大学教育DX~STEAM教育、大学図書館、VR教材~ New Education Expo 2025 リポート vol.3

今年で30回目を迎えた教育業界最大級のセミナー&展示イベントNew Education Expo 2025。6/5~7、13~14の5日間で約14,000人の教育関係者が来場した。vol.3ではデジタル技術を活用した大学教育の改善をテーマとしたセミナーの模様をお届けする。
デジタル技術で革新する大学教育
青山学院大学 教育人間科学部 教授 野末 俊比古 氏
東海大学 文化社会学部 教授 水島 久光 氏
長崎大学 情報データ科学部 准教授 瀬戸崎 典夫 氏
「青学つくまなラボ」
Aoyama Creative Learning Labプロジェクト
野末俊比古氏は、青山学院大学での2つの取組を紹介した。1つ目の「青学つくまなラボ」は、青山学院初等部・中等部・高等部・大学(院)の児童・生徒・学生、教職員などに「創ることで学ぶ」場を提供するもので、2023年5月に開設され、おもに平日の午後に活動している。
閉校した短期大学の美術室を利用し、世代や分野の壁を取り払って学ぶ、競争ではなくみんなで取り組む、いつでもスタッフがいて、安心して失敗できる空間として運営している。1993年にアメリカで始まった、子どもたちが「いつでも」「安全に」「テクノロジーに触れられる」コミュニティ:「コンピュータクラブハウス」をモデルにした。作品の展示もしており、来て、何も作らなくても構わない。
可動式のテーブルや、3Dプリンター、レーザーカッター、UVプリンター、コンピューターミシンなどを備え、売っているものと同じクオリティのアクリルスタンドやアクリルキーホルダーを作ったり、コンピューター上で作成したオリジナルの図案を刺繍したりできる。
学外にどう広げるか、自由に活動できる反面、大学の授業や様々な教科の学習課程と、どう連携させるのかが今後の課題だそうだ。
AIを活用した文献探索システム
「近未来の図書館と新しい学び」研究プロジェクト

青山学院大学 教育人間科学部 教授 野末 俊比古 氏
2つ目は、富士通Japanとの共同で開発した、AIを活用した文献探索システムの事例。
「検索」をすれば条件に当てはまるものをズバッと見つけられるが、AIの場合は「検索」ではなく「探索」をする。調べたいフレーズに近いものを多く出し、そのフレーズに近い順に並び変えて表示する。このことが2024年1月導入の横浜市立図書館の蔵書探索AIに「おいしいカレーライスの作り方」というワードを入れるとどうなるかという例で説明された。
自分の検索履歴をもとにレコメンドされて、それをすぐ読めることが当たり前のデジタルネイティブ世代は、図書館にも、自分の学修履歴、検索履歴、読んだことがある本などの情報から最適化された文献、学習の情報をレコメンドする機能を求める。さらに、AI探索により、既存の「検索」では見つからない、利用者が想定していなかった潜在的なニーズに対応できる文献を提示できる可能性もある。
デジタル、アナログの区別を超えた感覚を持って、学生の学びの支援に取り組んでいくことが必要と講演を締めくくった。
様々なニーズにこたえる大学図書館

