2024.07.08
  • twitter
  • facebook
  • はてなブックマーク
  • 印刷

AI・世界最高峰技術で挑む国立大学入試プロジェクト New Education Expo 2024 リポート vol.5

6月6()8日(土)、14(金)~15(土)の5日間、教育関係者向けのイベント「New Education Expo 2024」が開催された。「学びの未来を、共に拓く」をテーマに、教育界の著名人や教育関係者による100以上のセミナーが行われた。vol.5では、66日(木)に東京・有明にて実施された、コンピュータを利用して実施するテスト:CBTの最新動向を伝えるセミナーを紹介したい。

CBTは入試を変えられるか?~AI・世界最高峰技術で挑む国立大学入試プロジェクト~

電気通信大学大学院 情報理工学研究科 教授 植野 真臣氏
株式会社インフォザイン 永井 正一氏

日本の大学入試改革に最先端技術で貢献する

電気通信大学大学院 情報理工学研究科 教授 植野 真臣氏

コンピュータを利用して実施するテストの総称「CBT(Computer Based Testing)」。2007年にCBTの実施・運営に関する国際標準規格(ISO/IEC2007、JIS X 7221)が制定されたことで世界的に普及が進んだ。日本においては情報処理技術者試験(IT-Passport)、国家試験の医療系大学共用試験などがこの規格に準拠している。なお、両試験には電気通信大学 植野 真臣教授らが開発した世界最高精度で最大数の等質なテストを生成するAI技術が活用されている。

電気通信大学は2025(令和7)年度の入学者選抜より、Ⅰ類(情報系)の総合型選抜および学校推薦型選抜において、CBTを活用すると発表。筆記による総合問題試験や書類審査に加え、CBTによる基礎学力検査と非認知能力調査、面接試験を組み合わせる。なお、CBTを利用した「情報I」を含む選抜は日本初の試みとなる。

国際標準規格に準拠したCBTプラットフォーム「TAO(タオ)」に、情報入試のためのプログラミングやデータ解析の問題のためのモジュールを実装し、項目反応理論(IRT)を用いた問題バンク方式(1人1人に異なる問題が出題されるが、結果の比較が可能)を採用する。世界最高精度の測定精度を誇る、テスト構成技術を持つ最先端人工知能搭載システムを用いた。

「情報Ⅰ」のプログラム問題の中には、実際のプログラミング環境でプログラムを編集・実行しながら解答を求める設問や、データ分析ツールを用いて実際のデータを分析しながら解答を求める設問を採用。これにより従来の紙媒体の試験では測れなかった能力を評価することが可能になった。プログラミング言語はPythonを採用しているが、JavaScriptやC言語など、他の言語を学んだ受験者も対応できる仕様となっている。         

プログラミング問題やデータ解析問題については、受験者の解答書き直しプロセスも保存されるため、試行錯誤の過程も自動採点の評価(IRTのスコア)に加味されるのも特徴だ。

試験は不正行為を防止するためのフィルターやボードを設置した同大学のコンピュータ室で実施。天井方向からAIカメラで受験者を撮影するので、不正行為対策も万全なうえ、試験監督者の負担軽減も見込まれている。CBTの国際標準には、過去問題を公開しないという要件があるため、受験者は試験前に「試験問題の非公開(漏洩禁止)の同意書」に同意する必要がある。

同大学は文部科学省「令和4年度大学入学者選抜改革推進委託事業(個別大学の入学者選抜等におけるCBTの活用) 」の採択機関であり、大学入試センターと協力してCBT入試を設計・導入した。植野 真臣教授はCBT入試プロジェクトの統括を担う。

「CBTのメリットとして、自動テスト生成や自動採点、自動データ解析、自動フィードバックが挙げられます。CBTの国際標準規約に『同一能力の受験者が異なるテストを受験しても、同一スコアを返すデータサイエンス技術を取り込む』が定義されていますが、この要件を実現するため、CBTは『問題バンク方式』という仕組みとなっています。問題項目は繰り返し使用されるため、試験実施後も非公開となるのが特徴です。つまり受験者は受験対策として過去問を見ながら勉強することができません。

一方で、過去問対策ができないことで、真の実力を測ることが可能となります。ゆえにCBT入試は、従来の暗記型受験勉強で養成できる能力ではなく、興味を持って育んできた実践能力を精度高く評価できます。将来、世界で活躍するAI人材やデータサイエンス人材の発掘に大きく寄与するとも言えるはずです。

