教育トレンド

教育インタビュー

2019.09.18
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福井大附属校 教員の気持ちを一つに。環境が変える「働き方改革」を語る

~ 一貫校の職員室の一元化、席のフリーアドレス化がもたらす時間の効率化と質の向上 ~

国立大学法人福井大学教育学部附属義務教育学校は、前期(小学校)・後期(中学校)課程を通じて9カ年の小中一貫校。2019年1月に前期・後期課程の校舎の間に「中央棟」が完成し、これまで長い廊下を隔てて別々に設置されていた職員室の一元化に踏み切った。

また、前期課程の教員の席を固定にせず、フリーアドレス化という大胆なアイデアでこれまでの職員室の在り方に変化をもたらしている。4月から職員室の顔ぶれも新しくなり、教員自身の意識や業務の質はどう変わったのか。中央棟の設計に関わった前校長で福井大学教職大学院教授の三田村彰先生、前期課程教頭の濱野泰臣先生、後期課程教頭の木本茂先生にお話を伺った。

違う文化を知ることで生まれる教員同士の一体感

「フリーアドレス」のきっかけは企業のオフィスで

三田村福井大学教職大学院教授

学びの場.com前期課程と後期課程の職員室を一元化して、フリーアドレスにしようというアイデアはどのように生まれたのでしょうか?

三田村2016年に本学の校長を務めていた時、とある会社に研修のために訪問したのですが、その会社では決まった席のないフリーアドレスを採用していました。広々とした空間に大きなソファが配置されていて、社員がごろんと横になってくつろいだり、自由に行き来したりしているのを目の当たりにして、最初は「なんだここは!?」とけげんに思ったんですよ(笑)
だけど数日通ううちに、私たちが打ち合わせをしていると、勝手に会議に関係のない社員が「こんなアイデアもありますよ」とテーブルに来て、話が終わるとまたふらっと帰っていくんです。全く別の角度からのアイデアが飛んでくるので、これはおもしろいと思い、ぜひ職員室に採用しようと考えました。

一貫校の「壁」を取り払い、心を一つにする

教員のロッカーはパーティションかつ打ち合わせテーブル

学びの場.com職員室の一元化によって、どういった課題が解決されると考えたのでしょうか?

三田村私は教育委員会に勤務していた頃、校種の異なる学校の一貫校を開設する仕事を行ってきましたが、一貫校の最も悩ましい課題が「教員同士の気持ちが一つにならない」ということでした。成長に応じて教える時期や内容が異なりますから、そもそもの文化が違う小学校と中学校の間にはどうしても厚い「壁」が作られてしまう。
だからこそ私は、強引にでも職員室を一元化したかった。お互いにどんな文化の中で教えているのだろう?子どもたちはどんな成長過程を経て活動しているのだろう?そういったことをふだんから目の当たりにすることで、自然とお互いを知り合えると考えたのです。

従来の1時間から、5分で終わる「会議」に

職員室内のちょっとした打ち合わせスペース

学びの場.com実際に一元化をした後、どのような変化が生まれたのでしょうか?

三田村劇的に変わったのは、教員の時間の使い方だと思います。例えば、行事などの準備のための話し合いですが、これまではわざわざ時間を取って「会議」と称して1時間ほど費やしていました。今は気がついた時に教員同士が机を囲んで立ち話で済んでしまう。それも5分ほどです。
現在行われている「働き方改革」は、単純に「仕事の時間を削る」ということ。しかし、子どもたちのためにプロフェッショナルとして頑張る教員たちは、丁寧な仕事をしたいと考えているので、かえって時短によって納得のいく仕事ができなくなり、不完全燃焼に終わってしまう。本当の「働き方改革」は環境から変えなければ、根本的には難しいのです。

