2022.02.24
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震災を知らない世代に向けた授業の実践(4) ~震災の時に家族は…(さいたま市立植竹小学校 教諭 菊池健一さん)

2011年に発生した東日本大震災から、今年で11年を迎えます。
今の小学生たちには東日本大震災の記憶はほぼありません。東日本大震災後に生まれた子どもたちに向けて、震災の恐ろしさや防災の大切さについて伝える授業を、さいたま市立植竹小学校 教諭 菊池健一さんが連載形式で紹介します。
第4回では、家族や教員など身近な人たちから実際に震災を経験した話を聞くことで、子どもたちが震災を自分事として捉えていく実践についてリポートいたします。

東日本大震災の時にどんなことがあったか

児童に示した震災当時の新聞

児童は、これまでの学習で東日本大震災について学んできました。震災に関する新聞を読んだり被災地の動画を視聴したりすることで、被災地の方々について知ることができました。
また、震災を取り上げた道徳資料による学習を通して、被災地の様子や被災された方々の思いを知ることもできました。それらの活動を行いながら震災に関心をもつようになってきました。

さらに、震災について関心を高めるために、当時のさいたま市の被害について児童に説明をしました。当時の様子は地元の埼玉新聞社の記事に詳しく掲載されています。その記事を読んで子どもたちと当時の様子を確認しました。

「先生、この写真はこの近くのものだよね。信号が止まっていて車が困っているよ。こんなことがあったんだね」
「この車の長い列は何を待っている列だろう。そうか、ガソリンスタンドに並んでいるんだ。ガソリンも手に入らなかったんだね。先生も学校まで2週間ぐらい歩いて通ったと言っていたね」
「お店に品物が全然なくなってしまっているね。みんな困っただろうね」
「帰れなくなってしまった人たちが、さいたまスーパーアリーナにたくさんいるよ。僕のお父さんも帰れなかったといっていたよ。どうして帰れなくなってしまったんだろう」

など、自分が住んでいる身近な地域で起きたことを知ることで、児童は震災への関心をさらに高めていきました。そして、もっと震災のことを知りたいと思うようになっていきました。

家族へのインタビューの発表

身近な人にインタビューした児童の発表メモ

2学期に、児童に自分の家族が東日本大震災の時にどうしていたか、そしてどんなことを考えたかをインタビューする課題を出しました。
児童は当時まだ生まれていなかったので、身近な家族の話を聞くことで当時の様子を知ることができると考えました。そして、全員でインタビューしてきたことの発表会をしました。

「わたしのお母さんは車の中にいたそうです。周りの人がとても驚いた様子だったので、『何が起こったのだろう』と思ったそうです。たくさんの人が表に出てきていたと言っていました」
「お父さんは、会社で仕事をしていました。地震でびっくりして何が起こったのかわからなかったそうです。家族は大丈夫かどうか心配になったそうです」
「お母さんはスーパーで買い物をしていました。品物が落ちてきてびっくりしたそうです。とにかく、『お兄ちゃんを迎えに行かなければいけない』と思ったそうです」

と、それぞれのインタビューの発表をすることができました。

児童は、お互いに発表を聞きあうことで、東日本大震災の時の様子をリアルに感じることができました。
特に、自分と身近な人や友達の身近な人がどんなことをしていたかを知ることで、当時のことをより鮮明にイメージできるようになりました。

教員の震災経験を知る

発表のための原稿を書く児童

家族が東日本大震災の起こったときにどこにいてどんなことを考えたのかをインタビューすることで、当時まだ生まれていなかった児童も震災を自分事として捉えられるようになってきました。
震災について、また防災についてさらに知りたいという気持ちも芽生えてきたようです。続けて、3年生を担当する3人の教員の震災時の経験を児童に話すことにしました。

授業を担当する私は、東日本大震災が起こった際に、地元のある新聞記者と話をしていました。当時、新聞教育が学習指導要領に盛り込まれるということがあり、新聞社が新聞を活用した授業を取材に来ていました。参観してもらった授業についての話をしているときでした。突然の大きな揺れに驚いたことを覚えています。そして、話をしていた会議室の棚が倒れ、ガラスも割れました。地震が大変長い時間続きました。地震の後に、学校に残っていた児童を送っていったり、体育館に避難してくる人たちのための買い出しに行ったりしました。幸い、学校に泊まらずに帰宅してもよいという許可が出たので、どうしても保護者が迎えに来られない児童を送ってから自宅に帰りました。いつもは15分ぐらいで自宅に帰れるのに、その日は1時間半ぐらいかかりました。自宅に帰ると、テレビのCMが政府の広告機構のものになり、ほとんどのチャンネルで震災のことが報じられていました。この先、どのようになるのだろうと不安になりました。

児童は、担任の私以外の教員からも話を聞き、さらに震災のことを身近に感じられるようになりました。児童は、身近な家族や教師の経験を聞くことで、震災について詳しく知りたいという気持ちを高めました。
この後の学習で、東日本大震災や被災地の様子について取材を続けてきた新聞記者を招き、震災について、そして被災地の状況についての話を聞くことになりました。児童は、「地震から身を守る方法」に関する意見文を書くことがこの学習のゴールとなっているので、記者から「文章の書き方のコツ」も学ぶことになります。
教科の学習のねらいも見据えながら、さらに防災学習を進めていきたいと思っています。

文・写真:菊池健一

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