2021.07.01
  • twitter
  • facebook
  • はてなブックマーク
  • 印刷

今、世界の語学学習では、何がトレンドとなっているか。 New Education Expo 2021 リポート vol.7

グローバリゼーションが進み、ICTが急速な発達を続ける今、様々な国の人々と、対面やネットを通してコミュニケーションする手段として、英語の重要性はますます高まっている。世界各国も、「共通言語」としての英語教育に今まで以上に力を入れ始めている。そんな今、注目すべき語学学習の世界的潮流を、ケンブリッジ大学英語検定機構のDr. Hanan Khalifa氏と青山 智恵氏が語ってくれた。

語学学習の世界的潮流
~CEFRを通じた言語能力の共通化~

ケンブリッジ大学英語検定機構 教育変革・インパクト担当ディレクター Dr. Hanan Khalifa

ケンブリッジ大学英語検定機構 試験開発部門 日本統括 青山 智恵氏

2025年、PISAの外国語調査が始まる。

ケンブリッジ大学英語検定機構教育変革・インパクト担当ディレクター Dr. Hanan Khalifa

Dr. Hanan Khalifa氏が、第一に紹介した語学学習の世界的潮流は、「PISA外国語調査(FLA)2025」だ。その名を見てわかる通り、OECD生徒の学習到達度調査(PISA)の外国語力調査が、いよいよ2025年に開始される。

ご存知の通り、OECDは世界各国の15歳を対象に、大規模な学習到達度調査(PISA)を3年置きに行っている。その結果は毎回大々的に報道され、我が国の教育政策にも大きな影響を及ぼしている。PISA2003では、日本の子どもの学力低下がクローズアップされ(いわゆるPISAショック)、学力向上が叫ばれる一つの契機となった。

現在PISAは「数学的リテラシー」「科学的リテラシー」「読解力」の3分野について調査しているが、OECD加盟諸国からの強い要望により、新たに「外国語」が追加されることとなる。この調査では、各国の習熟度レベルや長所と短所が浮き彫りとなり、語学学習のベストプラクティスも特定されることとなるため、「この調査結果は間違いなく、日本の外国語教育の将来に影響を与えることになるだろう」と、Khalifa氏は指摘する。

ケンブリッジ大学英語検定機構 試験開発部門 日本統括 青山 智恵氏

「外国語」調査とは言うものの、対象となるのはやはり「英語」だ(将来的に他の言語も調査対象になる可能性もある)。Khalifa氏によると、「リンガ・フランカ(※異なる言語を使う人たちの間で意思伝達手段として使われる言語)」としての英語の存在感は大きく、英語を母語とする人口は約3億8500万人だが、第2言語として英語を使う人口は10億人、実用レベルで英語を話す人は約17.5億人にも達するという。

この新たなPISA外国語調査の開発に協力しているのが、英ケンブリッジ大学の非営利部門であるケンブリッジ大学英語検定機構なのだ。では、どのような問題が出題されることになるのだろうか。参考とされるのが、欧州で使用が始まり、現在世界のさまざまな国や地域で既に広く用いられている「CEFR(Common European Framework of Reference for Languages: Learning, teaching, assessment:外国語の学習、教授、評価のためのヨーロッパ共通参照枠)」だ。

CEFRでは、A1からC2までの6段階で、英語力を測る。最も初歩的なA1は基礎段階の言語使用者であり、「よく使われる日常的表現と基本的な言い回しは理解し、用いることができる」レベル。最高位のC2は熟練した言語使用者であり、「聞いたり読んだりした、ほぼ全てのものを容易に理解でき、話し言葉や書き言葉から得た情報をまとめ、根拠も論点も一貫した方法で再構築できる。自然に、流暢かつ正確に自己表現ができる」レベルとなる。

実はこのCEFRの開発にもケンブリッジ大学英語検定機構が深く関わっており、このCEFRを具現化したのが、大学入学共通テストで活用される予定だった「ケンブリッジ英語検定」(※大学入学共通テストレベルは、同検定B1レベルに相当)なのだ。

