平和学習の取り組み~伝える フェーズ~(4)
今回は、4回にわたって紹介させていただいている「平和学習」の完結編です。
学習のまとめとして行った「伝えるフェーズ」での学習の様子を中心に記述させていただければと考えております。
明石市立鳥羽小学校 教諭 友弘 敬之
朝の気温が0度を下回る日もあるほどに、めっぽう寒くなりました。皆様の地域におかれましてはいかがでしょうか。
私の勤務先である明石市は中国山地や四国山地の影響もあり、比較的温暖な地域です。にもかかわらず、朝の通勤時は手袋にマフラー姿でもまだまだ寒い今日この頃です。
さて、今回は、前回に引き続き「平和学習」の様子を紹介させていただきます。最後の「伝える」というフェーズです。
「伝える」フェーズについて
本単元は、3つのフェーズで学習を設定してきました。それは「捉える」「広げる 深める」「伝える」です。その中で今回は「伝える」に位置付きます。そもそも「何を」伝えるのか? 「誰に」伝えるのか? 「どのように」伝えるのか? この3つの問いがこのフェーズの始まりです。
まず、「何を」伝えるのか?という問いについてです。伝える内容は、これ以前のフェーズで学習してきた「平和」についての学習内容です。しかし、それは「戦争」とイコールというわけではありません。国語科で読み広げてきたなかで考えた「平和」を軸に語ることもあるでしょう。また、修学旅行で見聞きしてきたことを軸に語ることもあるでしょう。そういったことをまとめて伝える内容としてデザインしてきました。
次に、「誰に」伝えるのか?という問いについてです。実は、この問いは今回の学習において大切な意味を持ちます。それは、伝える相手によって伝え方や伝える内容が変わるからです。本フェーズでは、国語科【話すこと・聞くこと】の「ア:目的や意図に応じて,日常生活の中から話題を決め,集めた材料を分類したり関係付けたりして,伝え合う内容を検討すること」と「ウ:資料を活用するなどして,自分の考えが伝わるように表現を工夫すること」を指導内容として位置付けました。まさに本単元は、伝える相手を選択し、その相手に会った話題を決めて内容を検討する国語科の学習そのものであると考えました。そこで、本フェーズでは「誰に伝えるのか?」を、子ども一人ひとりが選択できるようにデザインしたわけであります。
最後に、「どのように」伝えるのか?という問いについてです。これは、相手に応じた伝え方を工夫できるようにと企図してデザインしました。相手が決まって初めて伝え方の検討が始まるということです。
学習の実際
伝える単元の導入では、単元シートをもとに学習の見通しを立てました(図1)。今回は、学年で統一した指導法を用いたかったため、あらかじめ学習支援ツール(ロイロノート)内に制作方法の手引きを用意して、子どもたちに示すようにしました(図2)。導入後、「伝えたい相手」でチームをグルーピングし、その後はそのチームごとに学習を進めていくことになりました。結果的に家族や地域の方へのプレゼンが大半でした。しかし、低学年へ動画を使って伝えたり、家族へ音読劇をして伝えたりとチームのメンバーの良さを生かした伝え方を検討する様子も見られました。
学習中は、用意した手引きを見ながらチーム内で対話し、どんどんと学習を深めていく様子がどのクラスからも伝わってきました。6時間ほど製作時間が過ぎた後、それぞれのチームの発表を相互評価しあう時間を設けました。相互評価では、「もう少しイラストを大きくすると見やすいと思う!」「伝える声の大きさがちょうどよくてわかりやすかった。」と、的を射たやり取りが多く、充実した時間となっているように感じました。
平和学習発表会

