2018.08.17
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「荒れ」と向き合う詩の授業≪実践編≫(5)

子どもたちの「自尊感情」を高め、少しでも「荒れ」が見られる学校の現状を改善しようと、全校全職員で「詩の指導」に注力することが決まったA小学校。その指導法については、校長から「先生方の創意工夫で」という指示のみでした。
今回は、「作戦(5)」の実践となります。
また、今後本文中で採り上げる児童の作品につきましては、成年した元児童のものにつきましては基本的に本人に、未成年の元児童のものにつきましては本人および保護者の掲載許諾を事前に得ておりますこと、あらかじめ申し添えます。

大阪府公立小学校 主幹教諭・大阪府小学校国語科教育研究会 研究部長 杉尾 誠

「作戦(4)」から一夜明けて

子どもたちの創った詩集を各家庭に持ち帰ってもらい、「おうちの方と一緒に全員分読んでくること」を宿題(「作戦(4)」)としていたその翌日の朝、教卓にはたくさんの連絡帳が届いていました。「可能であれば、おうちの方の感想を書いてもらうように」と付言していたからです。早速、始業前に目を通していきました。

「学級通信で子どもたちの詩の作品を読ませていただいてましたが、今回の(詩集の)詩が、一番よかったです。一つ一つの作品の密度が、濃い感じがします。」
「子どもがこんなことを考えていたなんて、我が子ながら初めて知りました。親の知らない間に、いつの間にか子どもの心は成長していたのですね。」
「29人の子どもたちの、大切な詩を読ませていただきました。29人29色で、どの詩も素敵でした。大人になったら、恥ずかしくて書けないようなことも、初々しい感性を持っているから書けてしまうのでしょうね。」

これまでは正直、連絡帳がおうちから私宛に届くことに、少しばかりの恐怖心がありました。A小学校の当時の実態からか、どちらかというとお叱りの内容がやや多かったからです。しかし今回は、届いたすべての連絡帳が子を思う温かさにあふれた、優しい内容ばかりでした。

Bくんのお母さんより

そうした連絡帳の山の中に、Bくんのお母さんのものもありました。Bくんは、入学時より支援学級に在籍しており、国語は普段、支援学級で学習しています。発達がゆるやかで、当時ようやく、自分の名前がひらがなで書けるようになった子です。

「昨日の宿題、みんなの分を私がBに読み聞かせました。Bは笑顔でずっとうなずいていました。そして、Bの詩を読むと『ちがう』というので、どういう意味で書いたのかを丁寧に確認しながら、その気持ちを知りました。 ー中略ー この宿題があって、本当によかったです。ありがとうございました。」

その、Bくんの作品がこちらです。

Bくんの詩

題:〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇

〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇
〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇
〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇
〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇
〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇
〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇
〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇
〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇
〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇
〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇


Bくんは、教室で国語の時間にした詩の学習は受講していませんが、以前宿題にした「自分語りの詩」については、その趣旨を個別に説明し、休み時間に私のそばで書いてもらいました。Bくんには普段教室で使用している詩の用紙ではなく、書きやすいようにマス目の大きな原稿用紙を渡しました。その原稿用紙いっぱいに「する!」と言って、一生懸命たくさんの「〇」を書いてくれました。恥ずかしながら、彼が何と綴ったかは、私には正確に読み解くことはできませんでしたが、その嬉しそうな表情からは、彼の心の中が透けて見えたような気がしました。

このBくんの詩は、子どもたちにも大きな関心事だったようで、「なぁ、どういう意味なん?教えてや!」と、直接Bくんに尋ねに行く子もたくさんいました。Bくんは、はにかんだように微笑むだけでした。そんな様子を見て、1時間目の国語では「作戦(5)」を実行することにしたのです。

作戦(5)「Bくんの作品を心の眼で詩にしよう」

1時間目の国語、急いで拡大コピーしたBくんの詩を黒板に貼りました。そして子どもたちに、Bくんの詩を「心の眼」で読んで、詩にしてみようと問いかけました。Bくんは発語があまりありませんが、子どもたちにとっては入学以来の仲であり、気心は知れているようです。

静かな教室の中に、鉛筆の走る音だけが響きます。学級開きの時には想像もつかなかった光景が、現実に私の眼の前に広がっています。一人ひとりの表情も真剣そのもので、何物も寄せ付けぬ気迫すら感じる子もいました。

そして、出来上がった詩を早速朗読してもらいました。そもそも「自分語りの詩」がテーマでしたので、Bくんの心の中にどれだけ迫れるかという難題でした。ほとんどの子は「もっとみんなと勉強したい」や「もっとみんなと遊びたい」という内容でした。確かに、支援学級で多くの教科を学ぶ彼とは、学級の時間を共有することが少なくなっています。そんな思いを、Bくんもみんなも寂しく感じていたのでしょう。正直なところ、「Bくんの障害について、曲解した詩が出たらどうしよう」と少しでも心配していた自分が恥ずかしく、心底申し訳ない気持ちになりました。

Bくんの詩の「答え合わせ」

子どもたちが一通り朗読を終え、最後にBくんのお母さんからもらった連絡帳の内容を読みました。

「Bはこの詩は『みんなともっと遊びたい』という気持ちで書いたそうです。放課後はデイサービス【※障害をもつ児童生徒のための通所訓練施設】に通っており、みんなと遊ぶ時間がないので、学校にいる間はなかよしのみんなと、もっといっぱい遊びたいそうです。」

子どもたちは「やっぱり」という反応でした。1年生の頃と比べて、Bくんとともに学び、ふれ合う時間が確かに少なくなっているという実感でしょう。彼らの教室はA棟3階、支援学級はC棟1階と物理的な距離もあり、それが心の距離になってしまっていたのかもしれません。

1時間目の休み時間、クラス全員でBくんを支援学級まで迎えに行き、ドッジボールをしました。以後、3月の学級解散まで、Bくんを迎えに行ってから遊びに行くということが、ごくあたりまえの学級文化となりました。

(続く)

杉尾 誠(すぎお まこと)

大阪府公立小学校 主幹教諭・大阪府小学校国語科教育研究会 研究部長
子どもたちの「自尊感情」を高めるため、「綴方」・「詩」・「短歌」・「俳句」などの創作活動を軸に、教室で切磋琢磨の日々です。その魅力が、少しでも読者の皆様に伝われば幸いです。

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