2024.12.11
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子どもの心の動きが「見える」ってどういうこと?  ~その子の体は何を感じとり,その子の目からはどう見えているのか~(3)

図工の授業を校内研で参観したときのこと。授業者はチャレンジ精神旺盛なA先生。新規採用3年目の明るい女性でした。昼休みは,学級の子どもたち(4年生)といつもドッジボール。活気のあるクラスづくりを進めていました。
いきなり本論に......  ちょっと急ぎすぎたかな。

今回はこの校内研の出来事をとおし,授業をしたA先生にとって,また参観したわたしたち同僚にとって,子どもが「見える」とはどんな経験だったのか,考えてみたいと思います。

元静岡大学教育学部特任教授兼附属浜松小学校長 大村 高弘

ダイナミックな造形活動をさせてあげたい

先日,街のメインストリートを歩行者天国にし,市民が集まり造形を楽しんでいる動画を見ました。色とりどりのガムテープをアスファルト道路に貼って,太陽,星,魚など子どもたちが表現しています。イメージを自由に形にしていく姿はとても楽しそう。広々した空間を使った造形活動は魅力的ですね。

この日の図工授業でA先生が願ったものも同じでした。
ただでさえ活発な4年生の子どもたち。互いの体が妨げ合うことなく,自由に全身を使った活動ができるようにしてあげたい。そう考えたA先生は,授業場所の工作室に置かれていたテーブルと椅子をすべて廊下に出してしまいました。

ー わぁ,いつもとちがう -
工作室に入ってくる子どもたちのワクワク感がわたしたち参観者に伝わってきます。
先生は本時のめあてを確認し,子どもたちは各々用意した材料を使って工作を進める活動が続きました。

自分が教師であることは忘れて

研究授業だったので,抽出児が一人位置づけられました。
その子のすぐ横には,B先生(A先生と仲良しで,同じ学年を組んでいたベテラン女性教師)にくっついてもらうことにしました。でもその役割は,抽出児を観察することでなく,その子と同じ造形活動をすること。制作のための材料も事前に用意しました。自分が教師であることはいったん忘れてもらい,45分間を子どもの身になって過ごすことをお願いしたのです。

放課後の授業検討会。
参観者の数人が発言した後,B先生は語りはじめました。
「椅子がなくて座っていると,床って冷たいのね。座っていたらお尻が痛くなっちゃって。これが2時間続きの授業だったら,子どもたちどうだったかしら?」
確かに工作室にはじゅうたんなどは敷かれていません。
― 子どもたちも,そう感じていただろうなぁ ―

「床の上に制作物を置くと,手で作っていくのに体を屈ませないといけないのね。それがけっこう辛いのよぉ。自分の体の前に,椅子ぐらいの台があるとよかったな」
ー 子どもはこんなこと口にしなかった。でも「なんかやりにくい」と感じていたかもしれない -

子どもの体が語る言葉を聴く

B先生の報告は,わたしたち参観者とまったく次元の異なる内容でした。
子どもがしている行為を,その時その場で同じようにやってみた。と,その子の体の中で動いていたものが身のうちで再現され,子どもの気持ちに近いものを感じ取ることができた。B先生はわたしたちの観察や解釈を越え,表に出てこなかった子どもの心のつぶやきを代弁してくれたのです。

これは藤岡完治先生の指導を受けて校内研に取り入れた「参加観察法」です。
藤岡先生は演出家の竹内敏晴氏のレッスンを受けた経験がおありでした。竹内氏は『子どものからだとことば』のなかでこう書いています。

「私がレッスンをしている時,相手の人たちのからだの中に起こってくる動きが自分のからだに伝わってくる。それでもなおかつ明確に感じ取り切れない場合には,そのからだのまねをするのです。すると,そのとたんに,その人のからだの感じが,たとえばどういう目で世界を見,向かい合っているか,ちぢまっていたり,あったかい感じを持っていたり,そういうようなことがすっとわかってくる……」

子どもの体は本時の活動をどう感じているのか。子どもの目からは、教材や周囲の環境や授業者は、どう見えているのか。それを理解する方法の一つが,子どもの体のまねをしてみるということ。

子どもの事実こそ

協議会中,前に座っていたA先生は,B先生の報告をうなずきながら聴いていました。
― 「よかれ」と思って用意した環境だった…… ―
そんな思いも心のなかにあったかもしれません。でも彼女はB先生の報告をかみしめ,自分の授業をとらえ直しました。「子どもを中心に位置づける」とはどういうことなのか,心のなかに深く残ったのでは。そして私たち参観者は,子どもの体に共振し,その子の心が語るものに耳を澄ますことの魅力を知りました。

参考資料

大村 高弘(おおむら たかひろ)

元静岡大学教育学部特任教授兼附属浜松小学校長


新しい学習指導要領の改定に向け,準備が進んでいくことと思います。
アフターコロナの時代,社会が大きく変化する中で,学校と授業はどう変わっていくべきなのでしょう。
今後の学校教育に期待することを,不易・流行の両面から考え、お伝えしたいと思います。

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