2021.06.21
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高校生に地域課題の解決に実際に取り組む経験を New Education Expo 2021 リポート vol.4

今回は、広島の高校生たちが、企業やNPO、大学と協働して、広島の魅力と課題を世界に発信する学校外でのプロジェクト学習「広島創生イノベーションスクール」や、地域課題と持続可能な世界実現の課題を重ね合わせる、福島県立ふたば未来学園の「未来創造研究」のケースをもとに、教室外での教育や新たな学びのフィールド、その役割等を考えたセミナーをリポートする。

未来の学習環境(教室、学校における学び方)を考える

前広島県教育委員会 学びの変革推進課長
現・広島県総務局付課長/立命館アジア太平洋大学(APU)特別研究員 寺田 拓真氏

福島県立ふたば未来学園中学校・高等学校 副校長 南郷 市兵氏

3年間にわたる、高校生向けプロジェクト学習

2030年における地域・広島・世界の、よりよい未来づくりに繋がるイベントを実行せよ!

『過去よりも未来』『結果よりもプロセス』

寺田 拓真 氏(広島県総務局付課長 立命館アジア太平洋大学(APU)特別研究員)

前半では、広島県総務局付課長 立命館アジア太平洋大学(APU)特別研究員の寺田拓真氏が登壇。同氏は2004年文部科学省に入省し、2014年に広島県教育委員会に出向。(2017年に文部科学省を退職し、同委員会に転籍)「広島版『学びの変革』アクションプラン」の策定や、全寮制の広島県立広島叡智学園中・高等学校の創設、「広島創生イノベーションスクール」の企画、高校入試の改革などを担当してきた。今回のセミナーでは「広島創生イノベーションスクール」を中心に話が展開された。

「広島創生イノベーションスクール」は県内の高校生たちが、企業やNPO、大学と協働して、広島の魅力と課題を世界に発信する学校外でのプロジェクト学習。「新しい地域・国・世界を創るイノベーターの育成」「主体的・協働的・探究的な学びを実現する新たな教育プログラムの開発」「高校生の力により地域課題を解決する地方創生モデルの創出」を狙った。実施期間は2015年度〜2017年度の3年間。県内13の高等学校に在籍する87人が参加した。

“2030年における地域・広島・世界の、よりよい未来づくりに繋がるイベントを実行せよ!”というミッションのもと、チームごとに取り組んだ。3ヶ月に1回・2泊3日程度の「全体スクール」では学校・地域を超え、高校生の絆を築き、1ヶ月に1回程度の「エリアスクール」で仲間と地域課題の解決を目指し、「グローバルスクール」ではハワイを訪れ海外の生徒と共に学び、「グローカルスクール」では海外の生徒を広島に招き、協働してイベントを開催した。

「こだわったのは、提言発表型ではなく、課題解決に実際に取り組む“実践型”のPBL(Project Based Learning)であること。また進学校だけでなく、学力困難校や農業高校、NPOや大学生、社会人を巻き込んだマルチな協働を意識しました。さらに外国人と意見を交わす環境を作るべく、世界4カ国の生徒36人に参加してもらいました」

第一回の全体スクールでは生徒にしおりを配布。「上下関係を持ち込まず対等に議論しよう」「アイディア出しではどんな意見でも歓迎しよう」「ポジティブシンキングを心がけよう」など、イノベーションスクールでのルールを明確化した。

「徹底的にディスカッションすることで“余計にわからなくなりました”という状態になってもらうことが狙い。安易に答えが出ないように配慮しました」

最終日には、活動のリフレクションとして、振り返りビデオを視聴し、以下の「基本様式」に基づいて回答した。

〔○○について〕

 (1)これまでの私は、______と考えていた。

 (2)今は、______と考えている。

 (3)そこで私は、_____に取り組む。

「ワークショップでありがちな『今回、何を学びましたか?』ではなく、『過去よりも未来』『結果よりもプロセス』に焦点を当てました」

教育現場では評価こそが最も重要と話す寺田氏。「評価」は「評定」がイメージされがちだが、evaluationではなく、reflectionとassessmentという中間的な評価を充実させるべきと強調する。

「総括的な評価だけでなく、形成的評価を意識することが未来の教育の大きなカギとなると思います。また先生だけで評価を背負い込まず、専門家などもっと色々な人を巻き込むべき。それゆえPBLという時間で色々挑戦して、評価のあり方を改めてデザインする必要もあると考えます」と寺田氏は訴えた。

