2025.06.02
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主体的な学びを引き出す小学校英語の授業づくり 関西小学校英語教育ネットワーク 第18回春の勉強会リポート

関西の教員が中心となって運営する小学校英語教育の草の根研究グループ、関西小学校英語教育ネットワーク(KEEN)。定期開催しているオンライン学習会には全国から多くの教育関係者が集まり、よりよい英語教育を目指して研鑽を積んでいる。ここでは、2025426日に開催された「KEENマルシェ~あなたのやりたいがきっと見つかる!彩り実践紹介」の模様をリポートする。

KEEN運営メンバー

今回のオンライン勉強会は、彦根市立城南小学校の田鍋敏寿氏の進行でスタート、「彩り実践紹介」と銘打たれたとおり、KEEN運営メンバーによる様々な切り口の実践報告がテンポよく紹介された。

参加者は全国から60名を超え、外国語専科教員や学級担任のほか、外国語活動支援員、教育委員会の指導主事、大学教員、民間の指導者、大学生など、日本全国から様々な立場の教育関係者が、KEEN運営メンバーの実践発表に耳を傾けた後、参加者同士の小グループ交流で活発に意見を交換した。

実践ワゴン①

「個別最適な学び・協働的な学び」の初めの一歩

最初に紹介するのは、大阪府高石市立取石小学校の外国語専科教員である根本孝女氏の授業実践。「世の中には多様な文化、考えを持つ人がいることを知り、考えの異なる他者を尊重して協働できる人間に育ってほしい」との願いから、6年生では「英語を使ってお互いのことを知り、相手も自分も大切にコミュニケーションできる人になろう」というゴールを掲げ、国内外の同年代の子どもや異年齢の学生との動画・オンライン交流を行っている。

今回の実践は2学期に行った国士舘大学体育学部こどもスポーツ教育学科の学生との交流で、単元は「This is my hero.」。大学生と互いの憧れの人や推しの魅力を伝え合うオンライン交流会というゴールに向けて、必要な語句や表現、よりよく伝えるための内容整理などを学び、スピーチを完成させていくというものだ。

しかし、英語が得意な子もいれば苦手な子もいる。「子どもたちが感じている課題や思いは多様で、一斉指導だけで対応するのは難しい」として、根本氏が取り組んでいるのが、個別最適な学びと協働的な学びの一体的な充実による授業改善だ。一斉指導をしないということではなく、「1コマの中に一斉に学ぶ時間、個々で学ぶ時間、協働で学ぶ時間を設け、時数を重ねるにつれて個別最適な学び、協働的な学びの割合が増えていくイメージ」で行っているという。

授業づくりの工夫としては、子どもたちに単元の見通しを持たせるため、山登り型の単元計画(ラーニング・マウンテン)で「めあて」を視覚化し、最終ゴールを見据えたうえで、学びの現在地を確認できるようにしている。個で学ぶには見通しを持つことが欠かせない。

個別最適な学びを充実させるための仕掛けも満載だ。学習の個性化としては、憧れの人や推し、伝えたい内容、伝える方法、練習場所を子どもが選択できるようにした。指導の個別化については、Self-study Time (自学タイム)という個々が目的に応じて自分に合った方法で自律的に学ぶ時間を設定。押すと音声が出るスライドを自分にあった速さで再生し、繰り返し練習できるようにするなどの工夫も行っている。

協働的な学びの充実については、教育用SNS掲示板(Padlet)に毎回スピーチ動画をアップロードし、互いに視聴して学び合えるようにしているほか、友達との学び合いの場も充実させた。振り返りシートはデジタル化して即時共有し、相互参照して学び方のコツをつかめるようにしている。

さらには、本番のスピーチに自信を持って臨めるよう、交流会前に大学生からアドバイスやコメントをもらい、修正に役立てているという。実際に、ある子どものスピーチは最終で文法の誤りと発音が改善、内容も付け加えられた上で整理され、推しの魅力をより具体的に述べられるように進化していた。毎回アップロードしている動画は、e-ポートフォリオともなり、自分でも成長を実感できる。

高石市立取石小学校 根本孝女先生

「個別最適な学びと協働的な学びを一体的に充実させることで、多くの児童が学び方を意識しながら主体的に学習に取り組むことができた」と根本氏。単元の振り返りでは、英語で自分の思いや考えを伝えることに対する肯定的な感想のほか、他者から学ぶことの大きさや、意見が違うからこその楽しさなど、心の成長を書いていた児童も多かったとのことで、「AIと練習するのもいいけれど、やはり人は人と関わることで自分を知り、世界を知り、学んでいくのだと思う。これからも他者とのふれあいを大切に、授業を作っていきたい」と抱負を語っていた。

