2023.02.27
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算数科の学習を通して「深い学び」を深く考える〜「汲み取る学び」(第2回)

相手の意見を聞き、それを受け入れているとき、子どもたちは深く学んでいると言えるでしょう。表現する相手がいるからこそ、聞き入れることができるのです。今回は、算数科2学年「図をつかって考えよう(2)」(啓林館)、6学年「図を使って考えよう」(啓林館)を例に挙げて、「深い学び」について深く考えていけたらと思います。

東京都品川区立学校 平野 正隆

汲み取る学びは「深い学び」

全ての子がうまく考えを表現できるわけではありません。だからこそ、相手は何を表現しようとしているのか、考えるわけです。そこに深い学びが生まれるのではないでしょうか。説明することを拒む子がいれば、ノートを見て、どう考えたのかを捉えてあげれば良いのです。「相手の考えを受け入れる」その第一歩は、理解することです。

算数科2学年「図をつかって考えよう(2)」(啓林館)

子どもが10人あそんでいました。そこへ2人来ました。また6人来ました。子どもは何人になりましたか。

本単元では、「まとめて考える」ことに着目して考えを進めていくことで、問題の数量を単純化して簡単に解決できるというよさに気付かせます。最初に10人いて、そこに「次に2人来た」「それから6人来た」という場合、2要素をまとめて「あとから8人来た」と考えることで、要素が減って処理しやすくなることを理解させるのです。

(  )を使った式を学習していない子にとって、その考え方を表現するには、2つの式に表すか、図や操作で表すか、言葉で説明するかです。うまく表現できないときほど汲み取る学びを生み出すチャンスです。

①洗練された表現を汲み取る

まずは、以下の考えをしている子で、表現が上手なものをそれぞれ選び、紹介します。
可能であれば、ノートをスクリーンに出して、かいた本人ではない子に説明させてもいいかもしれません。
その際は、発達段階や習熟度に充分配慮する必要があります。

・10+2=12  12+6=18(来た順ごとに足し算)

・2+6=8  10+8=18(2要素をまとめて足し算)

②式と操作・図の不一致を汲み取る

10+2+6=18と式を立てながらも、操作させたり、表した図を見たりすると、実際には2+6=8、10+8=18と、2要素をまとめて捉えている子がいます。この不一致を子どもに気付かせるのは、深い学びに導くチャンスです。説明させたあとに、全体に対して「誰の考え方と同じかな」と問うことで、その不一致に気付きやすくなるでしょう。

このチャンスを生かせば、子どもたちは自ら10+2=12、12+6=18と、来た順ごとに足し算しているのか、2+6=8、10+8=18と、2要素をまとめてから足し算しているのか、その解法の分類分けをし始めます。

③解き方を説明できない人の考えを汲み取る

前に出てみんなに図を指し示したり、操作をしたりしながら説明することに抵抗感がある場合、集団検討の後半でノートをスクリーンに出して「こんな図をかいた子がいるんだけど、この子はどうやって解いたのかな」「誰の考え方と同じかな」と問いかけるのが有効です。

算数科6学年「図を使って考えよう」(啓林館)

水そういっぱいに水を入れるのに、Aのじゃロを使うと10分、Bのじゃロを使うと15分、両方をいっしょに使うと、何分でいっぱいになりますか。

問題場面を図に表して、全体と部分の割合に着目し、解法を考える単元です。全体を1として、1分間にAは1/10、Bは1/15を満たすことができるので、両方使えば1/6になるから、1÷1/6で6分となります。

ここで、以下のように考えた子がいました。

図や式から違う考え方を汲み取る
水槽を30Lとした場合、Aは3L/分、Bは2L/分になります。両方使えば、3+2=5で5L/分です。30÷(3+2)=6となり、6分となります。ここで、その考えをした子にすぐに説明をさせるのではなく、図や式だけを提示して、どんな考えをしたのかを汲み取らせます。最初、子どもの表現は未熟ですが、こうした取組を続けることで、ただ問題を解くのではなく、自分の考えを他者に伝えることを意識した図や式になっていきます。また、汲み取った側は、表現の足りない部分に気付きます。こうして、表現力の向上へとつなげていくことができます。

まとめ

表現とは、自分の感情や思考を、他者に分かりやすく伝えることです。しかし、最初からそれがうまくできるわけではありません。繰り返しノートに図や式、言葉などを用いてかき表したり、それらを指し示しながら言葉で説明したりするなかで養われていくのが表現力です。他者が汲み取ってくれれば、安心して表現できるようになっていくと私は考えます。そして、そこに深い学びが生まれるのではないでしょうか。

平野 正隆(ひらの まさたか)

東京都品川区立学校


研究会での実践報告や校内での若手教員育成などの経験を通して、自分の経験や実践が広く皆様のお役に立てるのではないかと考えております。大人・子どもに関わらず、「明日から頑張れそうです」「明日が来るのが楽しみです」と言ってもらえるのが私の喜びです。

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