2018.07.31
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「荒れ」と向き合う詩の授業≪実践編≫(4)

子どもたちの「自尊感情」を高め、少しでも「荒れ」が見られる学校の現状を改善しようと、全校全職員で「詩の指導」に注力することが決まったA小学校。その指導法については、校長から「先生方の創意工夫で」という指示のみでした。
前回私の学級では「作戦(3)」を実践し、「早く詩を書きたい!」と、子どもたちの意欲を最大限に高めることができました。今回は、偶然が重なり生まれた「作戦(4)」の実践となります。
また、今後本文中で採り上げる児童の作品につきましては、成年した元児童のものにつきましては本人に、未成年の元児童のものにつきましては本人および保護者の掲載許諾を事前に得ておりますこと、あらかじめ申し添えます。

大阪府公立小学校 主幹教諭・大阪府小学校国語科教育研究会 研究部長 杉尾 誠

宿題「自分語りの詩」

前回、私の生い立ちに迫る「モデル詩」をもとに、詩で「自分を語る」ことの素晴らしさに共感できた子どもたち。クラスみんなで「自分を語る詩」を創ろうと約束し、その日の宿題としました。
そして翌日、誰一人として忘れることなく、宿題とした作品が揃いました。全員が宿題を提出できたのは、学級開き以来、おそらく初めてのことだったように記憶しています。
そして、始業前に急いで全員の作品を読み味わっていたその時、ふと手が止まってしまいました。ある女の子Aさんの詩に、少なからずの衝撃を受けたからです。

1時間目 国語 「自分語りの詩」朗読会

1時間目、国語の学習です。子どもたちは始業が待ちきれなかったようで、すでに「心の姿勢が前のめり」なのが窺えます。早速、一人ずつ座席の順に前に呼び、創った詩を作者本人に朗読してもらいました。 一番目の男の子は、野球がとても好きで、特に家族みんなが阪神タイガースの熱狂的なファンだとのことで、野球を習いたいという直近の希望と、プロ野球選手になりたいという将来の夢を、上手に詩で表現していました。 二番目の女の子は、お父さんがかばん職人で、お父さんがその子のためだけに作ってくれた、世界に一つしかないかばんへの思いを込めた詩を朗読してくれました。 そして三番目、Aさんの詩です。内気で恥ずかしがりやなAさんは、読むのをしばらくためらっていましたが、私も横で支援しながら、「大好きな父」を涙ながらに読み上げました。

Aさんの詩

「大好きな父」

天にいるお父さん

大好きだった分

わたしは たくさんたくさん生きるからね

だからまだ

お母さんを 天にはつれていかないでね

もし 行ってしまったら

わたしは ひとりぼっちになっちゃうからね

天にいるお父さん

大好きだからね

Aさんを囲んで

Aさんにお父さんがいないことだけは、年度当初の提出書類で知り得ましたが、それ以上のことは全く承知しておらず、プライバシーのこともあるので、そのことをお母さんや本人に尋ねたことはなかったのですが、この詩を読んで、Aさんとお父さんが死別であったことを初めて知りました。

「Aさん、ほんまにごめんな。前、『お父さん、なんでおれへんの』って聞いてしもて。」
「うちは離婚やから、月1回お父さんに会えるけど、Aさんはもう会われへんねんな。でも、やさしいお父さんやったんやな。」
「Aさんが、そんなしんどい(つらい)思いをしてたなんて、しらんかったわ。すごいなAさん。全然しんどそうにしてへんかったもん。」

クラスの子どもたちからは、次々とAさんに温かい声がかけられました。私もこらえていた涙が止まらなくなり、「お父さんは、こうやってみんなに紹介されて、天国で喜んでいると思うよ。こうやって、みんながAさんのお父さんを思い出すことで、みんなの心の中で命を手に入れて、生き続けるんだよ。」と話しました。

作戦(4)「おうちの人と感動を共有」

Aさんを囲んで、まるで号泣大会の様相を呈してきたので、授業は一旦ストップし、四人目以降の続きは、今日の帰りまでに全員の作品を印刷し、一冊の詩集にして手渡すからと約束し、子どもたちの理解を得ました。専科の先生が授業をしている間、職員室の輪転機をフル稼働して、帰りまでには何とか全員分の詩集ができ上がりました。
子どもたちには、詩集を手渡す際「素敵な作品がたくさん載っているので、おうちの方と一緒に全員分読んでくること」を宿題にしました。また可能であれば、連絡帳に感想を書いてもらうよう伝えました。昨日の宿題以上に、そう本当は嫌われ者の宿題のはずなのに、子どもたちは詩集を抱え、嬉しそうに帰っていきました。

(続く)

杉尾 誠(すぎお まこと)

大阪府公立小学校 主幹教諭・大阪府小学校国語科教育研究会 研究部長
子どもたちの「自尊感情」を高めるため、「綴方」・「詩」・「短歌」・「俳句」などの創作活動を軸に、教室で切磋琢磨の日々です。その魅力が、少しでも読者の皆様に伝われば幸いです。

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