東海大学 文化社会学部 教授 水島 久光 氏
続いて登壇したのは、水島久光氏。
文部科学省は2023 年 1 月に審議まとめ「オープンサイエンス時代における大学図書館の在り方について」を公表し、2030年に向けて、各大学図書館が相互に連携したデジタル・ライブラリーの構築を推進している。
東海大学では、現在、8キャンパス(品川、湘南、伊勢原、静岡、札幌、熊本、阿蘇熊本臨空、ハワイの短期大学)のすべてに図書館があるが、2025年4月、湘南キャンパスに中央図書館「ライブラリウム」をオープンした。
古代アレクサンドリア図書館をイメージし、また、大学創立者・松前重義の「海底から、宇宙まで」のコンセプトや、学園理事だったモダン建築の巨匠・山田守の思想を基に、アクアリウムやプラネタリウムになぞらえて名付けた。
新しい図書館には、一人で勉強する、わいわい友達と勉強する、プレゼンする、全然違う勉強を彼女と一緒にずっと黙ってやるなど様々なニーズを持つ学生の居場所となる空間を目指し、4つのメインゾーンを作った。
- 1階西側「アイランズ」(島々)
柱や書架で区切られており、ミーティングやプレゼンをするスペースがある。 - 1階東側「オーシャン」(海)
書架を波のようにうねらせて配置し、地域性、国際性のある本を並べている。 - 2階西側「コンステレーション」(星座)
学問の知識が星座のように結びつく様子を表し、文系の本を多く並べている。 - 2階東側「ユニバース」(銀河)
光や熱量が広がる様子をもとに放射状に机や書架を設置し、理系の本を並べている。
「どこで宿題やる?」「オーシャンで」などという学生のやり取りを聞くようになり、馴染んできていると感じる。
デジタル技術によって資料活用の可能性を広げるため、この新しい中央図書館の中にコンテンツ・ラボを設けた。博物館資料のデジタルアーカイブ化を進め、図書館の検索システムと連動させたり、3Dプリンタなどを用いて学習機会のバリアフリー化なども進めていく計画だそうだ。
バーチャル環境とモノづくりの融合

長崎大学 情報データ科学部 准教授 瀬戸崎 典夫 氏
最後に登壇したのは瀬戸崎典夫氏。
初めに、創造スイッチ tec-nova Nagasaki (長崎市との共同実証研究事業)の取組を紹介した。
「遊んでもらいながら、どう学びにつなげるのか」「VR(仮想現実)などのテクノロジ体験からどのようにものづくりに展開させるか」をテーマに、大学キャンパスに夏休みを中心に40日程度「ファブリケーションラボ(FabLab)」を開設。小学5年生~高校生に、VRヘッドセットによるテクノロジ体験や、3Dプリンタやプログラミングを中心としたものづくり体験をしてもらった。
子どもたちはこんなものを作りたいという発想はあるが、技術面で上手く制作できないときに、情報系の大学院生から「こうすればいいんじゃない」と教えてもらいながら、取り組んだ。
学習者主体の学びへの誘導の困難さや、メンター学生(大学院生)が、自分の得意なコンテンツへ誘導しがちといった課題はあったが、今後もデジタル技術に興味を持つ子どもたちに、最新のテクノロジーに触れることができる場を提供していきたいと語った。

水害のコンテンツの映像
次に、これまで学生たちと開発してきた様々なコンテンツの紹介があった。例えば次のようなVR教材があるそうだ。
- 交通安全教育
子どもの視野の狭さに着目して、道路を普通に歩いているとき、大人には見えていても、子どもには見えていない範囲もあることを学ぶコンテンツ - 防災教育
バーチャル環境の中で、どこに堤防を作ればいいかなど災害に強い街づくりを考えるコンテンツ。「作る」ことが学びにもなり、VRとものづくりの融合ができる。 - 平和教育(時空を超えての学び)
原爆が投下される前と後の町のバーチャル空間に、実際に入った感覚で動き回れるコンテンツ。すべてを完全に再現するのではなく、学習者が想像することができる「思考の余白」を設けることが学びにもつながる。
タンジブルシステムによる、リアルとVRの世界の融合の研究にも取り組む。タンジブルとは、「現実の・実体がある・触れられる」という意味。例えば、天体の模型を操作すると、バーチャル環境のCGが連動して動くVR教材がある。
Web会議システム(Zoom)とHMD(ヘッドマウントディスプレイ)を連携し、現地の映像と遠隔地の映像を重ねて表示するAR(拡張現実)技術を導入すれば、遠隔地からでも実環境とバーチャル環境とを融合したAR環境を共有した協働的な学習活動を行うことができるようになると講演を締めくくった。
記者の目
IT教育、デジタル教育、VR教育と聞くと技術面の進歩だけを考えがちになる。今回のセミナーでは、各大学とも工夫を凝らし、有形無形、様々な学びの環境を学生に提供することで、学生が自ら積極的に学ぶ姿勢を醸成することに力を入れている様子が伺えた。また、これらの取組がIT技術の習得に留まらず、学生の創造力やコミュニケーション能力を伸ばすことにもつながることが分かった。
取材・文:学びの場.com編集部 写真提供:New Education Expo実行委員会事務局
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