2021.06.28
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小中学校長らが、自らの実践をもとに働き方改革のポイントを語る。 New Education Expo 2021 リポート vol.6

「学校における働き方改革」が叫ばれて久しい。すでに着々と成果を挙げている学校がある一方で、遅々として進まず苦悩する管理職の先生方も散見される。そこで本セミナーでは、自ら働き方改革を推進してきた先生方が、その実践の内容やポイントを紹介。次々と披露される「生の成功事例」に、会場の先生方は身を乗り出して、耳を傾けていた。

学校における働き方改革を考える
~職員室改革等の具体的事例やデータを通じ~

【コーディネータ】

帝京大学 大学院 講師 町支 大祐氏

【パネリスト】

令和2年度 全日本中学校長会会長/八王子市立上柚木中学校 校長 三田村 裕氏

福井大学 教職大学院 教授 三田村 彰氏

(一社)北海道開発技術センター 地域政策研究所 参事 新保 元康氏


働き方改革の実践事例

マストではないものは廃止

八王子市立上柚木中学校 校長 三田村 裕氏

「先生方は、働き方改革を進めようとする意思は持っている。しかし、様々な要因がそれを阻んでいる」と、全日本中学校長会・前会長の三田村裕先生は、同会が昨年(2020年)行ったアンケート結果から働き方改革の障害となっている要因を挙げ、その解決事例を紹介した。

まず教員は個人の裁量がとても大きく、学級通信一つとっても発行の有無や頻度が大きく異なる。そこで、管理職の強いリーダーシップの下、「マストではないものは廃止」との指針を打ち出し、学級通信を廃止するなどした。

また教員は一人で物事を進めようとしがちで、教材も個々に準備しがちである。これに対しては、ICTを用いるなどして教材や校務文書等の共有を推進した。未だICT化への抵抗が根強く手書きにこだわる先生も多いが、まずは実践してみて先生方に効果を実感してもらうことで、活用が加速すると指摘。採点ソフトの活用や、保護者との連絡や面談日程調整もアプリで行うことで、校務の効率化が進んだと報告した。

そして働き方改革には、保護者の協力も不可欠だと指摘。学校行事の見直しや通知表の年2回化など、懇切丁寧に保護者に説明し、理解を求めることが欠かせないと語った。

ICTと、プラスアルファの日常的なアイデアが必要

(一社)北海道開発技術センター 地域政策研究所 参事 新保 元康氏

札幌市の公立小学校4校で校長として働き方改革を実践して成果を上げ、『学校現場で今すぐできる「働き方改革」 目からウロコのICT活用術』(明治図書)などの著書がある、北海道開発技術センターの新保元康先生は、自らの実体験を交えながら、働き方改革を進めるポイントを教えてくれた。

「働き方改革の実行に、ICTは欠かせない」と新保氏は指摘するとともに、「ICTが整備されただけではだめで、プラスアルファの日常的なアイデアが必要」と強調した。

たとえば、朝の職員会議。せっかく子どもがもう登校しているのに、朝の職員会議があると子どもと接することができない。そこで、朝の職員会議を廃止し、連絡事項は基本的に校務支援システムで共有することとした。おかげで、学級経営もよくなったという。

朝の職員会議を廃止した代わりに、校務連絡会を毎週1回放課後に実施。とはいえ時間は15分程度で、会議資料を作成・配布する手間を省くために、職員室にプロジェクタを設置。連絡事項を短時間でわかりやすく、負担なく伝えられるようにした。

また、旧態依然とした職員室の黒板も見直した。今までは今日明日のスケジュールと毎月のスケジュールなどを管理職が黒板に転記するのが習わしになっていたが、手間も時間もかかり、共有や流用もできない。そこでこれらの情報は校務支援システムで共有することとし、黒板は急な病気や怪我などの「緊急の危機情報」を書いて共有するツールへと改めた。これによって情報共有がスムーズになり、「今何をしなければならないか」も明確になって、迅速かつ適切な対応が可能になったという。

職員室内の動線も見直した。子どもや保護者が立ち入れるエリアを限定して個人情報を守るようにしたことで、先生は離席する時にPCをログアウトしたり画面を閉じるなどの手間が不要になり、作業の中断と再開が楽になった。

