新提言 シン・生活指導「生き方四原則」
森信三氏が提唱する「躾の三原則」をベースに,挨拶,返事,後始末に,「〇▢▢い」という新たな要素を加えた「生き方四原則」を提唱します。
子どもの頃から大人まで,人生のあらゆる場面で役立つ「生き方」を育む教育法。学校や家庭での実践を通して,子どもたちの成長とより良い社会の実現を目指します。
目黒区立不動小学校 主幹教諭 小清水 孝
三つ子の魂百まで
日本全国の学校に知れ渡る躾の三原則です。
① 挨拶
② 返事
③ 履き物を揃える(後始末)
発案者は,昭和の教育者・哲学者である森信三氏。
ご存知の方も多いことでしょう。
全国各地の学校だより,学童保育や家庭教育関連の施設のお便り,企業のホームページにも数多く引用されています。「森信三 躾の三原則」と検索してみてください。情報が山ほど出てきます。
森氏の提言は,時代を超え,私たち教育者に対し,基本に立ち返ることの大切さを説いているようです。
「躾の三原則」から「生き方三原則」へ
私は森氏の「躾の三原則」を継承・発展させ,「生き方三原則」を提案しています。家庭教育,義務教育に留まらない,一生に通ずる「生き方三原則」です。
読者の皆さんは,「①挨拶」「②返事」「③後始末」が,段階的な発展を遂げることを想像できるでしょうか。
「③後始末」を例に挙げます。
後始末を何段階にイメージできるでしょうか。
幼児,児童,生徒に対し,使ったおもちゃを片付けなさい,靴を揃えなさい等と言い,徹底させますね。
これが後始末の「初期段階」。端的に言えば物の後片付けです。
「第二段階」はどうでしょうか。
小学校の低・中学年にもなれば,椅子を入れなさいと言い,徹底させることでしょう。椅子をしまわないと,他者の迷惑となります。椅子の後始末を通して,他者意識を育んでいるわけです。自分だけではなく,他者も関わってくるのだと。「後始末は人の為ならず」です。
そして,「第三段階」。
小学校の高学年や中学生にもなれば,喧嘩の後始末もさせたいと思うのは私だけでしょうか。
喧嘩するのはよい。
しかし,後始末ができない,やらない,はダメ。
教員や友達に喧嘩の後始末をしてもらっている子はいませんか?私が勤務した学校には山ほどいました。
こうした子が,年々増えてきているように感じます。現場の先生方は,どのように感じられるでしょうか。
後始末ができないなら,喧嘩する資格ナシ。他者にお尻を拭いてもらっているのは,乳幼児と同レベルであることを知る必要があると思います。私の考えは厳しいでしょうか。少なくとも,義務教育では,こうした段階を追って指導したいものです。
最終,第四段階。
高校,大学,社会人。
後始末の高次なレベル,状況をイメージができるでしょうか。
仕事における重要事項の失念。
プロジェクトの失敗。敗北。
カップル解消,離婚。
土地の処分。
親の葬儀。
人生には様々な後始末があります。
誠意ある,納得感のある後始末をできるのが一流の社会人です。
ここまで記したように,段階をイメージできれば,「躾」に留まらず,「生き方」へと昇華させることができるでしょう。
「①挨拶」「②返事」も同様です。(原稿の文字数の関係で,①②については別個の機会があれば記載したいと思います)
ここまでが「躾の三原則」を発展させた「生き方三原則」です。読者の皆さんが,生徒指導主事として,生徒指導部員として,学級担任として,考え,実践されることを心より願っています。その一つ一つの実践が,教育界への新たな提案となります。
生き方四原則 ラストピースは「◯▢▢い」
ここからがシン・生活指導。
以下,一生に通じる新提言「生き方四原則」です。
① 挨拶
② 返事
③ 履き物を揃える(後始末)
④ 〇▢▢い
ラストピースは「〇▢▢い」です。〇は平仮名,▢は漢字です。
読者の皆さんは,お判りでしょうか?
答えとなるワードは,本文最後に記載しました。
これも,段階を追って「躾」から「生き方」へと昇華させるべき内容です。幼時から死ぬまで,生涯の人生修行を通じて昇華する生き方の,第四の原則であると思います。
読者の皆さんが「素敵だな」「尊敬できるな」と感じる人を思い浮かべてみてください。家族,恋人,職場の同僚。会ったことがない人でも構いません。その方々は,すべて「〇▢▢い」をしているはずです。それも深く高次のレベルで。
教室で,職員室で,保護者会,学級通信で語る
生き方四原則について,小さな成長が見られたら,子どもを教室前方に集合させ,力強く褒めたいものです。
「今日ね,先生ね,本当に感心した。ある人が素晴らしい行動を取っているところを,先生は見ました。専科で教室移動するとき,友達の分まで椅子を入れていたのです。それもさりげなく。誰だと思いますか?」
このあと,Aさんの名前を挙げれば拍手が起きます。日頃はやんちゃなBさんを意図的に褒め,期待する行動を増やすこともできます。
保護者会では,保護者全員の前でこのエピソード語ります。
一筆箋に書いて保護者へ送ることもあります。
専科教室への移動後,椅子の状況を撮影し,学級通信に載せることもあります。
これらの積み重ねが,保護者の信頼や協力を呼び,指導に相乗効果を生むのです。
私は一筆箋を年間200枚,学級通信は100枚程度書きます。
しかし,これらの中で,最も大切なのは,やはり教室での語り。子どもたちへの直接指導です。
子どもたちの発達段階に応じて,話す内容を選択します。高学年なら喧嘩の後始末を話します。意図的・計画的に,タイミングを逃さずに,です。
大学では教えてもらえない,現場での超実践的な,高等な,専門的な技術です。私が子どもたちに厳しく言うのは「安全」と「生き方四原則」のみです。それ以外は,すご~~~く緩い先生だと子どもたちに思われています。
目を見る,名前を呼ぶ
最後に,私が主催する教育サークルで学ばれたA先生(教職3年目),B先生(初任者)の感想を,本人の許可を得て,記載し,本稿を締めくくりたいと思います。大変示唆に富む内容です。
「勉強会に参加する前の朝の健康観察は健康観察カードを見て、返事を耳で聞いて子どもをちらっと見て記入するのが普通でした。しかし、勉強会で、返事をさせること、目を見ることを徹底させている動画を見たあと、ハッとさせられました。帰って実践すると、初めは意味あるのかな?と思っていましたが少しずつ返事の仕方が変わってきました。また、普段の生活の返事も変わってきたように感じます」
「挨拶は『自分から』というのを4月から子どもたちに伝えればよかったなと思っています。以前サークルの勉強会で朝、子どもに挨拶する際は『◯◯さん、おはよう』と名前を呼ぶことが大事だと学びました。学んでから毎朝心がけています。実践してからは、子どもの表情が良くなったような気がします。また、大きい声で返してくれたり、自分からしてくれたりする子も徐々に増えてきました」
前回の記事に,共感された読者の方からお便りをいただきました。大変うれしく思います。読者の皆さんが,ぜひ「生き方四原則」を実践され,指導法の選択肢を増やされることを願っております。
*キーワード「〇▢▢い」=「お手伝い」
小清水 孝(こしみず たかし)
目黒区立不動小学校 主幹教諭
フープ1本でできる運動を3つ以上言えますか?
現場で使える技術、できる実践、リアルな指導法を日々追究しています。
現場の先生方、共に考え、指導法の選択肢を増やしていきましょう!
NPO教育サークル「GROW5th」代表。
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