2023.09.09
  • twitter
  • facebook
  • はてなブックマーク
  • 印刷

「君たちはどう生きるか」を問い続ける道徳教育~教師の道徳性とは(NO.2 )

「特別の教科 道徳」となった学習指導要領の改訂の経緯にも触れられていましたが、私の先輩の世代の中には、歴史的経緯に影響されて、道徳教育そのものを毛嫌いする人もいます。だいぶ前にお世話になった方に、私が道徳に関わる仕事をしていると伝えると、戸惑っている様子が伝わってきたことさえありました。とても残念だなと思った記憶があります。

特定非営利活動法人TISEC 理事 荒畑 美貴子

世代に関わらず、道徳教育を忌避してしまう傾向はあるかもしれませんが、道徳教育は子どもの人生にとって必要なものです。一人一人が人生を楽しみ、豊かなものにするためには、道徳性は欠かせません。今回は、大人が自分自身の道徳性を振り返り、子どもの手本となることがいかに大切であるかについて、考えてみたいと思います。

ルールを守らせることと道徳性は違う

同僚の中には、子どもたちに細部にわたってルールを守らせようとしたり、マナーについて熱心に指導したりする人がいます。学校という大所帯の生活の場では、ルールをなくすわけにはいきませんし、マナーも必要です。しかし、常に子どもを見張っているような態度をとっていることと、道徳性が高いことは違うと思います。

古い話になりますが、私の母校の教師が「女性は体を冷やしてはいけないのに、なぜ冬であっても『短いソックスを履かなければならない』というルールを、変えようとはしないのですか?」と話してくれたことがありました。
それを聞いた生徒会は、ハイソックスを履いてもいいというルールに変え、この件に触発されて、制服の上着も胸元の開きの小さいデザインに変更するなどの活動を行ってくれました。つまり、ルールは心地よく生活するためにつくられるものであり、教師がつくったものを守らせようと目を光らせるものではないのです。

教師の姿勢が子どもの手本となっている

私が、児童数の少ない、家族のような雰囲気をもった学校に勤務していたときのことです。子どもたちは、校舎内の比較的離れた場所からであっても、私の姿を見ると声をかけてくれていました。また、日常的な会話を楽しもうと、側に寄ってきてくれることもありました。

そんな中、ひとりの同僚が、「なぜ、あなたは子どもに人気があるのですか?」と話しかけてきました。私には特別思い当たることがなかったので、曖昧な返事をしてしまいました。ところが、その後、子どもたちからこんな話を聞きました。その同僚は、子どもが授業開始の時刻に遅れると厳しく叱るのに、自分が遅れてきたときには何も言わないというのです。子どもたちの中には、その矛盾に対してイライラするものがあったようでした。子どもたちと親しくなりたいと思うなら、子どもの手本になるべきなのだろうと考えさせられた出来事でした。

もうひとつ、別の例をご紹介します。ある同僚のクラスの子どもが、いじめにあっているということで対応に追われました。しかし、原因を探ってみると、その同僚が対象の子どもに不適切な言動をとっていたことが分かってきました。例えば、「あなたは何度言っても、作文が書けないんですね」とクラス全員の前で叱るようなことが度々あったというのです。つまり、子どもたちは、担任の真似をして対象の子どもと関わっていたわけです。

このような例は、実はよく見られます。教師が誰に対しても優しく関わるようなクラスでは、子どもたちもそれを真似るので、穏やかな雰囲気のクラスになっていくのです。

教師として私たちはどうあるべきか

では、教師にとっての道徳性は何かというと、愛情をもって子どもにかかわるということに尽きると思います。それは猫かわいがりをするということではなく、子どもの心の奥にある思いを見極め、今何をすることが適切であるかを判断し、勇気をもって行動し続けることを意味します。何があったとしても感情をむき出しにするのではなく、沈着冷静に受け止め、適切な方法を考えようと努力することでもあります。

「そんな聖人君子のような生き方は、到底無理だ」と思う方がいるかもしれません。私も、そう思うこともありました。しかし、年齢を重ねるにしたがい、また学びを深めるにしたがって、それは言い訳だと思うようになりました。

子どもの前で批判的な言動をとると、そのネガティヴな波動は子どもの心の奥にまで届くといわれます。大人であれば、「この人は、批判ばかりするから、距離を置いて付き合おう」と考え、影響を避けることができるかもしれませんが、子どもは全身でその批判に含まれる嫌な雰囲気まで吸収してしまうというのです。それは、子どもの成長にも影響を与えかねません。

私たちがプロの意識をもって教師を続けようと思うなら、子どもたちとどう関わることが最もいいことなのかを、いつも考えるようにしていかなければならないと思うのです。私たち自身も、「君たちはどう生きるか」を問われ続けているからです。

荒畑 美貴子(あらはた みきこ)

特定非営利活動法人TISEC 理事
NPO法人を立ち上げ、若手教師の育成と、発達障害などを抱えている子どもたちの支援を行っています。http://www.tisec-yunagi.com

同じテーマの執筆者
  • 松井 恵子

    兵庫県公立小学校勤務

  • 松森 靖行

    大阪府公立小学校教諭

  • 鈴木 邦明

    帝京平成大学現代ライフ学部児童学科 講師

  • 川村幸久

    大阪市立堀江小学校 主幹教諭
    (大阪教育大学大学院 教育学研究科 保健体育 修士課程 2年)

  • 髙橋 三郎

    福生市立福生第七小学校 ことばの教室 主任教諭 博士(教育学)公認心理師 臨床発達心理士

ご意見・ご要望、お待ちしています!

この記事に対する皆様のご意見、ご要望をお寄せください。今後の記事制作の参考にさせていただきます。(なお個別・個人的なご質問・ご相談等に関してはお受けいたしかねます。)

pagetop