先生にとっての 『何だかとても大切なもの』~教育相談のたね・新学期には自分(の中の子どもの自分)と向き合うこと~(1)
いよいよ新学期ですね。きっと子どもたちとの新たな出会いもありますね。このコラムでは、どちらかというと内省的な一人の先生が、小学校で過ごす毎日のなかで何を考えてきたのかを書いてみようと思います。
いわゆる先生の手記ではありません。哲学ほどでもありません。でもこんなこと考えていたんだとちょっぴり気にしてもらえたらうれしいです。
静岡市立中島小学校教諭・公認心理師 渡邊 満昭
自分の内にある「子どもの自分」
ところで、あなたはこの春も、もちろん先生として子どもたちの前に立つわけですが、ずっと先生のままですか? それとも(年齢はともかく)子どもの自分にも協力してもらいますか。
私たちの仕事で『なんだかとても大切なもの』は、自分の内にある「子どもの自分」を認識できること、また、相手や状況に応じて自分の中の『あらゆる年代の自分』を自在に出し入れできることではないかと思います。
子どもたちと年齢差が離れると話が合わなくなる?
自分が20代の頃、ぼんやり考えていたのは、年齢を重ねると、いつか担任をしても子どもたちと話が合わなくなってしまうのではないかということでした。
初任の時の子どもたちとの年齢差は、10歳ほど。年の離れた兄弟のようなものと考えれば、まったく違和感はありませんでした。地域の先輩と後輩と言ったところでしょうか。ガキ大将と言うほどではありませんが。
自分の子育ての時代は、教室の子どもたちと自分の子どもと重ねて話していることもあったのかもしれません。ちょっと説教がましかったのではないかと思います。でも教室で得た感覚で、自分の子どもとも話が弾んだことはたしかです。
それから数十年、年齢差は半世紀ほどにもなってしまいましたが、むしろ今の方が話が合うように思います(相手の子どもたちは、そうでもないかも知れないけれど違和感はなさそうです)。それは、あまり肩肘を張らずに子どもたちとフラットな関係が築けるようになり、子どもたちからも話しやすくなったからと思っています。「ねえ聞いてよ!」と言いながら登校してくる時もあるくらいですから。
「相談してもいいかな」と思ってもらえる先生に
また話に応じて「子どもの自分」にも協力してもらっています。
ゲームのこと、虫のこと 魚のこと 勉強のこと 困ったこと うれしかったこと。
自分の経験の引き出しからそのときの感触や感情ごと抜き出し、子どもたちの会話にどんどん加わります。それがいつものことなのです。今の子ども社会は複雑でわからないことだらけですが、時代の最先端を子どもたちが教えてくれます。そう思えるのもフラットな関係だからでしょう。
とはいえ、教室ではいろいろなことが起こります。そのときは大人の自分を発揮し、手を尽くして冷静に応じます。子どもたちには「私は先生係なので時々先生もやるよ」と事前予告してあります。だから今はどんな年代の私なのかもわかっているようです。
多くの場合、先生は一人で30人もの子どもたちとすごします。どんなに気をつけていても、一人一人が複雑な存在の子どもたち全てを見守れるとは思いません。自分には独自のバイアスがかかっており、見落としがちなものもあるかもしれませんし。
だからこそ、子どもたちの側からアクションを起こしやすい、話しかけやすい気軽な存在の部分を、必ず先生は残しておかなくてはいけないと思います。
姿形は大人で、普段やっていることは先生であっても、あちこちに自分と同じような子どもの姿がちらちら見える先生なら、「相談してもいいかな」と思ってくれるのではないでしょうか。
それが、なによりも大切にしたい教室運営の鍵だと思っています。
渡邊 満昭(わたなべ みつあき)
静岡市立中島小学校教諭・公認心理師・学校心理士・環境教育インタープリター・森林セラピスト
いつの間にか、小中学校全学年+特別支援学級+特別支援学校+通級指導教室での担任を経験し、生徒指導主任+特別支援教育コーディネーター+教育相談担当経験も10年を超えていました。すると担任を離れたとたんに何かを忘れてしまって、担任に戻ってみると忘れていたことに気がつくということがたびたびありました。それはうまく言えないけど何だかとても大切なもの。先生を続けていくための糧のようなもの。
その大切なものについて、自分の実践と合わせお伝えしていこうと思います。
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