子どもを「スマホ漬け」にしないために、楽しい体験と期待を用意しよう

私、アグネス・チャンがこれまで学んだ教育学の知識や子育ての経験をもとに、学校や家庭教育の悩みについて考える連載エッセイ。寒い冬、気づけば家でスマホばかり見ていませんか。せっかくの年末年始の冬休み、少しだけ過ごし方を変えてみるのもよさそうです。今回は「子どもを『スマホ漬け』にしないために、楽しい体験と期待を用意しよう」をテーマに考えました。
スマホをいちばんの娯楽にしてはいけません
保護者の皆さんにとっては、スマホの取り扱いは頭が痛い問題だと思います。小さい子でもスマホや動画、SNSは面白いので、「見せて」「やりたい」と言ってきます。でも、私はできるだけ子どもには使わせない方がいいと考えています。
アメリカ小児科学会ではスクリーンタイム(テレビやスマホなどの画面を見る時間)について、2歳まではゼロ、5歳までは1日1時間を目安としています。ただ、子どもが大きくなると学校からの連絡や友達とのやりとりに使ったりするので、制限が難しくなってくるかもしれません。
それでも、いちばんの娯楽がスマホになってしまうことには注意が必要です。スマホは脳の報酬系を刺激するので、ドーパミンのホルモンが分泌され、依存になりやすいのです。これはアルコールや薬物の依存症と似た構造です。ホルモンによる刺激を求めて、やめたくてもやめられなくなるのです。そうなってしまうと、何をしていてもスマホが気になり、「早くスマホを触りたい」と落ち着かず、イライラしたり、情緒不安定になったりします。一度、スマホ依存に陥ってしまうと、元に戻るのは大変で、時間がかかります。

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そもそもスマホを使わなければ、依存にはなりません。「安全のため」とスマホを持たせることもあるようですが、見守り用のGPS端末などスマホ以外の選択肢もあります。そうしたものも上手に取り入れてみてください。
また、「周りの子がみんな持っているから、持っていないのはかわいそう」という声も聞きます。しかし、そうとは限りません。スマホの何がいけないのかを、親がしっかりと教えれば子どもも理解できるようになります。
私の孫は今2歳半で、テレビは基本的に見せていませんが、動物番組だけは見ることがあります。そのときに長男が言った言葉が印象的でした。
「テレビを見るということは、見られないつらさを知ることなんだよ」
その言葉を聞いたとき、「なるほど」と思いました。これはスマホにも当てはまります。スマホを触れない時間がつらいことも、スマホを使うことの一部なのです。楽しさとつらさはセットです。それが我慢できないのなら、初めからスマホは使わないほうがよいでしょう。
スマホより面白い世界を用意しよう
スマホはとても魅力的で、よほどのプランがないと太刀打ちできません。小さいうちから、スマホ以外の楽しい趣味や遊びをたくさん用意しておく必要があります。
ちょうちょを追いかけたり、たこあげをしたり、花を摘んで押し花にしたり、外で遊ぶ時間を増やしてみましょう。追いかけっこや花いちもんめ、だるまさんが転んだなど、私たちが小さい頃にやっていた遊びを思い出して、またやってみませんか。
スマホは強敵なので、ミミズを掘る、クモの巣をつつく、水風船を投げるなど、ときには「ばかばかしいこと」もやってみてください。クッキーを作ったり、シャボン玉やビーズで遊んだり、とにかく両手を使っていればスマホをさわるひまがなくなります。
家の中では、ボードゲームの習慣をつけることもおすすめです。うちでも息子たちとよく遊びました。簡単なものから難しいものまでたくさんあるので、子どもの年齢に合わせて家族みんなで楽しめます。アメリカでは、トップの大学に受かった子どもの多くは、家庭でボードゲームをしていたという話もあります。
親に時間がないときには、「プロジェクト」を用意しておくのも良い方法です。私も仕事で一緒にいられないときは、息子たちにいろいろなプロジェクトを与えました。「みんなに送るカードを作ろう」「Tシャツに絵を描こう」など、ちょっとした課題で十分です。そうすると、私がいなくても「作らなきゃ」と思ってがんばってくれます。そして家に帰ったら、完成したものを見せてもらって、一緒に喜び合います。
冬休みをスマホ漬けにしないために
年末年始のお休みをスマホ漬けにしないためには、今から外へ連れ出すための計画を立てておくことが必要です。私は子どもが小さい頃、科学館や博物館、公園によく連れて行きました。
そして、冬休みに向けて、今から期待を高めていくことも大事です。温泉やハイキング、釣りなど、子どもと一緒に「何をしたい?」と話しながら計画を立てます。たとえば、釣りに行くなら「ママは行ったことがないんだけど、何が必要かな」「どうやってやるのかな」と、一緒に調べたり相談したりします。
電車で行くのか、友達を誘うのか、ついでに山登りはどうかなど、子どもを巻き込んで話しているうちに、ワクワクした気持ちがどんどん膨らんでいきます。ずっと楽しみにしていると、当日は興奮してうれしくなります。思い出に残るような体験にするために、当日に向けて期待を育てていくのです。
スマホは面白くて刺激が強く、脳にホルモンが分泌されて次々に花火が上がっているような状態になります。だからこそ、スマホ依存を避けるためには、スマホより面白いことをたくさん用意するしかありません。スマホとは違う、本物の楽しいことを経験させてあげるのです。
人生は豊かで、多くの人と出会い、たくさんのことを体験できます。子どもはその一つひとつを体全体で感じながら成長していく時期です。脳や身体の発達、対人スキルを身につけるためにも、さまざまな体験が欠かせません。それをスマホだけで済ませてしまうことは、もったいないことです。期待や楽しみ、感動など、人生に大切なことをどれだけ親が与えられるか。ぜひ親子の時間の過ごし方を考えてみてほしいと思います。

アグネス・チャン
1955年イギリス領香港生まれ。72年来日、「ひなげしの花」で歌手デビュー。上智大学国際学部を経て、78年カナダ・トロント大学(社会児童心理学科)を卒業。92年米国・スタンフォード大学教育学部博士課程修了、教育学博士号(Ph.D.)取得。目白大学客員教授を務め、子育て、教育に関する講演も多数。「教育の基本は家庭にある」という信念のもと、教育改革、親子の意識改革について積極的に言及している。エッセイスト、98年より日本ユニセフ協会大使、2016年よりユニセフ・アジア親善大使としても活躍。『みんな地球に生きるひと』(岩波ジュニア新書)、『アグネスのはじめての子育て』(佼成出版社)など著書多数。2009年4月1日、すべての人に開かれたインターネット動画番組「アグネス大学」開校。2015.6.3シングル『プロポーズ』release!!(Youtubeで公開中)
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