1食分の献立作りで身につく!栄養バランスと食の学びを深める授業実践 【食と健康】[小学校6年生・家庭科]

食育は家庭科や総合的な学習の時間だけが受け持つものではありません。理科、社会科などどの教科でもアイデア次第で楽しく展開できます。教材開発のノウハウや子どもたちの興味・関心を高めながら、望ましい食生活習慣を育てていく授業作りのヒントを、武庫川女子大学・藤本勇二先生主宰、食で授業をつくる会「食育実践研究会」がご紹介します。第218回目の単元は「1食分の献立作りで身につく!栄養バランスと食の学びを深める授業実践」です。
授業情報
テーマ:食と健康
教科:家庭科
学年:小学校6年生
小学校の家庭科では、食品の主な働きを考慮して、1食分の献立を作成します。
これまで見てきた授業では、「献立作成は難しい」という考えをもった児童が多かったように思いました。
そこで、私が千葉県成田市の小学校で実践した授業を紹介します。
展開例

既習の調理品の組合せを考える

食品の体内での主な3つの働き
授業の最初に、5年生で学んだ「食品の体内での主な3つの働き」を確認しました。
心臓を24時間365日動かし続けるには「エネルギー」が必要であり、自分のからだを日々つくりかえている「体をつくるもとになるもの」が必要ということ。牛乳は本来、子牛の成長のためのものなのに、人間が飲んでもよいのは、体内で「変身を助けてくれるモノ」があるからです。そして、それが「変身を助けてくれる『お助けマン』(体の調子を整えるもの)」であるということ。
この「エネルギー」「体をつくるもと」「お助けマン」の3つの働きをもつ食品を組み合わせることで、「生きる」ことができる、という内容の復習です。

ご飯、みそ汁、ゆで卵、ほうれん草のおひたし
次に、これまで子どもたちが作ってきた調理品を組み合わせてみました。「ご飯、みそ汁、ゆで卵、ほうれん草のおひたし」です。そうすると…。ご飯が「エネルギー」、ゆで卵が「体をつくる」、ほうれん草のおひたしが「お助けマン」、つまり、既習の調理品の組合せが既に栄養バランスの整った「献立」になっていたのです。このことは、子どもたちにはちょっとした驚きになります。難しいと思っていた献立が、すでに作れるようになっていたのですから。そして、これまでの学習の積み重ねによって食事を作ることのできる力になっていることを実感します。
しかし、授業では次のように続けました。「では、今日の昼食はこれにしましょう。今日の夕飯も。そして、明日の朝も、昼も、夜も…」。このように続けていくと、さすがに子どもたちも「嫌だあ」「飽きる」と言い出します。そこで、この献立のアレンジを提案しました。
献立の組合せをアレンジする
アレンジ 3つの方法
①味の付け方をかえる
例:ほうれん草のおひたしを、ほうれん草のごまあえにする
②調理の方法をかえる
「ゆでる」を「炒める」にするなど。
例:ゆで卵→スクランブルエッグ
③食品をかえる
条件は「食品の体内での主な働き」を変えないこと。
例:ほうれん草のおひたし→キャベツのおひたし
(あえて、ご飯や卵のアレンジは示しませんでした。)

ほうれん草をキャベツに、ゆで卵をスクランブルエッグにアレンジ
このように、アレンジの方法を確認したあと、まずは個人でアレンジする時間としました。
この段階では、たとえば、ご飯をおかゆやおこげ、オムライスなどに変える単品のアレンジをする児童や、主食をパンにしたことで、組合せの全てを考える児童(ご飯をパンにしたら、みそ汁はコーンスープで…)とさまざまな姿が見られました。
中には、「今日は寒いから、温まる豚汁を入れよう」とか、お正月バージョン(おもち、お雑煮の汁、伊達巻き、紅白なます)を組み合わせたり、授業者も感心するようなものを考える児童も出てきました。