CBTシステム

CBT入試の実施にあたり、最も困難だったのは『問題バンク』を作ることでした。さまざまな方法を考えるなか、辿り着いたのが『UEC検定(新入生対象基礎学力調査)』の構築です。新入生に基礎学力調査を実施し、質のよい問題か確認したうえで、問題バンクを作り、CBT入試に活用しました。UEC検定の構築には学生の特性を把握できたり、成績から将来を予測・分析できたりと、さまざまな利点があったのも貴重な発見でした。

学校推薦型選抜、総合型選抜ともに非認知能力調査を行いますが、ここでは学力テストでは測定できない『主体性』や『学ぶ意欲』など、全80項目の質問を行います。面接試験はその結果を踏まえて進めます。

また、CBT入試にはAI技術を広く導入したのも特徴です。小論文の自動採点タスクにおいて、当時の最高精度を達成したり、多様な自動採点モデルを統合することで、人による採点と変わらないレベルまで精度が向上したりと、多くの効果が見られています。

本校のCBT入試により『入試のための学力観』から脱出し、社会に必要な本質的な実力をつけるという価値観に変容していくことを期待しています。」(植野氏)

なお、2023年11月のオープンキャンパスで開催された、高校2年生を対象としたCBT体験会では、「CBT受験に抵抗はありましたか?」というアンケート質問に約9割が「ほとんどなかった」「全くなかった」と回答したそうだ。

世界標準規格準拠のCBTプラットフォーム「TAO」

株式会社インフォザイン 永井 正一氏

後半では、CBT入試プロジェクトで使用されている世界標準規格準拠のCBTプラットフォーム「TAO」について、開発元のOAT社(Open Assessment Technology)と日本におけるパートナー契約を結ぶ株式会社インフォザイン永井氏より解説された。

OAT社はルクセンブルクに拠点を置くソフトウェア企業だ。欧州各国で多数の導入実績を持ち、教育ICT分野の先進企業として名を馳せる。2023年5月に内田洋行グループの一員となった。

株式会社インフォザインは2015年秋にOAT社公式技術パートナーとなり、TAOの日本向けオーガナイズを行っている。

TAOの特徴はオープンソースソリューションであることだ。ソースコードが公開されているため、誰でもダウンロードして利用できる。さらに国際技術標準のQTI(Question & Test Interoperability) と LTI(Learning Tools Interoperability) に準拠。これにより多様なシステムやツールと連携した学習環境の提供が可能となる。

また、OECD PISA調査をはじめ、各国の学力調査において利用されているのも特筆すべき点だ。OECD PISA調査や、フランス、イタリア、ノルウェーの教育省の学力調査などの実績を持つ。日本国内では文部科学省の全国学力・学習状況調査などを実施するCBTシステム「MEXCBT」に採用されており、2023(令和5)年度の英語「話すこと」調査にも活用された。

SaaS版で提供している最新のTAOはアクセシビリティが強化されており、幅広い年齢や能力の受験者がテストに集中できるようにUIが改良された。タッチデバイスや画面サイズに応じたレスポンシブレイアウトにも対応する。

終盤ではTAOを活用した問題アイテムの作成などのデモンストレーションが披露され、直感的なインターフェイスデザインの魅力などが伝えられた。

「近年ではTAOは学力調査や国家試験、認定試験、医学分野試験をはじめなど日本国内で幅広くご活用いただいています。択一問題から、並べ替え問題、穴埋め問題と多様な出題形式が可能です。問題を作りやすく、回答しやすい仕様も大きな魅力となっています。」(永井氏)

記者の目

世界最高精度の測定精度と最先端人工知能搭載システムが採用された電気通信大学でのCBT入試。暗記型受験対策で養われた能力でなく、興味を持って育んできた実践能力を精度高く評価できるのが注目ポイントと言えるだろう。この先進的な取り組みによりどのような人材が発掘され、輩出されるのか、今後の動向に目が離せない。

取材・文:学びの場.com編集部 写真提供:New Education Expo実行委員会事務局

※当記事のすべてのコンテンツ(文・画像等)の無断使用を禁じます。

ご意見・ご要望、お待ちしています!

この記事に対する皆様のご意見、ご要望をお寄せください。今後の記事制作の参考にさせていただきます。(なお個別・個人的なご質問・ご相談等に関してはお受けいたしかねます。)

pagetop