2025.03.19
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鉄板ネタ!4月の体育授業開き(前編)

指導者の熱意と語りが授業成功の鍵!
教材だけの模倣は失敗のもと。
集合ゲームやバナナ鬼で学級経営力を発揮し、子どもたちとの信頼関係を築こう!
明るい雰囲気に包まれる鉄板アイデア。

目黒区立不動小学校 主幹教諭 小清水 孝

教材と語りはセット

優れた研究授業を観た,よい教育書を読んだ,身銭を切ってセミナーに参加した,にもかかわらず,自分の学級で実践しても手応えがない。読者の皆様には,そういった経験はないでしょうか?

力のない指導者は,「今年はダメな子どもたちだな」「成熟していない学級だな」という思考に陥ります。自己研鑽後の落とし穴(筆者の造語)です。未熟な筆者自身には何度も経験があります。
後に紹介する「集合ゲーム」「バナナ鬼」は魅力的な教材です。しかし,教材のみをトレースすると,なぜか自分の学級でうまくいかないといった現象が起きます。なぜ,そのような現象が起きるのでしょうか。

筆者が実技研修会の講師として何度も経験したことを記します。研修会が終わり,数日経って,参加者の方から「自分の学級ではうまくいかなかった」という感想をいただきました。よくよく聞いてみると,失敗の原因は教材だけをトレースしていることにありました。指導者の思いや願いが感じられなかったのです。
優れた授業は,「教材」と「語り」がセットで展開されます。ぜひ,指導者の思いや願いをのせた力強い語りをしてください。各所で「ほめちぎる」と記しましたので,読者の皆様の参考になれば幸いです。

4月は絶対「体ほぐしの運動(遊び)」

図1 小学校における体育科の領域体系

小学校学習指導要領(平成 29 年告示)解説 体育編 

筆者は,これまで東京都教育委員会による研修の恩恵に与ってきました。東京教師道場,東京都教育研究員,東京都小学校体育研究会等,体育科の指導力向上に係る研修です。100名超の参観者の中で授業をさせていただく機会が何度もありました。
また,教育雑誌,体育科の副読本,教育論文等の執筆や,研究発表の機会を有難いことに数多くいただきました。

これらの中でも,一番に自分を成長させたと思うのは,東京都小学校体育研究会での研究です。研究部長職を2年間拝命し,猛勉強しました。筆者の専門領域は体つくり運動です。
小学校における体育科は,図1のように体系化されています。
注目すべきは「体ほぐしの運動(遊び)」です。これは6年間通して取り扱う内容です。筆者は次のことを強く勧めます。

「体ほぐしの運動(遊び)を4月の最初の体育で行った方がよい!」

絶対にお勧めです。やらなきゃ損,もったいないと本気で思います。筆者は,教員対象の実技研修会の講師を30回以上務めました。その経験から「鉄板と言える教材」と「教師行動」を,微力ながらお伝えできればと思います。

4月の鉄板ネタ!初日【A集合ゲーム】

集合ゲームのイメージ

筆者作成

優れた体育科の学習,落ち着いた学級経営。どちらも共通して言えることに,次のことが挙げられます。

「速く集合することができる」
「指導者の近くに集まれる」

何だそんなことか,とプロフェッショナルの指導者は思わないでしょう。きっとうなずかれるはずです。うまくいかない体育科学習,落ち着きのない学級では,集合が遅く,指導者の近くに集まることができません。現場で数年間体を張った指導者ならご理解いただけると思います。

筆者は,集合ゲームを通して,集合を速く行える学習集団に育てることを提案します。

①ルール説明

「先生とじゃんけんするよ。先生に勝ったらこのマット(*1),あいこはそっちの扉(*2),負けたらあっちの跳び箱(*3)をさわって先生の近くに集まります」

*1・・・集合場所から1番近いモノ
*2・・・集合場所から2番目に近いモノ
*3・・・集合場所から遠いモノ

②じゃんけん

「最初はグー,じゃんけんぽん!」
子どもたちはわぁ~。きゃ~と言いながら走り出します。

③カウント

指導者は,集まった子から「1番!」「2番!」「3番!」と順位をつけていきます。多少曖昧になっても構いません。筆者も正確に数えることはできません。曖昧でも,このカウントによって,子どもたちは「やばい!急がなきゃ!」となります。

