BINGOで凌ぐ学級経営
著者は、問題行動が頻発する学級を担当し、心身ともに追い込まれる日々を送っていた。そんな中、過去の教育雑誌で紹介されていたビンゴを活用し、授業に取り入れることを決意。ビンゴを取り入れた結果、生徒の集中力が向上し、ワークテストの平均点も上昇。学級全体の雰囲気が改善された。この経験から「ビンゴ」は、荒れた学級を立て直すための有効な手段の一つであると結論づける。
目黒区立不動小学校 主幹教諭 小清水 孝
秋はキツイ、学校はお花畑じゃない
爽やかな季節、秋。
「秋」は、学校現場において、必ずしも平穏無事ではありません。
教育雑誌に踊る「魔の11月」「11月の荒れ」「11月クライシス」などのキーワード。
教育雑誌は全国で販売されますので、全国各地の教室でこの現象が起きているということです。
誤解を恐れずに言えば、学校はお花畑ではありません。
書籍等で目にするキラキラした実践のようにいかないのが秋です。
秋は、教員や子どもたちが問題行動に追われ、精神的にも肉体的にも追い込まれることがあります。ミドル教師やベテラン教師であれば、ご理解いただけるかと思います
特大パンチ、私の苦すぎる経験
教員10年目程度の頃です。
当時の私は、東京都のリーダー研修に選出されました。
自治体を代表するような研究会で研究副部長を拝命しました。
教育雑誌の原稿執筆依頼もありました。
校内においても重要な分掌を任されていました。
端的に言いますと、ノリに乗っていたわけです。
そんな私に特大パンチが来ます。
昭和を彷彿させるようなガキ大将Aくんとの出会いでした。
自治体の競技大会で2年連続チャンピオン。
体格は170cm、80kg。
暴言・暴力は毎日。
周囲の子も小学生ですから、影響をモロに受けるわけです。
本当に、本当に様々な問題行動が発生しました。
無論、Aくんへの対応だけでは済むはずもありません。
AくんがBさんに暴言を吐けば、当然Bさんやそのご家庭への対応が発生します。
複数件を同時に対応することになります。
詳細は控えますが、どのような状況であったか、読者の皆様の想像力にお任せします。
筋論で言えば、校内で管理職がリーダーシップをとり、対策チームを作る必要があります。会議を開催し、当面の関わり方、各所への連絡、校内のマンパワーの振り分けなどがあって然るべきです。
残念なことに、当時の校内はそうしたガバナンスが効いている状況ではなく、学級担任が1人で対応するような状況でした。
私には家庭がある、ギブアップできない
私の体に痣ができ始めた頃です。
心はズタズタでした。
もういいか。ギブアップしよう。少し休もう。私のせいじゃない。
こんな思いまでして働くことはない。
覚悟を決めかけたとき、妻と子の顔が脳裏に浮かびます。
いや、ダメだ。
ギブアップできない。私には家庭がある。
しがみついてでも、やるしかない。
一人だったら諦めていたかもしれません。
(でも、今の私なら、当時の自分に「しばらく休もう」と優しく声を掛けるだろうと思います)
降ってきた救世主BINGO
ふと、本当にふと、初任者のときに読んだ教育雑誌の記事が蘇りました。
「魔法の教材、社会科BINGO」であったように記憶しています。定かではありません。その記事は、「テストに出るキーワードをBINGOの選択肢にすることで、知識の定着を図ることができる」といった内容のものでした。
子どもたちは、集中力が45分間持続しません。荒れた学級を経験したことのある読者の方なら、深く頷かれることでしょう。30分ほど授業をして、残りの時間はBINGOをすることにしました。
BINGOの効果は絶大でした。
繰り返しになりますが、教室はお花畑ではありませんので、もちろん全員が取り組んだわけではありません。そんなドラマチックな展開にはなりません。「めんどくせえ」と言って、取り組まない子は1割ほどいました。
