に、大人も君の仲間であり、みんな苦労しながら頑張っているということを伝えてみたのです。思いもかけない返事に、涙がこぼれました。教師も悪くないなと思える年末になりました。

荒畑 美貴子(あらはた みきこ)
特定非営利活動法人TISEC 理事
NPO法人を立ち上げ、若手教師の育成と、発達障害などを抱えている子どもたちの支援を行っています。http://www.tisec-yunagi.com
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