2022.03.17
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震災を知らない世代に向けた授業の実践(7) ~小学生でもできることを知る②(さいたま市立植竹小学校 教諭 菊池健一さん)

東日本大震災を取り上げた授業を、さいたま市立植竹小学校 教諭 菊池健一さんが連載形式で紹介します。第7回では児童たちと同じ小学生のときに宮城県で被災した方をゲストティーチャーを招き、子どもの目から見た避難所での生活などを語ってもらいました。

ゲストティーチャー・武山ひかるさん

子どもたちに震災当時の話をする武山さん

いよいよゲストティーチャー・武山ひかるさん(宮城県東松島市出身・小4の時に被災)が子どもたちに話をしてくださる日になりました。子どもたちは武山さんからどんなお話が聞けるのかと楽しみにしていました。また、当時、武山さんはどんな様子だったのかを知りたいと興味関心を高めていました。武山さんが教室に入ると、不思議な感じがしました。事前に武山さんを取り上げた新聞を毎日のように読んできたので、子どもたちは武山さんと初めてお会いする感じではありませんでした。武山さんもすぐに子どもたちに当時のことを語り始めました。

武山さんは、東日本大震災当時、東松島市の4年生でした。ちょうど理科のテストを受けている途中で大地震に遭ったそうです。地震の大きさが尋常ではなく、机が廊下や窓の方に飛ばされ、机の中にもぐれなかった友達もいたそうです。子どもたちは地震が起きたら「机の中にもぐる」と教わっていますが、地震が大きいとそれもできないことがあると知り大変驚いていました。

武山さんの話をメモする様子

児童からの事前の質問には以下のようなものがありました。

「車で津波に遭ったときにどんなことを感じましたか」
「避難所ではどんな生活だったのですか?」
「避難所で楽しいことはありましたか?」
「友達や知っている方がなくなってしまったときにどんなことを感じましたか」

その質問に答える形で、丁寧にわかりやすく話をしてくださいました。

武山さんの話の中で、当時、子どもの立場で感じたことや考えたことについての話もありました。一番印象的だったのは「避難所で子どもが邪魔者にされた」というお話です。当時の避難所では、きっと大人も先が見えずにイライラした状態が続いていたのだろうと思います。子どもたちが遊んでいるとそれを叱ることや、子どもたちが何か手伝いたいといっても、逆に邪魔にするような雰囲気があったようです。また、学校に戻ってからも、亡くなった友達のことなどを先生が話してくれなかったことについても、子ども心に「どうして?」という気持ちだったと話してくださいました。

私も当時被災地の学校の教師だったら、子どもたちに友達の死を話すことができなかったのではないかと思います。そして、きっと武山さんの学校では先生方が共通理解を図り、「子どもたちに心配をかけないようにしよう」と判断したためだと考えます。しかし、武山さんの話から、子どもたちは大人が感じているほど子どもではなく、しっかりと事実を知りたいと思っているのだということが分かりました。話を聞いていた子どもたちも、「もし自分だったら……」という気持ちで真剣に話を聞いていました。

児童の感想から

武山さんが書いた絵本

子どもたちには武山さんのお話を聞いて考えたことをワークシートに書くという宿題を出しました。また、同時に、保護者に武山さんから聞いたお話をして感想を聞いてくるようにも話しました。子どもたちの感想には、

「津波が黒い手のようだったという話がとても心に残った」
「避難所では本当に食べ物が少なくて困っていたんだ」
「1週間もお風呂に入れないなんて、本当に大変だったんだね」
「お父さんに再会できた時はきっとほっとしたと思う」
「何か自分でも役に立つことをしたいと思っていたけれど、大人に邪魔者扱いされたのが本当につらかったんだね」

など、思い思いの感想がつづられていました。また保護者の感想には、

「当時子どもだった立場で子どもたちに震災のことを話してくれるのは大変ありがたい」
「同じぐらいの年頃なので、子どもたちもお話がよく分かったようです。家でもどんなお話だったか話してくれました」
「語り部としてたくさんの人に震災のことを語ってくれていらっしゃるのがすごいと思いました。子どもたちにもよい経験になりました」

などがありました。子どもたちには保護者に武山さんの話をして感想を聞いてくることを宿題として出題したので、詳しく保護者に話ができたようです。保護者にも協力いただき、感想を詳しく話していただくことで、子どもたちは武山さんの話の内容を多面的に理解できたようです。

子どもたちは後日、武山さんにお礼の手紙を書きました。これまで学習した手紙の書き方を生かして、どんなことを書けば武山さんにお礼の気持ちや自分が感じたことが伝わるかを事前に考えました。そこで、「武山さんの話で一番心に残ったこと」と「自分が防災に関してこれからやってみたいと思うこと」を書くことになりました。子どもたちは心をこめてお手紙を書いていました。

武山さんのお話を聞いて、子どもたちは「子どもでもできることはやらなければならない」という気持ちを持つようになりました。授業では、まず、学校内で大地震に遭ったらどうすべきかを調べて、その対応を伝えるための意見文を書くことになりました。たくさんの人に読んでもらえるような意見文を書いていきたいと決意を新たに次の学習に進んでいきます。

文・写真:菊池健一

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