子どもの心の動きが「見える」ってどういうこと? ~授業のなかを子どもはどう生きているのだろう~(1)
一人ひとりの子どもに授業の物語があります。
先日、小学校の体育授業で見た1年生の女の子の表情や言動は,今も思い出されます。
この子の心の中では,どんなことが起こっていたのでしょう。
元静岡大学教育学部特任教授兼附属浜松小学校長 大村 高弘
「ダメだよ! 今のは点数に入れちゃダメ」
その日は、ある学校の研究協議会。体育館には大勢の参観者が集まっています。でも委縮する子どもの姿はあまり見られません。自分らしさをありのままに出せるクラスづくりが進んでいるようです。
教材は「ネット型」のボールゲーム「キャッチフロアボール」。
子どもは1チームが4人で,攻めと守りに分かれています。
攻めのシューターは,ボールを転がし相手コートの奥にいる見方のキャッチャーにパスを通そうとします。通れば1点。守りは転がってくるボールを止めて得点を阻止。合計得点で勝敗を競います。
試合を見ているうち,手でボールを止めたAさんの動きが目につきました。
上から押さえる動きがぎこちなく、運動能力が高くはなさそう。でも,コートの中をフル回転で動いていて、すでに髪の毛は汗びっしょり。
前半が終わると,今度は得点係の役に。
「いけぇ!」
自チームへの応援は大声。心からゲームを楽しんでいることがわかります。授業者が用意した環境設定がいいからでしょう。
1年生でも片手で投げられるボール(柔らかく,大きさも適切)。しかも下を転がってくるボールだから,手でも体全体でも受け止められます。そして,守りにとっては適度な負荷がかかりそうなコートの広さ。
後半もAさんはやる気満々でコートに入り試合開始。
と,相手から来たボールが自分の体にあたってコートの外へ。それを拾ってAさんが投げようとすると,
「だめぇ! こっちのボールだよ」
相手チームの子たちからいっせいに指摘を受けしぶしぶボールを手渡します。アウトオブバウンズの意味がよくわかっていないようです。腑に落ちない顔のまま立っていると,相手が投げたボールはスピードもあって,Aさんたち守りの二人の間をすり抜けキャッチャーへ。
「やったあ,1点!」
すると,Aさんは得点係の子の方に向かって走ります。
「ダメだよ! 今のは点数に入れちゃダメ」
ルール上,ボールはネットの下を転がして通さなければいけない。「今のは上を通った」との主張。
ところが判定してくれる審判や先生はいません。この抗議にはおかまいなしでゲームは進んでいきます。
状況が我慢できなくなったのでしょう。Aさんはコートの中で泣き出しました。近くを通る先生を見つけると近寄って状況を訴えます。併せて相手チームが起こした別の問題についても指摘。
「Bさんは1回もボールに触っていない。Cさんだけがやっているよ」
バレーボール同様に,このゲームには「ローテーション」がルールとしてあったのです。でも相手チームはそれを無視している。そうこうしているうちにタイムアップ。ゲームは終了。
まとめと振り返りの時間,全員が集合した場所でもAさんは泣きやみません。夢中だったから涙がとまらないのでしょう。あんなに前向きにゲームに取り組んでいた子が,ここまで感情を変化させてしまう。
子どもが「見える」ということ
Aさんの動き,表情,かかわり,そこで起こっていた一連の出来事にわたしは直面し,つらい気持ちに感情移入してしまいそうでした。それは参観者の立場だからできたこと。
授業を進行しつつ大勢の子どもにかかわっている先生は、経緯のすべてを目にしているわけではありません。この時点でAさんの心の中に動いているものを理解することは当然難しいです。
一方で,先生はこの子の性格,能力,人間関係,家庭環境,生育歴…… 背景となるものを知っています。それらは参観者にはわからないもの。Aさんのなかにある真実を理解し、今後のために適切なかかわりをもつことはわたしにできません。
文科省が令和4年に改定した生徒指導提要において、「生徒指導の方法」の冒頭に出てくるのは「児童生徒理解」であり、それは「生徒指導の基本」とされています。でありながら、「……日常的に児童生徒に接していても、児童生徒の感情の動きや児童生徒相互の人間関係を把握することは容易ではありません。……」とも記述されています。これがいかに難しいことであるか、わかります。
保育者の目
前を見ていても,
横の子どもの体の動きが
見えるのです
後ろの子どもの心の動きが
見えるのです
そうでしょう
その神経の使い方が,
保育者なのです
『まごころの保育:堀合文子のことばと実践に学ぶ』
50数年を保育実践の場で過ごされた堀合先生は,「後ろの子どもの心の動きが見える」と言っています。
どうしたらこんなふうに子どもの心が「見える」ようになるのでしょう。これから探っていきたいと思います。

大村 高弘(おおむら たかひろ)
元静岡大学教育学部特任教授兼附属浜松小学校長
新しい学習指導要領の改定に向け,準備が進んでいくことと思いま
アフターコロナの時代,社会が大きく変化する中で,学校と授業は
今後の学校教育に期待することを,不易・流行の両面から考え、お
ご意見・ご要望、お待ちしています!
この記事に対する皆様のご意見、ご要望をお寄せください。今後の記事制作の参考にさせていただきます。(なお個別・個人的なご質問・ご相談等に関してはお受けいたしかねます。)
この記事に関連するおススメ記事

「教育エッセイ」の最新記事
