2022.03.31
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震災を知らない世代に向けた授業の実践(9) ~閖上の空へ~ハト風船にメッセージを(さいたま市立植竹小学校 教諭 菊池健一さん)

東日本大震災を取り上げた授業を、さいたま市立植竹小学校 教諭 菊池健一さんが連載形式で紹介します。第9回では、被災地で飛ばすハト型の風船に子どもたちが震災について学んだことを思い出しながらメッセージを書きました。

丹野祐子さんとの出会い

丹野さんの息子さんの部屋

今年度担当している子どもたちは東日本大震災後の生まれです。当然、当時の記憶はありません。そんな子どもたちが震災を身近に、そして自分事として感じられるようにするため、被災地の「人」にスポットをあて、児童に紹介をしてきました。そのお一人が、宮城県名取市閖上の丹野祐子さんでした。

丹野さんは、東日本大震災で中学校1年生の大切な息子さんを亡くしました。息子さんを亡くしてから、中学校の遺族会を立ち上げ、慰霊碑を守る社務所として「閖上の記憶」という施設も作られました。丹野さん自身も閖上に家を再築され、息子さんの部屋も作り、息子さんが大好きだった集英社の「週刊少年ジャンプ」という雑誌を11年間毎週購入し続けています。今では、息子さんのために作ったお部屋の中に「週刊少年ジャンプ」が所狭しと並んでいます。

私は今年度の夏休みに被災地を視察し、丹野さんとお会いして話を聞く機会を得ました。そこで聞いたことなどを子どもたちに伝えることで、子どもたちの震災や被災地への関心が高まってきました。そのことが原動力となり、このレポートでも書いてきたような充実した学習を進めることができました。学習も佳境に入り、もうすぐ3月11日を迎えることになったときに、丹野さんから閖上のハト風船が届きました。毎年、「閖上の記憶」ではハト型の風船にメッセージを書き、亡くなった人に届くように飛ばす追悼式が行われています。そこで飛ばす風船に子どもたちがメッセージを書かせていただくことになりました。

ハト風船に子どもたちの思いを

授業の掲示の様子

子どもたちは、事前に新聞を読んだり動画を観たりして、閖上でハト風船が飛ばされている様子を観ました。丹野さんは昨年、風船に「たまには帰っておいで」と息子さんへのメッセージを書いたそうです。
子どもたちはこのメッセージを知って、
「丹野さんは、今でも息子さんのことを忘れていないんだ」
「丹野さんにとって、3.11は今でも特別な日なんだ」
「丹野さんは今年はどんなメッセージを書くのかな」
など、感想を述べあいました。
そして、自分たちも東日本大震災で命を落とされた方にメッセージを書きたいと思うようになりました。
丹野さんがハト風船にメッセージを書いたことを取り上げた記事を読むと、丹野さんは「当たり前と思っていた日常が当たり前ではなかった」と言っています。
子どもたちとこの言葉をかみしめ、メッセージを書くことにしました。

子どもたちにはグループに1羽のハト風船を配布しました。そして、これまで震災について学んできたことを思い出しながら、メッセージを書くように伝えました。
子どもたちは友達とこれまでの学習を想起しながら思い思いのメッセージを書いていました。
「大切な命をこれからも大切にしていきます」
「元気で見守っていてください」
「一日一日を大切にしていきます」
「命は一つしかないので大切にする!」
「あなたがいたことを忘れません」
など、たくさんのメッセージがハト風船に書かれました。
このハト風船を閖上の方たちに託して、3月11日に飛ばしていただくことになりました。

閖上のことを取り上げた新聞記事を読む

ハト風船にメッセージを書く児童

今回、ハト風船にメッセージを書く活動について、いくつかの新聞社から取材をしていただきました。子どもたちにとっても私にとっても大変良い経験になりました。
子どもたちの活動を取り上げてくださったある新聞社の記事の見出しは、「さいたまの児童 メッセージ『自分の命を大切にします』」でした。
この記事を読んで子どもたちは、「ぼくたちが、震災について学んで一番大切だと思って発表した『命を大切にしなければならない』ということが記者さんの心に残ったんだね。うれしいね」と話していました。

また、別の新聞社の記事の見出しには、
「『命を大切に』思いを込め 風船にメッセージ」とありました。
子どもたちはこの記事を読んで、やはり自分たちが一番伝えたかった「命を大切にしたい」というメッセージを取り上げてくださっていたことにうれしさを感じていました。

3月11日、子どもたちと一緒に遠く名取市閖上の「閖上の記憶」でハト風船が飛ばされる様子を動画で視聴しました。全部で311羽のハト風船の中に、自分たちが書いたハト風船も交じって空にゆっくりと上っていく姿を観ながら、これまでの震災学習を思い出しました。子どもたちに、前日にいただいた丹野祐子さんのメッセージを伝えました。

「空はつながっている!」

きっと、閖上の空に、子どもたちの心の声が届いたのではないかと思います。ぜひ子どもたちにはもう少し成長したら、実際に閖上の地を訪ねてほしいと思っています。そして、空を見上げて今回の活動を思い出してくれたらこんなうれしいことはありません。

震災を取り上げた学習も終わりに近づいてきました。残すは、3月11日の新聞記事をスクラップする活動です。最後まで子どもたちとしっかりと学んでいきたいと思います。

文・写真:菊池健一

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