この試験(B1 Preliminary for Schools)のアジア各国の成績を青山氏は紹介してくれたが、残念ながら日本は低迷している。上位を快走する香港やマレーシアはもとより、ベトナムや台湾、中国にも後れを取っているのが現実なのだ。来るべき「PISA外国語調査(FLA)2025」でも、苦戦が予想される。

デジタル化、個別最適な学び、世界の潮流を見る。

CEFRのような「国際的なフレームワーク」は、現在の世界的潮流だと、Khalifa氏は指摘する。たとえば、アメリカで広く用いられている、英語を母語としない学習者の上達具合をみるための基準「WIDA」。英語を教える先生の指導力を測る「Eaquals」。こうしたフレームワークがあることで、学習者や指導者は、自分の達成度を客観的に測定でき、さらなる上達のために何をすればいいか、具体的に知り、努力することができる。

こうした国際的フレームを、自国の事情に合わせてローカライズする動き、いわゆる「グローカル(Global+local)化」も、現在のトレンドだと、Khalifa氏は言う。例えば前述のCEFRを日本向けにグローカル化した「CEFR-J」は、その一例だ。

語学の学習や指導・評価の「統合」も世界的潮流だと、Khalifa氏は図解した。学習者は、自分に合った学習目標やコースを選択して学ぶ。それを教師は観察して評価し、学習者へフィードバックする。それを受けて学習者は、新たな学習目標を設定する、というサイクルだ。これは語学学習に限らず、日本でも今「個別最適な学び」「個に応じた指導」として注目を集めており、GIGAスクールの1人1台環境がその助けになると大いに期待されているところである。

そしてGIGAスクールに象徴されるような、学習の「デジタル化」も、現在世界で急速に進展していると、Khalifa氏は語った。ケンブリッジ大学英語検定機構でも、様々なデジタル学習ツールを提供している。

サイト上で問題に答えることで、自分の英語を書く力がCEFRのどのレベルに相当するかを簡単にチェックできる、無料のオンラインチェックツール。AIが英作文を自動で添削してくれる無料のサイトサービス、「Write&Improve」は、修正すべき点をハイライトで表示し、ライティング向上のためのヒントをくれる。

スピーキングのCEFRレベルを自動判定してくれる「Speak&Improve」も好評だ。スマホやPCから利用できるサイトで、英語の音声質問に対して英語で答えていくと、自分のスピーキング力がCEFRのどのレベルに相当するかをAIが判定してくれる。

Minecraftを活用し、ゲーム感覚で冒険しながら英語を学べる初心者向けの学習ツール「English Adventures with Cambridge」も、去る5月にリリースされるなど、ケンブリッジ大学英語検定機構も学習のデジタル化に力を入れている。

今後も、このような語学学習の世界的潮流は、ますます進展していくことだろう。特に「PISA外国語調査(FLA)2025」からは目が離せない。実施はまだまだ先ではあるが、どのような問題が出題され、どんな力が求められるのか、CEFRやケンブリッジ英語検定などを参照して、備えておくとよさそうだ。

記者の目

OECDが新たに始める英語力調査は、日本の教育界はもとより、社会全体にも大きなインパクトを与えるだろう。日本の子どもたちの英語力がアジアでも下位に低迷している現状を考えると、この調査結果が、英語教育の見直しを求める世論を喚起する可能性も否定できない。
世界に肩を並べる英語力を育成していくには、何をなすべきか。その道具として、整備されたばかりのGIGAスクール環境をどう用いるか。今後の大きな課題となりそうだ。

取材・文:学びの場.com編集部/写真提供:New Education Expo実行委員会事務局

※当記事のすべてのコンテンツ(文・画像等)の無断使用を禁じます。

ご意見・ご要望、お待ちしています!

この記事に対する皆様のご意見、ご要望をお寄せください。今後の記事制作の参考にさせていただきます。(なお個別・個人的なご質問・ご相談等に関してはお受けいたしかねます。)

pagetop