小グループ交流・シェアタイム

実践紹介後、5名程度ずつブレイクアウトルームに移動して、小グループ交流を行う。記者が参加したルームでは、授業における一斉指導と個別最適な学び、協働的な学びの割合や構造化についての発言が多く、関心の高さがうかがえた。また、子どもの自己決定を促す仕掛けの豊富さと、それによる学びの深化を教師が見取るだけでなく、子ども自身が振り返りによって認知できる授業づくりに感嘆の声が上がっていた。

小グループ交流の内容を全体で共有するシェアタイムでは、「山登り型の単元計画で見通しを持たせて主体的な学びを促すことの大切さを再認識した」という声や、「ゴールに他者との交流を持ってきて子どものやる気に火をつける工夫が勉強になる」という意見も聞かれた。

また、「なぜ大学生を交流の相手に選んだのか」との質問に対し、根本氏は「同年代の皆が知っているようなことも、世代が違えば相手は知らず、説明が必要なこともある」と述べ、大学生を相手にすることで子どもたちの『伝えたい』という意欲が高まり、スピーチの内容をより深く考えさせることがねらい、また、教員を目指す大学生も、今の小学生の興味関心や英語力を知る機会になるとした。

実践ワゴン②

子どもの声を聞くために―振り返りシート改良の足あと

図1

京都市立梅津小学校の俣野知里氏は、これまで自分が使ってきた振り返りシートと、その改良の道筋について語った。

15年ほど前、最初に作った振り返りシート(図1)は、今日のめあてに対する自己評価を4段階尺度と短い文章で記述するシンプルなものだった。当時は外国語専科教員ではなかったため、「子どもたちが自分の授業についてどう思っているかを知りたい」というのが作成のきっかけだったという。

図2

その後、赴任した小学校では外国語専科教員として1〜6年生の授業を担当。振り返りには、端末上のスプレッドシートで4段階尺度を用いた自己評価を行い、共有する方法を取り入れた。それまでは紙の振り返りシートに手書きでコメントを返していたが、デジタル化してからは試行錯誤の末、子どもたちの文章を色分けし、それを皆で見合いながらフィードバックをする方法を取った。

次の赴任先で高学年を担当した時には、ロイロノートで振り返りシート(図2)を作成し、共有した。1単元1枚で、上段には聞くこと・読むこと・話すこと・書くことのいずれか(単元により選択)に対する4段階の評価*と自分のゴールの記載欄を設定。子どもたちが自信をもてるように 、下段にはできるようになったことと、そこに向けて自分がした工夫を書くようにしたほか、みんなへの相談(困りごとや悩み)を書く欄も設けた。

*小学校英語評価研究会(2019)『小学校英語Can-Do及びパフォーマンス評価尺度活用マニュアル~思考力・判断力・表現力及び学びに向かう力評価試案2~(Let’s Try! におけるCan-Do及びパフォーマンス評価試案)』を参照して作成。

図3

一方、2年生の振り返りシート(図3)は、まだタイピングができないため紙を採用。「みんなのゴール」「わたしのゴール」「めあて」というように複数の目標・めあてを整理・関連付けしてわかりやすくし、4段階尺度の自己評価*を取り入れて振り返りの足場かけにできるようにした。

*同上

記述による自己評価の欄は、子どもの考えを引き出す言葉を熟考した末、「わたしのゴールに近づいたこと・次のちょうせん」とした。当初は「がんばったこと」「わかったこと」などとしていたが、それでは自分が知りたいことについての記述が少なかったため、改善したという。また、低学年では自分の伝えたいことを十分に言語化できないところもあるため、絵で表現する欄を作ることも有効であるとした。

この振り返りシートにおける気づきとして、俣野氏は、「子どもたちの『わたしのゴール』は、『国語でもやったけど』『○○タイムの時に』など、他教科の学びや日常生活との関連が多く、思った以上に多様だった」と指摘。そんな子どもたちを伸ばしていくためには、「指導者の目標設定力と計画力が重要」であるとした。「わたしのゴールに近づいたこと・次のちょうせん」でも、子どもたちの自分の捉え方や学び方は様々で、「それぞれの自己肯定感の醸成や、自分を正確に捉えるモニタリング力の向上につながるフィードバックの重要性を感じた」と述べた。

最後に、俣野氏は「これまでの振り返りシートを思い返してみて、私は一貫して子どもの声を聞きたかったんだということに改めて気づいた。とはいえ、自分の知りたいことだけを聞くのではなく、振り返りによって子どもの成長を促すことを意識していきたい」と語った。

実践ワゴン③

「聞く」が変われば「話す」が変わる、単元内自由進度学習の試み

大阪府の羽曳野市立西浦小学校で3〜6年生の外国語活動と外国語科を担当する恩地麻里氏は、単元内で行った自由進度学習の実践について紹介した。

恩地氏が自由進度学習を取り入れた背景には、海外の子どもたちとのオンライン交流で「楽しかったからこそ、もっと深い話をしてみたかった」「もっと英語でしゃべれるようになりたい」という子どもたちの声があった。