企業のやり方を参考に職員室改革

福井大学 教職大学院 教授 三田村 彰氏

福井大学教育学部附属義務教育学校では、附属小と附属中を統合するタイミングで、職員室改革を実行した。ねらいは、小中の先生たちのコミュニティーの活性化。「フリーアドレスやオープンなミーティングスペースといった、企業のやり方から学んだ」と、福井大学教職大学院の三田村彰教授は言う。最初は先生方の反対を受けたそうだが、「子どもたちの学びを変えるためには、先生方の働き方を変えよう」との理念を理解してもらうことで、積極的に取り組んでくれたそうだ。

  • 校務連絡会の様子

  • 毎月のスケジュールなどを管理職が黒板に転記していた。

  • 「緊急の危機情報」を書いて共有するツールへ

  • 福井大学教育学部附属義務教育学校の職員室改革のイメージ

働き方改革を進め、効果を挙げるためのポイント

議論よりも、まずは行動を変えてみる

ここで司会の帝京大学大学院の町支大祐先生から、興味深い調査データが提示された。横浜市教育委員会と協力して同市内の先生方にアンケート調査を行ったところ、「教材研究の時間が足りていない」と答えた先生は実に約75%にも達した。にもかかわらず、「時間外業務を1時間たりとも減らせない」と回答した先生は約3割にものぼり、働き方改革によって時間外業務を減らすことに「罪悪感やためらい」を覚えている先生も4割近くにも達していた。「時間が足りないのに、仕事を減らせない。減らすことにためらいを感じている」という先生方が抱えるジレンマが、露わになった。

このような葛藤を乗り越え、働き方改革を進めていくには、どうすればよいのだろうか。登壇者たちによって、「働き方改革を進めるヒント」が話し合われた。

まず新保氏は、「先生たちが働き方改革に取り組めないのには、理由がある」と指摘。まず、世の中が激変していて、働き方改革が不可避なことを、先生方が理解できていない。だから少子高齢化や生産年齢人口の減少など、日本が直面している危機を職員室で何度も話題にしたり、校長便りで伝えるなどして、働き方改革が必要な背景を繰り返し説明したという。

「働き方改革で、むしろ忙しくなるのでは」と懸念する先生もいる。「実は半分当たっていて、最初の半年は大変になる。でもそこを乗り越えればグッと楽になる」と先生方に本音で話し、理解と協力を求めたそうだ。

「失敗が許されない空気」も、働き方改革を阻んでいる。議論よりも、まずは試してみる。そして「ダメなら元に戻す」のでいい。実際朝の職員会も、一度廃止したものの先生方からの要望で一度復活し、その後再廃止したそうだ。

先生方だけでなく、保護者の方々にも、働き方改革が必要な理由や内容を、丁寧に伝えた。保護者の方々は、まだ「昭和の学校」のイメージで止まっていて、学校が何でもやってくれると期待している。もはやそういう時代ではなく、働き方改革を行えば子どもにとってもメリットがあることを納得してもらったという。

三田村裕先生も、「先生方の意識を変えるには、まず行動を変える必要がある。朝令暮改でもいい。管理職がリーダーシップを発揮し、とにかく取り組んでみることが大事」と賛同した。管理職がすべてを決めるのではなく、「教員から働き方改革のアイデアを募り、実現する仕組みも併用するとよい」と付け加えた。

最後に三田村彰教授は、「このままでは若い人たちが教員になりたがらない。労働時間を削減すればいいというものではなく、教員としてのやりがいも確立していく必要がある」と結んだ。

記者の目

パネリストの先生方が異口同音に強調したのは、「働き方改革は目的ではなく、教育の質を向上するための手段」ということと、「学校教育の未来のためには働き方改革は不可避」ということだった。「働き方改革は一過性のブームではない。この先ずっと取り組んでいかねばならない教育課題」という、新保先生の言葉が胸に深く響いた。日本人はブームに流されやすく、熱しやすく冷めやすい傾向があるが、持続可能な働き方をこの先も考え、実行していかねばならないことがよくわかった。

取材・文:学びの場.com編集部/写真提供:New Education Expo実行委員会事務局

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