料理の組み合わせをアレンジしよう
個人で考える時間はおよそ15分としました。アレンジする料理は、1品でも構わないし、4つの料理全てをアレンジしてもよい、としていましたが、クラスの中でまったく同じアレンジをした子はいませんでした。
そのことを子どもたちに伝えたうえで、各自が考えたアレンジをグループで紹介し合う活動としました。全員が違う献立になった、と聞いた子どもたちは、どのような献立ができたのか、関心をもって聞きあいます。
ここで、「卵→肉」のアレンジが紹介されると、子どもたちは大いに盛り上がります。「肉だったら、焼き肉や唐揚げも入れられるね」「ハンバーグも入る」などです。
「卵→魚」のアレンジができることにも気付いて、「お寿司バージョンアレンジ」を作った子どももいました(酢飯、すまし汁、マグロやサーモンなど寿司の上のネタ、ガリ)。
さらには、「合体」の考え方でも盛り上がります。「ご飯とゆで卵を合体させて、TKG(卵かけご飯)ができた!」「主食が麺、みそ汁がラーメンスープ、主菜はチャーシュー、そして、ほうれん草のおひたしで、ラーメンの完成!」など、子どもたちの思考は更に広がりました。
授業の終盤では、グループで伝え合った献立を、クラスで共有する時間としました。グループごとに一つの献立を紹介するのですが、「だれかの献立をそのまま紹介してもよい」「グループで新たに献立を作成してもよい」としました。子どもたちは、紹介する献立のアピールポイントも踏まえ、さらに考えを巡らせていました。
その結果、きのこご飯やさつまいもご飯などの旬や、和洋中などの様式を意識したものであったり、と工夫ある献立が紹介され、子どもたちは他のグループの発表も、ワクワクしながら聞いていました。
子どもたちの振り返り
・これからいろいろな献立を作れるし、献立を作るのが面白かった。もっといろんな献立を作って食べてみたいです。
・献立を立てるのは難しいと思っていたけど、3つのバランスを考えれば、その中で好きなものをつめこめて、簡単に自分のオリジナルの献立を作ることができて、ビックリした。
・和風から洋風に変えてみたりすることで、だいぶ全体の印象が変わりました。みんなで意見を交流することで、そのときに出てこなかった発想も出てきておもしろいと感じました。
・ちゃんと栄養バランスを考えても、おいしそうな献立を立てることができました。お母さんも毎日、こういうふうに考えているのかな、と思いました。
・自分は料理ができないと思っていましたが、今日の学習で、自分は料理を作れると知ってうれしくなりました。今日、家に帰って早速料理を作ってみたいです!
なお、この授業の難しさは、授業者にあるかもしれません。例えば、副菜に「たくあん」を入れた子どもがいました。緑色の野菜が嫌いだというのです。
ポテトサラダなど、じゃがいもの位置付けにも苦労します。「食品の体内での主な働き」を考えると、いも類は「主にエネルギーになる」食品に分類されるから、です。
それでも、子どもたちが楽しんで、そして、献立作成の考え方が分かることが、この授業のメリットだと考えています。
また、この授業は、栄養教諭とコラボすることもできます。学校給食も、この3つの働きを中心として作成していること、例えば「今日の給食の主食は…、主菜は…。これも、3つの働きを組み合わせているんだよ」と伝え、その後、子どもたちが考えた献立を一緒に「楽しむ」ことです。
先ほど示した「たくあん」も、「たくあんが大根だなんてよく気づいたね~」で、ここでは良いと思うのです。自分の考えた献立を栄養教諭から認められた子どもたちは、さらに自信と喜びをもって、献立に向き合うことができます。
もしここで授業者や栄養教諭が「緑色の野菜を入れた方が…」と改善させようとしたら、この子どもは、献立作成において、主体ではなく自分ごとから離れてしまいます。
授業の展開例
・「ゆでる」をマスターして、おいしいおひたしや和え物をつくろう(5年 家庭科)の学習で一人1品のおひたしや和え物を調理すると、献立学習での副菜のアレンジがさらに広がります。
佐藤 雅子
聖徳大学人間栄養学部人間栄養学科 准教授
平成元年から平成31年まで小学校で、担任、家庭科専科として勤務。平成19年に千葉県長期研修生としてフランスの味覚教育を学び、以降、「食べ物からの語り」を子どもたち自身が聞けること、子どもたちが感じた感覚を尊重し、子どもたちが主体的に学ぶ授業作りを考えてきています。

藤本勇二(ふじもと ゆうじ)
武庫川女子大学教育学部 教授。小学校教諭として地域の人に学ぶ食育を実践。文部科学省「食に関する指導の手引き」作成委員、「今後の学校における食育の在り方に関する有識者会議」委員。「食と農の応援団」団員。環境カウンセラー(環境省)。2010年4月より武庫川女子大学文学部教育学科専任講師。主な著書は『学びを深める 食育ハンドブック』(学研)、『ワークショップでつくる-食の授業アイデア集-』(全国学校給食協会)など。問題解決とワークショップをもとにした食育の実践研究に取り組む「食育実践研究会」代表。'12年4月より本コーナーにて実践事例を研究会のメンバーが順次提案する。
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