「変革者」を育成する、未来創造型教育

震災と原発事故を乗り越え、新しい生き方、新しい社会の建設を目指す

地域課題の実践に取り組む文化を醸成

南郷 市兵 氏(福島県立ふたば未来学園中学校・高等学校 副校長)

続いて、福島県立ふたば未来学園中学校・高等学校 副校長の南郷市兵氏が登壇。

同氏は文部科学省入省後、被災三県との連絡調整を担当。福島県双葉郡の教育振興に携わり、未来学園の開校準備を担った。2015年4月、福島県立ふたば未来学園高等学校の開校と同時に、副校長として着任。今回のセミナーでは、ふたば未来学園高等学校の未来創造型教育が紹介された。

震災と原発事故という、人類が経験したことがない災害に見舞われ、困難な課題な直面した福島県双葉郡。「新しい生き方、新しい社会の建設を目指すべき」という背景のもと、ふたば未来学園高等学校は2015年に開校した。

「正直申しますと、かなり急いで開校したため現場は大混乱に陥っていました。教員は4月1日に着任し、その1週間後に入学式というバタバタな状況でした。ハードは十分に揃っておらず、あるのは理念と戦略だけというような。特例的に希望者全員が入学できたため、他校で不登校だった子もいれば、地域の復興のリーダーになるという志を持つ子など様々な生徒がいたのも印象的でしたね」

あまりの忙しさに開校当初は教員の意見が分かれることも多かった。そんな中、目指すべき学校にするためには、どのような力を育てる必要があるかを全教員で洗い出し、ルーブリックを作成した。「学力概念」「資質・能力・態度」ごとにレベル1〜5という段階に分け、各目標が定められている。たとえば「寛容さ」におけるレベル4と5では以下のように異なる。

【寛容さ】

異文化や考えの違う他者を受け入れ、思いやるあたたかさを持ち、強調して共に高めようとすることができる。

≪レベル4≫
考えの違う他者に対して、ユーモアを持って接するなど、他者との違いを楽しめる。社会や環境の変化を前向きに捉えられる。

≪レベル5≫
考えの違う他者の意見や存在を、自分や社会をより良くしていくための重要なものと考えて受け入れられる。

「“意見をぶつけ合う”ということは、かの米国大統領選挙での応酬のように良し悪しはあるものの、一方で日本では違う意見があった時に沈黙してしまうという傾向があります。そのどちらでもなくて、違う考えを受け入れながら協働できる力を養成するという思いを込めました。ルーブリックの作成は、教員自らビジョンを掲げ、目差すべきことを言語化するというプロセスにも価値があったと感じます」

また同学園では、全学年で地域課題と、持続可能な世界実現の課題を重ね合わせる「未来創造研究」を実践している。福島の復興や全国の地域の少子高齢化などの課題を、他人事ではなく自分事として考えてもらうことを目指した「地域交換留学」や、福島第一原発の廃炉プロセスについて専門家と地域住民が議論をし合う「高校生と考える廃炉座談会」など常時200以のプロジェクトが取り組まれている。この活動はPBLで行われ、週に3時間設置。生徒たちは半年に1回、ルーブリックを用いて自己評価を実施し、自身の成長要因についても分析する。

地域や社会に貢献する目的意識が生徒の中に定まっている点も同学園の特筆すべきところだ。4期生(2021年)を対象とした卒業時アンケートでは、「自分が社会とどう関わっていくか見出したか?」という質問に対して88%が「見出した」と回答。また「自分の価値観を考えることに繋がった」という質問には、90%が「繋がった」と回答した。

「この数字は本当に嬉しいですね。PBLを週3回設け、全生徒が地域課題の実践に取り組む文化が定着しているからこそと思います。実社会でプロジェクトを行う中で人と協力したり、失敗したり成功したりと色々な経験を積むことで、汎用的な知識や力も身につきます。PBLを様々な教科と往還させるようなカリキュラム作りにも今後注力したいと考えます」と南郷氏は意気込んだ。

記者の目

学びは「教室」で行われるものとイメージしていたが、2人の話を聞くことで、決して教室内とは限らず、地域や社会、普段出会うことのない人との関わりこそ、成長に深く寄与するのではと感じた。多彩な社会や場に身を置き、学びのフィールドを広げることも、未来の学習環境の大きなカギとなってくると言えるだろう。

取材・文:学びの場.com編集部/写真提供:New Education Expo実行委員会事務局

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