若い先生たちに伝えたいこと「個別最適化の先にあるもの」(NO.8)
イギリスに、「馬を水辺に連れて行くことはできても、水を飲ませることはできない」ということわざがあります。
(英語表記では、You can take a horse to the water, but you can't make him drink.)
特定非営利活動法人TISEC 理事 荒畑 美貴子
馬を水辺に連れて行くことはできても、水を飲ませることはできない

©まつやま登
これを、「子どもに知識を詰め込もうとしても、本人のやる気がなければ学習に向かうことはない」と解釈することもできます。実際に私が子どもたちに授業を行い、学習に向かわせようとするときに、こういったことはよく起きているように感じます。
ただ多くの場合は、子どもたちは勉強するために学校に来ていると思っていますし、学校は勉強するのが当たり前だと考えています。ですから、授業が多少つまらないと思ったとしても、子どもたちは教師が学習するように促すと応じようとしてくれます。
しかし、無意識に知識を詰め込むとか、やらねばならないからやるといった気持ちだけで、能力を伸ばしていくことには限界があります。「好きこそ物の上手なれ」ともいわれるように、子どもに意欲がなければ知識も能力も身に付きにくいのです。
ですから、教師にとって最も大切な仕事のひとつは、子どもたちの学習に対するモチベーションを上げ、それを維持することではないでしょうか。
前置きが長くなりましたが、子どもたちの意欲を高めるためのひとつの手法が、個別最適化と呼ばれるものです。私はこれまでも、学習の際には子どもが選択できる余地が必要だと考えてきましたが、個別最適化はそれをさらに推し進めるものだと解釈しています。
個別最適化を取り入れた図工の授業
さて、私の勤務校では1年生を対象に、個別最適化を図工の授業に取り入れようと1月に研究授業を行いました。
坂を転がるおもちゃを作らせるにあたって、自分のイメージに沿った材料を選ばせ、組み立てるのも子どもたちの考えに任せようと試みたのです。まず、保護者から必要だと思われるような材料を提供してもらい、紙コップや紙皿などを買い揃えて、思い思いの材料を選べるように配慮しました。そして、作り方も全く指導せず、困ったときには支援する姿勢を貫いてみました。
結論を申し上げますと、子どもたちはとても意欲的に活動しました。「こうでなければならない」というしがらみが一切なく、念入りな説明もなく、失敗という概念もない世界は、子どもたちにとっても心地よいものだったのかもしれません。
もちろん、「転がる」という仕組みがわからずに組み立てしまったり、車を作ればいいと思い込んでしまったりする姿もありましたが、友達の作ったものを真似るとか、それに工夫を加えるとかして、それぞれに満足のいく作品ができました。
個性を伸ばし、自分らしい生き方を見つけていくために
「基礎的・基本的な知識や能力を身に付ける」という視点も学校教育には求められるので、全ての教育活動に「個に応じた選択の幅を広げていく」ことは、すぐには難しいかもしれません。
しかし、子どもたち一人ひとりの個性を伸ばし、自分らしい生き方を見つけていくためには、教師も「授業とはこうでなければならない」といった考え方を切り替えていく必要があるのではないかと思っています。
大人のレールの上だけを歩かせておきながら、個々人の多岐にわたる生き方を模索させていくことには矛盾があるからです。

荒畑 美貴子(あらはた みきこ)
特定非営利活動法人TISEC 理事
NPO法人を立ち上げ、若手教師の育成と、発達障害などを抱えている子どもたちの支援を行っています。http://www.tisec-yunagi.com
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