「聞き耳」が仕事をスムーズにする

後期課程教員ゾーン:空きコマに在席して仕事中

学びの場.com仕切りがない、フリーアドレスという自由さが、教務を煩雑にしそうな気もするのですが……

三田村フリーアドレスについては、「席替えができる」と教員自身が楽しんでいるみたいですよ。他の教員が業務をしているすぐそばで打ち合わせや会議をすると、「うるさい」と感じるかと思いましたが、意外と教員たちは気にせずに仕事していますね。
むしろ、仕事をしながら「聞き耳」を立てて、「他の教科はこんな風にやっているのか」「あの学年は今こんな課題を抱えているのか」といった情報がどんどん入ってくる。意識せずに重要な情報を共有できることが、校務をスムーズにし、教育の質を高めていると確信しています。

共有スペースを解放し、もっと自由に多様な使い方を

1学年120名が入って活動できるプロジェクトルーム

学びの場.com職員室の上の階にある「プロジェクトルーム」は、どのように利用されていますか?

三田村本校にはこれまで、学年集会などに使えるようなちょうどいいサイズのスペースがありませんでした。そこで、さまざまな使い方ができる「プロジェクトルーム」を設置しました。
設計・施工企業の担当者と相談しながら、間仕切りが必要な時のロールスクリーン、ホワイトボードやプロジェクター、簡単なステージなどをそろえ、折りたたみの椅子や机も組み合わせによって多様な使い方ができるように考えました。生徒たちにも教員にも大変好評で、取り組みに応じて使っているようです。

教員の「顔」が見えると、心の距離が縮まる

木本後期課程教頭(左)と濱野前期課程教頭(右)

学びの場.com現場の教員の方々に変化はありましたか?

濱野前期課程では、準フリーアドレスというのでしょうか、教務の先生がテーマに応じて、だいたい1カ月を目安に座席を組み替えてくれています。そのため、いろんな人とコミュニケーションが取れるようになりました。

木本後期課程は、学年で共有する情報が多いため、学年ごとにテーブルの島を作っています。学年の中での席の移動は、学年に任せていますが、仕切りがなくなったことでコミュニケーションが取りやすくなりました。

濱野職員室が新しくなったことで、仕切りがなくなり「顔」がよく見えるようになりました。これまでは小中学校で職員室が別だったため、課程が違うと教員の名前すら知らないことも多かったですから、非常に大きな変化だと思います。

⽊本はい、本当に⽬に⾒えるように教員同⼠が仲良くなりました。私は職員室が廊下を隔てた端っこにあった頃に、教員として勤務していたのですが、前期と後期の職員同⼠では正直に⾔ってあまり意思の疎通が取れていなかったですね。この数カ⽉でこんなにも変わるのかと驚いています。

生徒一人ひとりに対して、見守る「目」が増える

プロジェクトルームでの授業の様子

学びの場.com子どもたちに対する指導の中で、何か変化はありましたか?

木本例えば、前期課程を卒業した生徒が後期課程の教員に用事があって職員室を訪れた時、前期課程の先生もいますから、「最近調子どうや?」と声をかけたり、気にかけたりすることができるんですね。後期課程の先生方も、生徒一人ひとりの特性を前期課程の先生から情報をもらって共有できますので、自然とフォローの質が高まっていると感じます。

濱野そうですね。課程の違う生徒の様子をふだんから見ることができますので、一面的な教育ではなく、それぞれの課程で「いつどのような教育が必要なのか」を自然と知ることができ、相互理解に役立っていると思います。

記者の目

今回のお話を聞いて、効率化を目的として区分されていた職員室や席の配置が、かえって非効率を生み出すこともあるということに気づかされた。教育現場も時代の流れによって使いやすいように変化が伴うべきだが、なかなかそういった取り組みをしにくいのも事実。取材中も、机を囲んで談笑する先生方の表情を見ていると、「現場の自由さ」が自主性や独創性を作っていくのではないかと感じた。日々の煩雑な業務に追われるだけの時間を覆すのは、既成概念を壊し、環境から変えること。それをまさしく証明している。

構成・文・写真:学びの場.com編集部

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