2021.07.08
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GIGAスクールで子どもの学びはどう変わる?教育の情報化政策が目指す"学び"とは New Education Expo 2021 リポート vol.9

1人1台端末のGIGAスクール元年がいよいよスタートした。今回は6月4日に行われたリレー講演「GIGAスクール構想の実現について」と「GIGAスクールの上に描く未来の教室」をリポートする。公教育現場の学びはGIGAスクール構想によって今後どのように変化していくのか、文部科学省の水間玲氏と経済産業省の小倉直子氏がそれぞれ発表した。

教育の情報化政策の今後の方向性

文部科学省初等中等教育局 情報教育・外国語教育課 情報教育振興室長 水間 玲氏

経済産業省 商務・サービスグループサービス政策課 総括補佐(併)教育産業室総括補佐 小倉 直子氏

GIGAスクール構想の実現について

GIGAスクール構想の現状と実現に向けた取り組み

文部科学省初等中等教育局 情報教育・外国語教育課 情報教育振興室長 水間 玲氏

はじめに、文部科学省の水間 玲氏がオンライン登壇し、「GIGAスクール構想の現状と実現に向けた取り組み」について講演を行なった。

GIGAスクール構想とは、Society5.0時代を生きる子どもたちの個別最適な学びと協働的な学びを実現するため、学校教育現場に「1人1台端末」等のICT環境を整備する構想のことだ。コロナ禍で一気に加速し、現在(令和3年3月末時点)では全国小中学校の96.5%と、ほとんどの自治体で1人1台端末の導入が完了している。併せて校内通信ネットワークの環境整備も進み、97.9%以上の公立学校が本年4月末までに供用を開始している。

水間氏は「これからは端末を文房具としてフル活用した教育活動の展開に向け、ステップ1からステップ2、ステップ3へと順を追って進んでいくのが現実的だろう」と語り、具体的なステップとして以下を提示した。

【ステップ1】
「すぐにでも」「どの教科でも」「誰でも」活かせる1人1台端末
調べ学習や文書作成、プレゼンテーションにICTを利用するほか、一斉学習での活用や個別学習など「個別最適で効果的な学び」、「協働的な学び」の実践段階

【ステップ2】
教科の学びを深め、本質に迫る
理科の観察・実験での動画を使った分析や、外国語で海外とつながる「本物のコミュニケーション」など、ICTを活用することで今までになかった学びを深めていく段階

【ステップ3】
教科の学びをつなぎ、社会問題の解決に生かす
ICTを含むツールを駆使し、各教科等での学びをつなぎ探究する「STEAM教育」を実現させ、社会課題の解決や一人一人の夢の実現に生かす段階

このようにGIGAスクール構想が目指すのは、段階的な「学びのDX」である。ICTを効果的に活用することで学びが変容し、工夫次第で学びの可能性は無限大になる。水間氏は「学びの変容と校務の効率化といった現場改革を含め、GIGAスクールを基盤とする令和の日本型学校教育を実現したい」と語った。

「GIGA StuDX 推進チーム」による支援活動を本格的に展開

GIGAスクール構想の実現に向け、文部科学省がICTの積極的活用を推進するために設置したのが「GIGA StuDX 推進チーム」だ。本年4月より、教育活動において参考事例の発信や課題の共有などを通じ、全国の教育委員会・学校への支援活動を本格的に展開。担当地域の教育委員会と協働するため、人的ネットワークを構築し、双方向にやりとりをしながら、学校現場でのICT活用の充実に取り組んでいる。現場の悩みや課題、実情を汲み取って文部科学省の政策に反映するなど、草の根の活動を進めながらサポートしていくという。

教育データの利活用とデジタル教科書の今後の在り方

最後に、水間氏は「教育データの利活用とデジタル教科書の今後の在り方」について説明した。1人1台端末で生じる教育データについては主に以下の3つの目的に沿って利活用される。

①学習記録など個人の学習サポート
②学校教員の指導改善
③新たな知見の創出・政策への反映

③については、データは匿名加工され、蓄積されたビッグデータを分析することで、教授法・学習法などの新たな知見の創出や政策への反映を想定しているという。

また「デジタル教科書の現状と今後の在り方」について、現在(令和2年3月)デジタル教科書の普及状況は約8%となっていること、本格導入に向けた課題として、実証研究を通した効果的な活用や今後の教科書制度の在り方の検討を行っている段階であることを述べた。「学校教育を支えてきた紙の教科書との関係や検定制度も含め、十分な検討と活用に向けた実証研究を行っていくことになる」と述べ、講演を締めくくった。

GIGAスクールの上に描く「未来の教室」

「未来の教室事業」のコンセプトと実証事業の具体例

経済産業省 商務・サービスグループサービス政策課 総括補佐(併)教育産業室総括補佐 小倉 直子氏

続いて、経済産業省の小倉直子氏が登壇し、同省が2018年度から旗を振る「未来の教室」について紹介した。「GIGAスクール環境」は主に学校教育が領域の文部科学省と民間教育を領域としている経済産業省の2つの融合領域となる。教育イノベーションに向けた両省の「キョウソウ(協創・競争)」を通し、政策やサービスの進化を促したいとして、「未来の教室」のコンセプトと実証事例、探究的な学び「STEAM教育」などについて語った。