「もっと英語で聞く力と話す力をつけさせたい!」と考えた恩地氏は、「聞く」ことの質と量を高めれば「話す」ことにつながるのではないか、と仮説を立てた。そこで、これまでの制約のある聞き方を改め、「好きな時に何回でも、1人でも友達と一緒でも、自分のペースや目的に合わせた速さで『聞く』ことができる」ようにした。

これを授業で実践するために、恩地氏はCanvaでポータルサイトを作り、ユニットごとにGoogle Classroomに埋め込んで、子どもたちがデジタル教材集、単元ゴール(ラーニングマップシート)、ルーブリック(評価ツール)などを自由に使える環境を整えた。単元ゴールの登山道には振り返りフォームへのリンクが埋め込まれ、個別に振り返って入力したり、皆の振り返りを見合ったりできるよう工夫が施された。

「ただし、外国語の授業は英語で喋ってなんぼ。材料を与えたからといって、いきなり喋れるようになるわけではないため、第1時からアウトプット活動を取り入れるようにした」と恩地氏は語る。

1時間の授業は

  1. クイックレッスン
    今日のマイゴール確認、前回のふりかえりやアウトプット素材からクイックレッスン
  2. 自学タイム
    マイゴールに対して学びを選んで学習する時間
  3. アウトプットタイム
    スモールトーク、アウトプットミッション
  4. 振り返り
    学びをふりかえる、次回のマイゴールを確認

という流れで実施。練習動画・本番動画は提出後に共有され、友達のアウトプットを視聴し、アドバイスし合うことができるようになっている。

「アウトプットを増やすことで聞く必然性が生まれる。例えば、教科書の各単元のお話(3分程度)のアテレコチャレンジなら、なりきりたい登場人物、言いたいフレーズの量、話すレベルを自分で選ぶことで、意欲的に『聞く』→『話す』を繰り返すことができる。」

アテレコ動画は、①(アニメーションの)口の動きと音声がぴったり、②発音がお手本と同じ、③人物になりきれているの3点で先生が評価し、メダルを付与している。

羽曳野市立西浦小学校 恩地麻里先生

この自由進度学習への変更は、子どもたちとの合意形成を経てスタートしている。卒業前に、振り返りの中でやってみてどうだったかを聞いてみたところ、自分のペースで進められることをプラスに捉えた意見が多く見られた。

自分で選択する豊かな「聞く」が「話す」につながる。「子どもたちの声が変わった」という恩地氏の言葉通り、見せてもらった本番動画には、自分の伝えたいことを英語で生き生きと話す子どもたちの姿があった。

小グループ交流・シェアタイム

メンバーを入れ替えて行われた小グループ交流では、「振り返りは子どもが自分の学びを把握したり、教師が子どもの成長を見取るだけでなく、教師自身の授業のフィードバックにもつながる」として、その重要性を認識する声が多かった。また、「個々で振り返って終わりにするのではなく、皆で共有することで、友達の振り返りから気づきや学びを得ることができる点にも意義がある」との発言もあった。

シェアタイムでは、「振り返りは子どもの視点を考えてやっていくことが大切」「個別最適な学びの実現には振り返りは必須」「子どもたちがICTを使いこなすためには教師に使い方を指導できるスキルが必要」といった意見が共有された。

また、俣野氏には「振り返りにどのくらい時間をかけているか」、恩地氏には「子どもたちのプレゼン作成などの時間をどう捻出しているか」という質問が寄せられた。「振り返りは授業終わりの5分ほどで行っているが、場合によっては毎時間やらないこともある」と俣野氏。恩地氏は「大体1単元8時間となっているが、帰宅後や休み時間に自主的に、スライドを改良したり、スピーチの練習をしている子もいるようだ」と語った。

KEEN顧問 岐阜聖徳学園大学 加藤拓由先生

勉強会の終わりに、KEEN顧問である岐阜聖徳学園大学の加藤拓由准教授は、「発表された授業はどれも素晴らしく、振り返りカードやICTの活用方法、国際理解を深める活動など、技術的な工夫は多岐にわたる。しかし、私たちはそれらにばかり意識を向けるのではなく、この先生たちが何を目指そうとしているのか、外国語の授業を通してどんな子どもを作ろうとしているのか、というところに目を向けないと、教育のゴールにはたどり着かないだろう。発表された先生方は、教師としての子どもを見る視点や、育てたい子ども像が明確だった」と指摘し、「密度の濃い、深い哲学を持った授業を実践している」と評価した。

記者の目

個別最適な学びと協働的な学びを効果的に取り入れたい、振り返りを充実させたい、自由進度学習のやり方がわからない……本勉強会の授業実践には、そんな悩みを持つ先生方が試してみたくなるようなアイデアが満載だった。豊かな経験に裏打ちされた先生方の実践からは、表面的なテクニックにとどまらない深い学びが得られると感じた。

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取材・文:学びの場.com編集部 画像提供:KEEN

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