いよいよ単元の締めくくり「平和学習発表会」がやってきました。当日は保護者だけではなく、地域の方々や学校運営協議会の方々もお招きして全クラスの発表の中から興味のあるテーマを選択して聞き合えるようにしました。発表会後、引き続き保護者や地域の方々と対話する時間を設定しました。対話の内容は「平和」についてです。対話が始まった時こそ緊張感がありましたが、それぞれが感想を述べ合った後からはざっくばらんに地域の方々と対話する姿に子どもたちの力強さを感じました(図3)。この会のふり返りをいくつか紹介します。
「平和について長い時間学んで来た事を、それぞれ工夫しながら発表していて、とても聞き応えがありました。 原爆が原因でその後遺症の白血病で亡くなった女の子の話が、ちょうど子どもたちと同じ年頃で、自分の事のように考えられてたんだなと思いました。(地域の方)」
「戦争は政治的な国同士の争い、という表現ができるほどに学びを深められていることに感心しました。 では、戦争をすることを決めているのは誰なのか、その人を選んでいるのは誰なのか、ということに今後学びが続き、政治参画も自分事にしていってもらえばいいな、と思いました。こども達のこれからに期待しています。(地域の方)」
「最初は恐ろしい自分は人に平和のことを説明できないと思っていたけど、自分の思いが変わり平和の大切さを知ることができて良かったと思いました。(6年児)」
単元テスト
この単元はパフォーマンス型のテストを用意しました。それは、「自分の好きなことか好きな食べ物を 家族・友達・1年生へ伝えるプレゼンを作る」という課題です。どの子も一生懸命に取り組み最後まで記述しきる様子が見られました(図4)。このパフォーマンス課題は後日、学年団でのルーブリックづくりに活用していこうと考えています※①。
単元テストを課したのは、それぞれの学び方を知るためです。チームでの学習はややもすれば活動的な子だけに学びが限定されがちです。そこで、どの子も学びに入れる手だての一つとしてパフォーマンス課題を課したわけです。今後は、この課題が本単元のパフォーマンス課題としてふさわしかったのかどうかという点についても学年で検討していく必要があると考えています。
※①ルーブリックはパフォーマンスの成果を評価するための指標であります。これはテストに点をつけるための指標ではなく、教師の「評価する目」を鍛えるための指標です。ですので、少しまとまった時間が取れる時に担任3人で全部のパフォーマンスを見て、それぞれ「A・B・C」をつけます。そこから、お互いがつけた評価のずれについて対話することで「評価の目」を養っていくわけです。
カリキュラム評価
本カリキュラムの成果と課題を端的に述べます。
〇チームだけで対話が進んだ点…今回は「手引き」を丁寧に作成し提示したことで子どもたちが活動の見通しを立てやすく、混乱することなく学習に取り組めた。
〇つけたい力を整理してカリキュラムマネジメントできた点…本単元は3フェーズに分けてそれぞれにつけたい力を位置付けました。普段の教育活動の一部としてそれぞれの学習を位置付けられたことで、教科の学習の負担となることなく実施することができました。
〇地域の方々を巻き込んで、ともに学びを共有できた点…学校運営協議会の方々だけではなく、保護者の方にも参加いただいて発表が実施できたことで子ども達の成長を感じていただけた。
△国語科の「読み」の内容の読書マップを最後まで指導しきれず少し中途半端になってしまった点…単元前半部分の指導が一部中途半端になってしまった。今後は、それぞれがより密接につながりあった単元を創造していきたい。
最後に
夏休みから計画を始めた本単元は、まさに学年で作り上げたカリキュラムであったといえます。一人では詰め切れない点も学年でアイデアを出し合い最上位の目標を共有できたことで、単元の流れは長いにもかかわらずスムーズであったと感じています。今後は、卒業式学習においても同じようにカリキュラムをデザインして構成していきたいと考えています。
追記:長い文になってしまったことご了承ください。

友弘 敬之(ともひろ たかゆき)
明石市立鳥羽小学校 教諭
「単元学習」をテーマに学び続けてきました。その中で、「学習デザイン」「実の場」「問い」と、興味を広げてきました。今は「そもそも学びってなんだろう?」という問いと向き合っています。それは、子どもの学びだけではなく、教師としての、また大人としての学びも含みます。この学びの場を通して、私の問いを解決していきたいです。
同じテーマの執筆者
-
兵庫県神戸市立桜の宮小学校 特別支援教育士スーパーバイザー(S.E.N.S-SV)
-
京都教育大学附属桃山小学校 教諭
-
さいたま市立植竹小学校 教諭・NIE担当
-
大阪市立堀江小学校 主幹教諭
(大阪教育大学大学院 教育学研究科 保健体育 修士課程 2年) -
大阪府公立小学校 主幹教諭・大阪府小学校国語科教育研究会 研究部長
-
戸田市立戸田第二小学校 教諭・日本授業UD学会埼玉支部代表
-
旭川市立大学短期大学部 准教授
-
小平市立小平第五中学校 主幹教諭
-
兵庫県西宮市立甲陽園小学校 教諭
-
明石市立錦が丘小学校 教諭
-
木更津市立鎌足小学校
-
浜松学院大学 現代コミュニケーション学部 子どもコミュニケーション学科 教授
前浜松学院大学短期大部 幼児教育科 特任講師 -
東京学芸大学附属大泉小学校 教諭
-
愛知県公立中学校勤務
-
大阪大谷大学 教育学部 教授
-
神奈川県公立小学校勤務
-
寝屋川市立小学校
-
鹿児島市立小山田小学校 教頭
-
元静岡大学教育学部特任教授兼附属浜松小学校長
-
目黒区立不動小学校 主幹教諭
ご意見・ご要望、お待ちしています!
この記事に対する皆様のご意見、ご要望をお寄せください。今後の記事制作の参考にさせていただきます。(なお個別・個人的なご質問・ご相談等に関してはお受けいたしかねます。)
この記事に関連するおススメ記事

「教育エッセイ」の最新記事
