若い先生たちに伝えたいこと「多様な価値観の保護者と関わること」(NO.7)
前回お話ししたように、私は今、久しぶりに担任をしています。担任をするのは嫌いではありませんが、保護者との関わりが密接になるのは、いくつになっても苦手です。
特定非営利活動法人TISEC 理事 荒畑 美貴子

©まつやま登
私が大学卒業直後に保護者と出会ったころは、年上の保護者とどのように関わるべきかと悩みました。
産休代替で臨時的に働いていた私に対し、「期待していません」と言い切った方もいらっしゃいました。一方で、若いなりに精一杯やっている姿を評価してくださった保護者もいました。
それから月日が経って、次第に保護者との年齢が近くなってくると、友達のように関わってくれる方も現れました。気楽に相談してくれたり、冗談を交わしてくれたりする関係も、悪くないと思ったころの話です。
今でも、その世代の方達とは年賀状のやり取りがあり、いつまでも友達感覚でお付き合いができています。
そしてまた時間が過ぎて最近になると、私が保護者よりも完全に年上という関係になりました。これで楽になれるかと思ったら、実はそうでもないのです。
ジェネレーションギャップという表現は好きではないのですが、価値観や考え方が大きく変化してきていると感じます。
気になる点のひとつは、自分自身や子どものことを客観視できていない方がいるということです。
自分だけに注目してほしい、自分こそがトップであることを認めてほしいといった関わり方を求められている方もいます。そこには、多様な価値観の中で、子育てをどうしていったらいいのか分かりにくいという不安があるのかもしれません。
しかし、学校は30人前後の子どもたちに対し1人の担任が存在するといった形をとっています。担任は1人の子どもだけにかかりきりになることはできませんし、どの保護者がトップかと競い合うことに意味はありません。
また、家庭と学校では子どもの様子は異なります。集団の中の関わりというのは複雑で困難さが伴います。模擬的な社会を経験する場ですから、それも必要な練習のひとつなのです。
でも、困難さが大きいことを伝えようとしても、「家では大丈夫です」と担任の話に耳を傾けようとしない保護者もいます。子どもは、自分の身を守るために、学校での出来事を正直に話せないこともあるのに、我が子の主張だけを鵜呑みにしてしまう保護者もいるのです。
二点目は、自分が子育てに直接関わることを避けようとする保護者がいるということです。
例えば、算数の計算が苦手だと分かると、塾に入れておしまい。宿題を見てやろうとか、宿題を見ている中で困難な点を知ろうということを抜きにして、塾に任せっきりというのはどうなのかと考えさせられます。
家庭では、会話をしたり読み聞かせをしたりして、語彙を増やしたり感情表現の仕方を知らせたりしていく必要があるのですが、そういったことも面倒に思っている方もいるようです。
三点目は、苦情を言うことで解決すると思っている保護者がいることです。教師の性で、苦情を言われれば必死で対応策を考えます。しかし、教師とて人間ですから、苦情を言われた嫌な気持ちを忘れることはありません。対応してもらえたらオッケーということではなく、子どもと関わる大人が協力するという視点を忘れないでほしいと思うのです。
もちろん、教師に非があるならば、苦情も仕方ありません。しかし、はっきりとした責任の所在がないような中身であるならば、質問する、相談するといった形をとってほしいと願います。
私はそろそろ、教師人生が終わりに近づいています。しかし、若い教師の皆さんは、これからも保護者との付き合いが続くのです。もし、上記のような保護者と出会ったなら、同僚と話をしてください。誰もが似たような苦労をしているはずです。理解のある先輩は身近にいるのです。そうして、知恵を出し合って、保護者と関わっていってほしいと思います。

荒畑 美貴子(あらはた みきこ)
特定非営利活動法人TISEC 理事
NPO法人を立ち上げ、若手教師の育成と、発達障害などを抱えている子どもたちの支援を行っています。http://www.tisec-yunagi.com
同じテーマの執筆者
ご意見・ご要望、お待ちしています!
この記事に対する皆様のご意見、ご要望をお寄せください。今後の記事制作の参考にさせていただきます。(なお個別・個人的なご質問・ご相談等に関してはお受けいたしかねます。)
この記事に関連するおススメ記事

「教育エッセイ」の最新記事
