2021.10.02
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若い先生たちに伝えたいこと「教師と子どもの思いを理解し合うために」(NO.3)

子どもたちと信頼関係を築くために、教師と子どもの思いを伝え合い、理解し合うことを心掛けてほしいと思います。

特定非営利活動法人TISEC 理事 荒畑 美貴子

【教師の思いの伝え方】

©まつやま登

担任であろうと、教科を受け持つ教師であろうと、子どもと出会ってからのひと月、あるいは1学期というのは苦労の連続です。それは、教師の思いを子どもが理解していかなければならない期間だからです。逆に、子どもの思いを聞くことによって、教師が子どもたちを理解していく期間だとも言えるでしょう。信頼関係を築くための時間であり、教師としての踏ん張りどころともいえる時間でもあります。
このような出会いのころの苦労を、軽く考えるべきではありません。授業をするのは大事ですが、それ以上に信頼関係を築くための努力をしていくことが、後々のクラス運営に大きな影響を与えるからです。
では、なぜそのような苦労を伴うかと言いますと、子どもは大人に忖度しないからです。子どもたちは、大人の気持ちを察する力が十分ではありませんし、大人の気持ちを汲み取って行動する必要もないからです。

子どもたちに話すときには、「次はこうします」という指示を出すだけではなく、「こうしてほしい」という気持ちと、その理由を語っていくことから始めてみましょう。
例えば、「今日の4時間目には体育があるので、中休みに着替えておきましょう。休み時間が短くなるという不満があるかもしれませんが、3時間目が終わってからでは着替えが間に合いません。誰かが着替え忘れてしまうと、体育をする時間そのものが短くなってしまうし、給食の準備にまで影響が出てしまうので協力してくださいね」といったように話します。
朝の会などのスケジュールを説明する時間には、こういった丁寧な話し方をぜひ心がけてみてください。
「いちいち長い説明が必要なのだろうか?」「忙しくてそんな暇はないのに…」と思われるかもしれませんが、それも最初の一週間を乗り切れば、子どもは教師の意図を汲み始めます。
「この先生は、自分たちのことを考えて言ってくれているんだな」という気持ちが子どもに芽生えてくれば、率先して協力してくれるようになります。説明を通して教師の声にも慣れ、指示が通りやすくなるのです。

それから、自分をさらけ出して、弱みを見せるような話もしていきましょう。子どもが、「この大人は信用できる」と感じるのは、常に正しいことを言わなければならないと背伸びをする、聖人君子のような存在に対してではありません。誠実で取り繕うこともなく、失敗の中から学ぼうとしている人物に惹かれるのです。
また、ユーモアがあることも大切です。自分の失敗を笑い飛ばせるような豪快さや、辛い気持ちを楽しい話に作り替えることができるおおらかさも魅力となります。それは、大人同士であっても同じではないでしょうか。
気をつけてほしいのは、子どもは匂いを嗅ぎ分けるように、自分が信頼できる相手を見極めるという点です。表面だけを誤魔化そうとしても、子どもには通じません。

【子どもの思いの聞き方】

自分の思いを伝えるだけではなく、子ども一人一人の思いにしっかりと耳を傾けていきましょう。子どもたちの心の中には、自分の話を聞いてほしいという強い欲求があります。もちろん、この人は聞いてくれそうだなと判断したときに、話したい気持ちがムズムズするように感じます。
ただ、今は聞いている余裕がないと思うときには、「これから授業の準備をするから、次の休み時間になったら話してね」とか、「○○さんとの話が終わってから聞かせてね」とはっきり伝えましょう。
横入りして話してしまう子どもにも、「□□さんと話しているから、順番を待とうね」と言い聞かせます。これは、人と関わる際の基本的なルールやマナーですから、はっきりと言い切った方がいいと思います。
ただ、子どもとの約束したときには、それを忘れずにいてください。「待って」と言われたから待っていても、聞いてくれないという不満を残すことになるからです。

また、一日の中で30人を超える子どもたち全員の話を聞く時間を取るのは、とても難しいものです。その代わりになるものとして、一行日記を書かせることをお勧めします。もちろん、数行でもかまいません。書く方も読む方も負担にならない長さであった方が、続けやすいからです。
始める前に、日記の中には伝えたいこと、知っておいてほしいことなどを書いてもいいと説明しておいてください。それによって、子どもは安心して心の中身を吐き出せるようになります。中には、「○○さんと児童館で遊びました」といったことを繰り返し書いてくる子どもがいるかもしれませんが、友達関係を把握するきっかけにもなるので、思いが書かれていないからと指導する必要はありません。
返事は、「ちょっと残念だったね」「またやれるといいね」のような短いものでも大丈夫です。続けることが大切ですし、もし短いコメントしか書けなくて心苦しいときには、その理由も話しておくといいでしょう。子どもたちは、教師が全ての子どもに返事を書く時間的余裕が少ないことを理解してくれます。

私の受け持った子どもの中には、日記でしか思いを伝え合えなかった子どももいます。恥ずかしくて、自分の思いを声では伝えられなかったのだろうと思います。卒業のときには手紙をくれましたが、やはり面と向かっては何も言ってくれませんでした。私はそのとき、日記を続けてきてよかったと思いました。文字でのやり取りがなかったら、きっとその子どもの気持ちを理解するチャンスはなかったと思うからです。

荒畑 美貴子(あらはた みきこ)

特定非営利活動法人TISEC 理事
NPO法人を立ち上げ、若手教師の育成と、発達障害などを抱えている子どもたちの支援を行っています。http://www.tisec-yunagi.com

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