未来に向けた人材育成を行う上で、学校教育の段階から必要なスキルや能力を身につける学びが必要だと考える「未来の教室事業」。GIGAスクール構想によって、EdTech(教育×テクノロジー)をはじめとする業界が、学校現場と協力し合うことで新しい学びの形を生み出せるとしている。

未来の教室事業のコンセプトは、自分のペースで主体的に学ぶ「学びの個別最適化」と、価値を"創る"ために"知る"学びへの転換「学びのSTEAM化」の2つ。またOECDのEducation 2030プロジェクトと同様に、同省が考える近未来の子どもに求められる資質は

①新しい価値を創出する
②対立・ジレンマを克服する
③当事者性を持つ

の3つである。

「これらの資質を子どもたちが培っていくには、"創る"学びと"知る"学びの循環が必要である。探究学習とも言うが、原動力となるのは一人一人の興味・関心で、その原動力で"創る"と"知る"学びの循環が健全に回ること(学びのSTEAM化)を目指している」と話した。

Edtechを積極的に活用した「学びの個別最適化」

小倉氏は未来の教室事業のコンセプトの1つである「学びの個別最適化」について、Edtechを活用した事例として、麹町中学校でのAIドリルを導入した例を挙げた。受け身で一斉に学ぶ授業では形式上は履修したことになるが、生徒に学習が身についているとは限らない。そこで麹町中学校では先生の一斉授業ではなく、生徒一人一人の習熟度・ペースに合わせたAIドリルで学習させるという手段をとった。AIドリルの誘導によって、個別に、時に協働的に克服していった結果、生徒たちの時間に余白が生まれ、通常の授業では見られない生徒同士で教え合いを行なっている光景も見られたという。

このほか、通信制高校での「正義のハッカー(エシカル・ハッカー)」育成講座も紹介した。ゲーム好きでコミュニケーションが苦手な子どもなど、発達特性のある子どもをサイバーセキュリティ人材に養成するプログラムだ。実際に参加した生徒を見た先生や保護者の中には「自ら積極的に事前に内容を確認し、見通しを持って参加したい、という意識の高さを感じた」という声も挙げられた。

このように通常学級での活用はもちろん、不登校で授業が受けられず、学びが止まっていた子どもにとってもEdtechがもたらす力は大きいと小倉氏は説明した。

教科横断型の探究学習「STEAM教育」

続いて小倉氏はもうひとつのコンセプトであるSTEAM教育について説明した。STEAM教育とは、科学、技術、工学、アート、数学の頭文字を取った造語で、各教科での学習を実社会の課題解決に生かしていくための教科横断的な教育のことだ。そして子ども一人一人が持つワクワクを核に"知る"と"創る"が循環し、文理融合の学びを実現させる、これが未来の教室が目指している「学びのSTEAM化」である。

このような探究学習は総合学習の時間だけでなく、関連する教科を横断し十分な時間を用いて展開されることが理想とされている。小倉氏は「教科学習の時間を縮めた余白で、従来の時間割に囚われない教科横断型の探究学習ができる。そのためにカリキュラムマネジメントなど現場の課題にも取り組んでいきたい」と話した。

探究学習の入り口「STEAMライブラリー」

経済産業省が無償公開している「STEAMライブラリー」では、探究学習を目的に、24の事業者が提供する63テーマの探究コンテンツが掲載されている。例えば「360度映像で考える世界の社会課題とビジネス」、「最先端研究を通じたSTEAM教育」など、SDGsの社会問題や社会にある様々な仕事、趣味などを入り口に、子どもたちが探究的な学びを始めるきっかけとなるようなコンテンツが掲載されている。小倉氏は「最先端の研究や世の中の課題を知って、子どもたちに学びを深めてもらう。STEAMライブラリーは探究のパッケージ教材ではなく、スタート地点に立つ入り口となる教材。今後もコンテンツを拡充していきたい」と話した。

今後のアクションとしては「STEAMライブラリー」のモニター教師・モニター学校を募集し、活用事例を創出・普及していくという。また1人1台端末の本格運用開始に合わせ、未来の教室ポータルサイトも全面リニューアルされた。文部科学省と経済産業省の相互リンク・相互送客で連携して進めていきたい考えとし、本公演を締め括った。

記者の目

コロナ禍で一気に進んだ「1人1台端末」を基盤に、GIGAスクール構想は文房具として端末をフル活用する段階から探究学習のSTEAM教育へと子どもの学びを変容させていくことを目指している。その上に描かれた「未来の教室」は、EdTechをはじめとする業界が学校現場と協力し合うことで、新しい学びの形や機会を提供する。このように学びのSTEAM化を実現させていくことで新しい価値を創造する人材育成を目標としている。
GIGAスクール環境を生かし、今後文部科学省と経済産業省はキョウソウ(協創・競争)しながら、教育イノベーションを加速させていくだろう。

取材・文:学びの場.com編集部/写真提供:New Education Expo実行委員会事務局

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