「君たちはどう生きるか」を問い続ける道徳教育~イメージする力(想像力)を伸ばすための手立て~(No.5 )
前回、話を聞いたり読んだりしたときに、それが心に残る内容はひとそれぞれであり、イメージする力を伸ばすことが必要だとお伝えしました。そして、この力は、道徳の読み物教材を扱う際だけではなく、全ての学習において土台となっていく大切な力であることにも触れました。
特定非営利活動法人TISEC 理事 荒畑 美貴子
主体的に話を聞いてもらえるような話をする
では、どのようにしたら、子どもたちのイメージする力を伸ばすことができるのでしょうか。
学校にいると、目に見えにくい力を伸ばすことに意識を向ける教師は少ないように感じます。例えば、読み物を読み取らせるために教師の判読を工夫するといった話は聞きますが、判読を工夫すれば子どもたち全員が読み取ったり聞き取ったりできるわけではありません。日頃から、教師が意識して力を伸ばせるように育てていく必要があると思います。
お笑い芸人のように面白いという意味ではなく、子どもたちが「この人の話は面白い」と思わせるような話をすることは、主体的に話を聞く姿勢を育てます。授業であるならば、分かりやすい口調で、思考に沿った話を簡潔にしていくことです。子どもたちがイメージしやすいように、画像を使って補ったり、説明を加えたりすることも大切です。また、イメージを助けるような比喩を使うこともテクニックのひとつということができるでしょう。
ときどき、子どもたちの反応を耳にすることがあるのですが、教師の長い話は嫌われます。また、思考がばらばらになるような、一貫性のない話をする教師にも人気はありません。途中から何が本題なのか見えにくくなり、興味や関心を失ってしまうようです。
このような話を聞くと、教師の話術というのは、大きな資質のひとつだと考えさせられます。そして、自分自身も、子どもたちの興味や関心を惹きつけられるような話、興味や関心を持続できるような話ができるかどうかを、常に振り返らなければならないと思うのです。
ただ、話術そのものは、そう難しく捉えることはないのかもしれません。子どもたちは、自分を好きでいてくれるような、あるいは愛情をかけてくれるような教師に対しては、関心をもってくれるからです。人柄や子どもたちに対する姿勢も、問われるのだろうと感じています。
読書を楽しめる子どもを育てる
読み物を読んでイメージする力は、主に国語の授業を通して培われます。しかし、国語の教科書の読み物の数も、決して十分とはいえません。世界のできごとを疑似体験する早道は、読書が一番だと思います。
私は数年前に1年生の読書の授業で、司書の先生の読書への巧みな誘導を目の当たりにしました。こうやって読書好きにするのかと実感させたれた丁寧な指導法は、とても真似のできるものではありません。本に囲まれ、適切な指導を受けられる子どもたちは幸せだと思った記憶があります。
しかし、カリスマのような司書がいなくても、読書を好きにさせることは可能だと思います。まず、なんといっても読み聞かせをすることです。朝や帰りの会の数分間に、担任が読み聞かせをするというのは、とても貴重なことなのです。ひとつには、担任の声に慣れさせるということ、もうひとつは、読み聞かせを継続することで、耳から聞いたことを図や絵に変換する癖がつくということです。
道徳では、読み物教材を扱うといっても、読み取りに多くの時間を費やすことはできません。ですから、読み物の「場」や、登場人物の心情をイメージしやすくするためにも、読書好きな子どもに育てるのは、とても大切なのです。
ワクワク、ドキドキするような擬似体験をさせる
総合的な学習の時間や生活科、社会科や理科などでは、実際に見たり体験したりすることを通した学習が重視されますが、心の学習であっても体験はとても大切です。
例えば、悪意のある否定的な言葉を浴びせられるような場面を読み取ろうとする際、実際に言われてみたり、逆に言ってみたりせずにイメージすることは困難です。演技ができそうな場面では、役割を交代してロールプレイを取り入れることをお勧めします。そうすることによって、「嫌なことを言われるというのは、こうも辛い気持ちになるのか」とか、「意地悪な言葉を浴びせることは、気分のいい物ではないな」といった実感が湧くのです。もちろん、ポジティブな場面であっても同様です。
イメージする力というのは、言葉を知っているということではなく、そこに実感が伴うということでもあるのです。思いやりのある優しい言葉に命を吹き込むために、擬似体験も非常に大切です。

荒畑 美貴子(あらはた みきこ)
特定非営利活動法人TISEC 理事
NPO法人を立ち上げ、若手教師の育成と、発達障害などを抱えている子どもたちの支援を行っています。http://www.tisec-yunagi.com
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