「君たちはどう生きるか」を問い続ける道徳教育~多面的・多角的に考える力をつけるために(NO.6)
前回、子どもたちのイメージする力を伸ばすために、私たち教師がどのようなことを意識すべきかについてお話ししました。今回はそのつづきで、多面的・多角的に物事を捉えイメージする力を培うためには、どのような視点をもつべきかについてお伝えしていこうと思います。
特定非営利活動法人TISEC 理事 荒畑 美貴子
人それぞれの立場で考えてみる
「相手の立場にたって考えましょう」というのは簡単なことですが、人それぞれ考え方も感じ方も異なるものです。トラブルが起きたときに、友達はどう思ったのかを考えようとしても、思うようにはいきません。普段から、相手と自分の見方は違うことや、違うからこそ理解しようとしたり、その違いを尊重したりすることが大切であることを伝えていきたいものです。
もし、様々な視点や立場から物を考える練習をさせたいと思うなら、俯瞰的な図をかいてみせたり、関係図をかかせたりすることは有効です。常に自分が主人公であり、自分の視点から見る世界しかイメージできないようであると、相手の立場は到底理解できません。
また、「もし、自分だったらどうするか」を考えさせたり、「自分の親ならどうしたいと思うだろう」というように身近な人だったらどうするのかを考えさせたりするのも、イメージを広げる練習になります。
時間軸を変えて考えてみる
私たちは過去から現在、そして未来へと生きています。ですから、相手を理解しようとするなら、今の姿だけを捉えようとしても欠けた部分ができてしまいます。その人が生きてきた過去の経験、今の状況、そしてこのままであったなら未来はどうなっていくかという時間軸を変えた視点で、捉えられるようにしていくことが大切です。
それは、社会の変化や自然界の変容であっても同じです。過去から現在に至る経緯、そしてこれからどうしていくべきかという未来にも、イメージを広げていけるといいと思います。
子どもたちに、そういった視点をもたせるための手法は様々ありますが、時間軸に沿って書き出すことが最も簡単かもしれません。例えば、ある人の過去の経験をイメージして現在を考えると、いかに経験がものをいっているのかが分かってくるはずです。人は、経験を生かして生きているからです。
未来を想像させたいなら、フローチャートを作るのも面白い方法です。こういう道を選べば、おそらくこうなるだろうといったイメージを遊びながら考えることで、子どもたちは楽しみながら想像力を身につけることができるからです。
環境を変えて考えてみる
「泣いた赤鬼」を使って授業をしたとき、子どもたちの中から、「もっといいやり方があったのではないか」という声が上がりました。青鬼の行為を否定するわけではなく、青鬼も心地よく生きていける方法を探るべきだったのではないかという意見です。
しかし、人間と鬼の関係改善には、人間が鬼に対してもっているイメージを変える必要があります。それはとても難しいように見えますが、この話は物語の中に限定されることではありません。実生活でも誰かに対して差別的な思いで関わっていることもあり得るのです。ですから、人の意識を変え、優しい社会にすることによって、物事が上手くいくことがあるということにも気づかせていく必要があります。もし、人間が鬼の考えや生き方を尊重できたとすれば、この物語の展開は違ったものになったかもしれないのです。
壁にぶつかったときに、別の社会的環境、人的環境、あるいは自然環境だったらいいかもしれないと感じることができたら、自分たちができること明確になっていくでしょう。そういう視点でイメージすることも、道徳性を高める一助になると考えます。
荒畑 美貴子(あらはた みきこ)
特定非営利活動法人TISEC 理事
NPO法人を立ち上げ、若手教師の育成と、発達障害などを抱えている子どもたちの支援を行っています。http://www.tisec-yunagi.com
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