先生にとっての 『何だかとても大切なもの』教育相談のたね わからない時は座ってみるのもひらめきのもと(4)
古い話で恐縮ですが、どうやら自分は、座っているのが苦手で落ち着きのない子だったようで、耳の痛い話を母からよく聞かされました。そのせいか、今でもつい、座るのが苦手(だろうなあ)という子に声をかけてしまうことが多いです。 でもその話はまたにして、今回の『何だかとても大切なもの』は、座ってみることのお話です。
静岡市立中島小学校教諭・公認心理師 渡邊 満昭
座ってみることで気づきが生まれる
研修の時に、模擬授業と称し、私たちが子ども役となって教室の席に座り、先生役の発問に子どもになりきって反応したり答えたりするという方法がありますよね。なるほど、授業への新しい気づきが生まれるなど、良いことがあるようです。
ただ、「クラスの子どもたちのことを一番知っているのは担任としての自分」という自負が少しでもあるのなら、子ども役の仲間の受け答えは「あれ、そんな反応するのかな?」と、もやもやする部分でもあります。
このもやもやする部分って何なのかと考えると、まだ意識化してはいないけど、実は日々のクラスの子どもたちとのやりとりの中で、考えや願い、受け答えの様子などを自分の中に蓄積してきたものから生まれた感情なのだと思います。なにせ小学校の場合は、子どもたちと担任という同じ顔ぶれで、1年間、毎日6時間程も一緒にすごしているのですからね。
座る場所を変えると認識も変わるかも
それでもクラスの子どもたちに対して、コミュニケーションの壁を感じる時はあります。気持をわかってあげたいのだけど、何だかうまく理解できないのです。そんなときはその子の席のあたりに座ってみます。前の席には○○くん、隣は○○さん。私の姿はこんなふうに見えて、黒板はこんな感じというふうに。するとちょっとした気づきのヒントがひらめくことがあります。わからないまでも相手の側に少し寄り添う気持も生まれます。座ることで、意識していなかったことが結びついてくる気がするのです。これは職員室でも使える方法かも知れませんよ。
ほんとうは仲が良いのだろうけど、些細なことでトラブルになっている二人の子を、座らせることもします。まずは、自分のいすでそれぞれの言い分を聞きます。次に相手のいすに座り、相手の気持ちになって話をしてもらいます。こうしたことができるぐらいになっていれば、気持ちも少し落ち着いてきているはずなのです。提案に乗ってこないときは「もうすこし待っているよ」と時間をおいてみます。するとぽつりぽつりと相手の状況を踏まえつつ、話し出す子もいるのです。うまく相手の受け止めができれば、仲直りはそう難しくはありません。また相手の側に立てるのかどうかで、自分が先生としてすべきことも見えてきます。
帰りの会で 「先生の代わりに先生やってよ」と子どもに席を譲ってみたこともありました。教卓に座ると、見事に疲れている時の私のように話してくれる子もいるし、いつかは教職になって欲しいなというような話をする子もいるのです。
こうした方法はコロナの時代に行うのは少し工夫が必要ですが、可能であれば、ひらめきを期待したり自分の中の情報を整理する場として活かしてみてはいかがでしょうか。
席に座ってみるということは、想像以上にとても奥行きの深いものだと思うのです。

渡邊 満昭(わたなべ みつあき)
静岡市立中島小学校教諭・公認心理師・学校心理士・環境教育インタープリター・森林セラピスト
いつの間にか、小中学校全学年+特別支援学級+特別支援学校+通級指導教室での担任を経験し、生徒指導主任+特別支援教育コーディネーター+教育相談担当経験も10年を超えていました。すると担任を離れたとたんに何かを忘れてしまって、担任に戻ってみると忘れていたことに気がつくということがたびたびありました。それはうまく言えないけど何だかとても大切なもの。先生を続けていくための糧のようなもの。
その大切なものについて、自分の実践と合わせお伝えしていこうと思います。
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