しかし、意欲を削がれていた子どもたちが、僅かに前向きに取り組むようになりました。「悪い方向に流れていた中間層」を取り戻すことは、学級経営において超重要です。(学級経営における「中間層への働き掛けの重要性」については、別の機会があれば書きたいと思います)
この瞬間の空気は、今も鮮明に覚えています。アレ!? いつもと空気が違う。体中にしびれる手応えがありました。
全教科オールBINGO
「うち子の成績が下がっています」
BINGOを取り入れる直前は、そのような保護者からの訴えも少し出始めていました。荒れた学級で実施するワークテストの平均点は、徐々に低下していきます。荒れた学級あるあるです。
BINGOに取り組んでからは、ワークテストの平均点が5点アップしました。特に「知識・技能」の項目がグッと上昇しました。先述の通り、BINGOは、「重要語句の定着」という効果があるのです。
もう、なりふり構わず、全教科でBINGOを導入しました。来る日も来る日も、授業でBINGOをやり続けました。その数は100を超えました。今では「BINGOを授業で利活用する技術」を体系化しています。
今回は、技術を5つだけ紹介します。
①BINGOを行うのは、授業の開始時。(中盤や後半では実施しない)
②児童はノートに日付を書き、横線縦線2本ずつ入れ、9マス作る。(BINGOプリントは作らない)
③「何列BINGOしたか」で競う。
④上位3割の児童にシールを渡し、ノートに貼らせる。
⑤「先生、もう1回やろう」に対して、絶対にのらない。「授業が予定のところまで早く終わったらやるかもしれないよ」とやんわりかわす。
この他にも10以上の技術がありますが、本記事に文字数制限があり、詳細は、別個の機会にもちたいと思います。
「凌ぐ」は教師の高等技術
もちろん、知識はそうやって定着させるものではない、というご指摘もあるかと思います。主体的・対話的で深い学びの実現によって、個別最適な学びによって、〇〇によって、学ぶ時代だ。私も、通常運転時はそのような考えです。全く異論はありません。
しかし、今回記事にしているのは、有事のときの対処法です。
お花畑じゃないときの対処法。 キツイとき、潰れそうなとき、凌ぐときの対処法。
11月のクライシスをどのように乗り越えるかという視点での考えです。
「凌ぐ」と聞いて、安っぽいなと思われる方もいらっしゃるでしょうか。私は真逆です。 「凌ぐ」というのは、集団を統率する専門家としての高い技術であると断言できます。
「凌ぐ」は、指導法の選択肢としてもつべきだと思います。いつも使うのではなく、いつでも使えるように、指導法をストックしておく。いつでも出し入れできるように技術をもっておく。これは、本記事内で一番強調しておきたいことです。
「指導法の選択肢を増やそう」
これは、教育サークルの仲間との合言葉です。
しんどい先生へ
学級の状況が有事であれば、ぜひBINGOをやってみてください。(もちろん有事でなくてもやってみてください)上記①~⑤でやってみてください。
朝起きられたら100点、出勤できたら200点、児童が怪我せずに帰せたら300点。BINGOで授業がうまくいったら400点。授業がうまくいかなくても300点です。毎朝、職員室で同僚に会ったら「私たち200点だね」と声を掛け合いましょう。子どもが下校したら、職員室で「私たち、今日も300点だね」と褒め合うことです。
でも、本当にしんどかったら、1回休んで充電されることをおススメします。もし、この状況を乗り越えられたら、次の年は素晴らしい教師人生が待っているかもしれません。
小清水 孝(こしみず たかし)
目黒区立不動小学校 主幹教諭
フープ1本でできる運動を3つ以上言えますか?
現場で使える技術、できる実践、リアルな指導法を日々追究しています。
現場の先生方、共に考え、指導法の選択肢を増やしていきましょう!
NPO教育サークル「GROW5th」代表。
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