④遅い子をほめちぎる

筆者は,最後になっても,一生懸命に走って集まった子を絶対に取り上げます。最後に走ってきた子の名前を呼び,立たせ,「Aさんに言いたいことがある」と言います。子どもたちは「えっ!?」となります。構わず続けます。
「Aさんは,最後まで走ってきました。素晴らしい。Aさんみたいな人が増えると,運動時間が増えてよい体育の学習になります。ありがとう!」
学級は明るい雰囲気に包まれます。年度初めの引継ぎで,やんちゃな子をチェックしておき,ここぞとばかりにほめ,信頼関係を構築する算段です。

⑤集合はおにぎり

「今ね,皆ね,急いで集まれて素晴らしかったのですが,ちょっとぎゅうぎゅうですね。人と人の距離が近過ぎるんですね。みんながお米だとしたら,ぎゅっと固く握った美味しくないおにぎりみたい。美味しいおにぎりは空気が入っていて,米粒同士に適度な隙間があります。今度は美味しいおにぎりで集まっておいで」

このように語ってから,②③④を3ループくらい繰り返します。

⑥指導者の立ち位置を変化

3ループ目くらいに入ったところで変化を入れます。子どもとじゃんけんした直後,指導者は跳び箱(*3)の方へ走って移動します。じゃんけんの勝敗による移動距離に逆転現象が起きるわけです。集合場所が変わるだけで熱狂します。
5ループ目にもなると,じゃんけん直後,筆者は立ち位置を固定せず,動き続けます。指導者の近くに集まろうとする子どもたちが,鬼ごっこのように追いかけてくる状況になります。これもやっていただくと分かりますが大熱狂です。最後は子どもたちが指導者を捕まえるような状況となり,笑いに包まれます。

筆者は,集合ゲームを7分程度で5ループ行います。あまり長くやると集中力が持続しませんので,短時間でパッと終えます。

4月の鉄板ネタ!初日【Bバナナ鬼】

バナナ鬼のイメージ

筆者作成

心を育てるバナナ鬼を紹介します。バナナ鬼をしたからと言って,心は育ちません。心を育てる語りが重要になります。教材と語りはセットです。最も重要なことは,指導者が何を見取り,何を語るかです。

ぜひ,ご自身の学級の「あの子」をイメージしてください。「あの子」の心を育てたいと,指導者が心の底から思えるかが鍵となります。

①ルール説明

「鬼に捕まった人は,その場で立ち止まります。掌を合わせて上に挙げ,バナナになります。1回助けてもらったら片手を下ろします。もう1回助けてもらったら,もう片方の手を下ろします。バナナの皮みたいですね。両手が下がったら逃げることができます。同じ人が連続で2回助けることはできません」

②鬼役をほめちぎる

鬼の数は,児童数の4分の1程度にします。初めに鬼に立候補した子を力強くほめます。拍手を強制することもいとわないことです。「いや~,先生感動しました!こんなに早く自分から『鬼やるよ!』と言ってくれるなんて,本当に感動。この積極性や利他の精神は,よい学級の証なんですよ。みんな,拍手!」

③ほめたい子を注視

遊びの時間は3分×3回程度で十分でしょう。心したいのは,指導者がほめたい子を注視することです。やんちゃな子でもよいですし,目立たない縁の下の力持ち系の子でも構いません。重要なことは,「この子をほめる!」と心に決め,注視することです。

④助け合いをほめちぎる

3分経ったら集合させます。先の集合ゲームによって,集合が速く,集合隊形も上手になっているはずです。まず,そのことをほめます。集合後に,30秒ほど目をつむらせます。
「目をつむってください。自分を助けてくれた人を思い出します」
発表させます。
「Bさんが2回助けてくれました」
「Cさんが,自分を犠牲にして助けてくれました」
このとき,BさんやCさんを立たせて,ほめ,みんなで拍手を送ります。ここまでするから,学級が明るくなるのです。明るい学級は,指導者が仕組み,子どもたちが作るのです。
「友達を助けたBさん,Cさんは素晴らしい!」
「BさんやCさんに感謝できた発表者もまた素晴らしい!」
「なんてよいクラスなんでしょう。先生は幸せです」

以上が前編です。繰り返しになりますが,優れた授業は,「教材」と「語り」がセットで展開されます。どんな学級になってほしいか,指導者が自分自身に問い掛けることが肝要です。

次回,後編では,【Cフープ遊び】【D風船チャレンジ】【Eジャイアントウォール】をお伝えします。実技研修のご依頼の連絡をいただければ全力でサポートいたします。

小清水 孝(こしみず たかし)

目黒区立不動小学校 主幹教諭


フープ1本でできる運動を3つ以上言えますか? 
現場で使える技術、できる実践、リアルな指導法を日々追究しています。
現場の先生方、共に考え、指導法の選択肢を増やしていきましょう! 
NPO教育サークル「GROW5th」代表。

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