2022.02.10
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震災を知らない世代に向けた授業の実践(2) ~道徳で震災のことを知る(さいたま市立植竹小学校 教諭 菊池健一さん)

東日本大震災を取り上げた授業を、さいたま市立植竹小学校 教諭 菊池健一さんが連載形式で紹介します。第2回では、国語を中心とした教科横断的な学習のうち道徳の授業を使った実践をリポートします。

道徳で震災を学ぶ

震災を取り上げた授業実践がスタートしました。前回までの学習では被災地の「人」にスポットを当て、宮城県石巻市の大川小学校で語り部をする鈴木典行さんと名取市閖上で遺族会の代表を務める丹野祐子さんを紹介しました。
子どもたちは具体的に被災地の方を知ることで、震災に関心をもつようになりました。児童には、この単元における学習の目的が、国語科で「地震から身を守るためにできること」についての意見文を書くことだと伝えました。そのために、まずは東日本大震災について詳しく学んでいこうと告げました。

そこで、いよいよ授業実践のスタートです。最初は道徳の学習です。
道徳の資料に東日本大震災を扱った資料があります。各発達段階に合わせた資料が作られています。その中で今回は「家族愛」と「郷土愛」を取り上げた資料を使うことにしました。道徳では、子どもたち同士が考えを話し合う活動を重視しています。
今回の学習でも子どもたちがお互いの考えを話し合いながら、東日本大震災について学び、さらには「家族愛」や「郷土愛」もはぐくみたいと考えました。

「家族愛」「郷土愛」を学びながら

「家族愛」を取り上げた授業の板書

今回の実践では、実際に授業に入る前から震災に関する新聞記事などを示していたため、子どもたちは震災について関心が高まっていました。
授業の導入でも、教師の投げかけに積極的に答えていました

まずは、「家族愛」について学ぶ授業を行いました。
資料では、お母さんを亡くした女の子が、家族のために懸命に働くお父さんの姿を見て、自分も家族の役割を果たそうと思うようになるというストーリーになっています。

児童の話し合った意見を掲示

資料はイラストの挿絵が付いていますが、さらに子どもたちが実感をもって震災を自分事としてとらえられるように、震災でお母さんを亡くした子の新聞記事を授業の最初に示しました。
実際の写真と記事を見ることで、子どもたちは道徳の資料に出てくる主人公のイメージが鮮明にもてたようです。
そのイメージをもって、「どうして主人公の女の子は、家族のために仕事をすると思ったのだろうか」ということをグループで話し合い、発表することができました。
どの子も、一生懸命に考えていました。

「郷土愛」を取り上げた授業の板書

次に、「郷土愛」を取り上げた資料を読みました。
ここに出てくるのが、陸前高田市の「奇跡の一本松」です。
津波を受けた松林の中で一本だけ残った松の木に勇気づけられ、住民の方たちが松林を再生させようと努力をしていくことが取り上げられています。
資料では、一本松の気持ちになって、意見を交換し合い、最後に自分たちの地域にある大切なものについて考える学習となっています。
ここでも、導入で一本松の写真や映像を見せて、震災当時のことをイメージできるようにしました。

児童の話し合った意見の掲示

また、授業の最後に、現在も松林を再生させようと努力をしている陸前高田市の人たちの情報を伝えました。子どもたちは道徳で自分たちの住む町の大切なものについて十分に考えながらも、被災地の情報を得ることができました。そして、一本松のその後についても関心をもっていました。
これら2つの題材の学習を通して、子どもたちはさらに東日本大震災に関して知りたいという意欲が増してきました。
児童のワークシートからは、
「震災で、たくさんの命が奪われたことが分かった。自分のお父さんお母さんはその時にどうしていたのかを聞いてみたいな」
「私たちの住んでいるさいたま市では、どんな被害があったのか知りたいね」
「ここには津波は来ないけれど、海の近くに行くこともあるから、地震や津波のことをもっと知る必要があるね」
などの感想が見られました。

震災についても目を向けて

 2つの道徳の授業の後に、毎日の朝の時間を活用して、震災関連の新聞記事を紹介しました。そこでは3学期に予定している新聞記者(被災地の取材を長年行っています)の授業でゲストに来ていただく方の書いた記事を多く紹介しました。その記者は、特に前のレポートで報告した、名取市閖上の丹野祐子さんの取材を何度もしています。子どもたちは語り部をする丹野さんを知っているので、取材をした記者の記事にも大変興味を示しました。

今回は初めて東日本大震災後の世代との学びなので、たくさんの人を紹介することを心がけています。
子どもたちからは、
「記者さんに被災地の取材で撮影した写真をたくさん見せてもらいたい」
「丹野さんをどうして取材したのか。そして取材をしてどう思ったかを聞いてみたい」
「初めて被災地に行った時にどう思ったか聞いてみたい」
などの声が聞かれました。

記者とも連携しながら、授業づくりに取り組みたいと思っています。ここまでで、2学期の学習が終わりました。
3学期は国語科の意見文を書く学習を行う単元を通じて、震災のことを学んでいく予定です。様々な教科や領域で取り組んだ学習を有機的につなげて、児童の震災への興味関心、そして防災への意識を高めていきたいと考えています。

文・写真:菊池健一

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