「君たちはどう生きるか」を問い続ける道徳教育~読み物教材は疑似体験の場~(NO.4)
私たちは、人とかかわり、社会とかかわり、そして自然とかかわって生きています。その中でルールやマナーを守ることを求められ、「自分にもいい、相手にもいい」、Win-winな関係を作ることができるように何かを言ったり行動したりしているといえます。その際、お互いの都合が良ければいいというのではなく、倫理的に正しいことをすべきであることはいうまでもありません。その場にふさわしい決断や判断を行い、それを言動で表現することを通して、「君たちはどう生きるか」を問われ続けているのです。
そうはいっても、このような生き方を完璧にできる人はいません。子どもたちは発達に応じてスキルを身につけていかなければなりませんし、大人であっても年齢や経験を重ねながら技を磨き続けなければならないのです。
特定非営利活動法人TISEC 理事 荒畑 美貴子
道徳の読み物教材は、疑似体験の「場」
上述したことを言い換えると、学校は人生へと続く予備校であり、練習の場であるともいえます。ですから、道徳の読み物の中に表現されている「場」を活用して擬似体験させ、スキルを磨いていくことも大切なことなのです。様々な「場」を敢えて用意するのではなく、道徳の教科書を上手に使っていくという考え方をもって、授業に臨まれてはいかがでしょうか。
ところで、そんな話をしていたところ、教師をしている知人から、「読み物教材の中には具体的な地名が出ていることがあるし、地域柄イメージしにくいこともあるのだけれど、そういった場合はどうしたらいいのか」という質問を受けました。
例えば、私は都内在住なので、毎朝ラッシュアワーに電車通勤しています。しかし、生まれ故郷の福島のほとんどの人は、滅多に電車には乗りません。自家用車で通勤するか、バスを使うことがほとんどなのです。ですから、大人であってもラッシュアワーの電車をイメージするのは難しいものがあります。もちろん、ニュースなどで流れる画像から、混雑する車内がどのようなものであるかを想像することはできるでしょう。しかし、周囲の人たちとの距離が近すぎる辛さや、配慮なく押される力の強さを実感することは難しいでしょう。
この例以外にも、読み物教材の内容によっては、子どもたちにイメージさせにくいことがあります。特に外国の話は、文化や習慣などの理解なしに読み取るのは困難です。そうであるならば、その教材全てを、実生活に即したものに代えてもいいかというと、私は違うと思います。そもそも、偉人の話や童話が素材の話などは実体験することはできないのですから、それらも含めて代えていこうとしたらきりがないし、教育の意味がなくなってしまうでしょう。
つまり、どんな設定であっても、読み物教材の場をイメージしたり、登場人物の心情を想像したりすることは必要なのです。イメージしにくいのであれば、演技をさせたり、画像を使ったりして補うことも可能です。そういった工夫をしながら、様々な「場」を疑似体験させ、実生活に結びつく通路を増やしていく必要があるのです。
イメージする力(想像力)を育てる必要性
先日の研究会で、道徳の授業では教材の内容を一度の判読で理解しなければならないから、読み方には工夫が必要であるという話を聞きました。確かにその通りなのですが、私は日頃から子どもたちのイメージ力をアップさせていくことも大切なのではないかと考えています。その理由を、イメージ力の特性から考えてみましょう。
私たちが誰かの話を聞いた際に、全く同じ内容を把握するわけではないということは、経験上ご理解いただけると思います。例えば、「机を教室の後側に運びましょう」と言われたとき、多くの人は同じように聞き取り、運ぶことができるかもしれません。しかし、普段から担任に同様に指示されている子どもたちであれば、どのように運ぶのか、どのように並べるのか、担任は何を要求しているのか、次にどのようなことが待ち受けているのかさえも理解できるのです。つまり、イメージする力というのは、経験に裏付けられているのです。
もうひとつ、短い指示ではなく、長い話を聞き続けたときの受け取り方についても考えてみましょう。もし、その長い話に興味がなく、ぼーっとしていたり他のことを考えていたりしたら、話の内容は何も残らないかもしれません。しかし、それがとても面白い話で、主体的に話を聞き、話を受け取る度にイメージを広げていたとしたら、多くのものが心に残るのです。それは、読み物を読む際にも同様です。話を主体的な態度で受け取ろうとするか、意識を集中させずに聞き流してしまうかでは、大きな差ができてしまうのです。
私たち教師が、子どものイメージする力を伸ばす必要があると考える理由は、授業や学習のあらゆる場面において同じようなことが起きているからです。
イメージする力を伸ばすための手法については、少し長くなるので次回につなげたいと思います。みなさんも、どのようにすればイメージする力を伸ばせるのかについて、ぜひ考えてみてください。
荒畑 美貴子(あらはた みきこ)
特定非営利活動法人TISEC 理事
NPO法人を立ち上げ、若手教師の育成と、発達障害などを抱えている子どもたちの支援を行っています。http://www.tisec-yunagi.com
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