社会科授業で「予想」から「仮説」へ高める指導の工夫
問題解決を見通すために必要な「予想する」という学習活動。
予想を仮説へ高めるための手立てを紹介します。
姫路市立白鷺小中学校 主幹教諭 竹内 哲宏
社会科の学習過程は、「問題を把握する」→「予想する」→「たしかめる」→「まとめる」→「ふり返る」という流れで構成されています。子どもたちが学習問題や本時の問いを理解した後に位置付くのが「予想する」という段階です。しかし、子どもの思いつきだけに依存した予想では、学習は深まりにくいものです。子どもの直感的な考えは大切にしつつも、それを問題解決に向けた見通しのある“仮説”へと高めていくためには、適切な手立てが必要です。
4年生「兵庫県の特色ある地域の人々のくらし―豊岡市のコウノトリ―」
兵庫県豊岡市にはコウノトリが生息しており、市のマスコットキャラクターにも「コーちゃん」がいます。多くの子どもはコウノトリという鳥の存在は知っていますが、その生態について詳しく知っているわけではありません。そこで学習では、資料を基に豊岡市の自然環境やコウノトリの特徴(大きさ・食性・巣の場所など)を読み取らせ、学習の基盤となる情報を蓄積していきます。例えば、全長約110cm、体重4~5kg、一度に生む卵は2~5個、住む場所は松の木の上、食べ物は田んぼなどの水辺の生き物といった具体的な情報です。基礎的理解が深まった段階でコウノトリの生息数を示すグラフを提示し、1971年に日本で絶滅した事実を捉えさせます。すると、子どもたちの中に「なぜ絶滅したのか」「絶滅したはずなのに、なぜ現在の豊岡市にはコウノトリがいるのか」という二つの問いが生まれます。
今回は特に、絶滅の原因を考えることを中心に学習を進めます。子どもたちは先に得た知識を根拠に予想を立て、さらに「絶滅」という言葉から自分の既有知識を呼び起こし、思考を広げていきます。「住宅が増えて巣が作れなくなった」「木が伐採され巣がなくなった」「災害で住む場所が失われた」など、多様な予想が出されました。これらを「住むところがなくなった説」として整理することで、一つの仮説に高めることができます。同様に、「食べ物がなくなった説」「人間に捕らえられた説」など、複数の仮説を設定し学習の見通しを持たせます(板書①)。
地域の発展につくした人々―河合寸翁の姫路藩復活プロジェクト―
河合寸翁は江戸時代後期、深刻な財政難に陥っていた姫路藩を産業振興によって立て直した人物です。本単元では「河合寸翁は姫路藩の借金を返すためにどのような取組をしたのだろう」という中心的な問いを設定して学習を進めます。しかし、この問いを提示した直後に予想をさせても、子どもは江戸時代の社会の仕組みを十分理解していないため、根拠の乏しい予想になってしまいます。そこで、「寸翁が生きた時代の社会はどのような仕組みだったのか」という、予想の根拠となる情報を得るための問いを設定します。
子どもたちは資料から、当時の姫路藩に暮らす人々の様子、姫路藩の収入と支出の関係、姫路藩と江戸・大阪の結びつき、西日本と東日本の貨幣の違いなどを読み取り、要点を整理していきます(板書②)。これらの情報を丁寧に扱うことで、子どもたちは「借金を減らすには収入(赤色)を増やすか、支出(青色)を減らす必要がある」という見通しを持ち、次の学習へつながる仮説を形成できるようになります。
根拠をもって考える力を育むために
社会科での「予想」は、子どもの主体的な思考の出発点であり、その予想を根拠のある「仮説」へと高めることが、学習を深めるうえで重要な役割を果たします。本稿で取り上げた豊岡市のコウノトリの学習や、河合寸翁による姫路藩復活プロジェクトの学習では、いずれも新たな情報の提示と資料の読み取りを通して、子どもたちが自分の予想を裏づけしながら、より確かな仮説を形成する過程を位置付けました。
こうした「予想から仮説へ」という学習の積み重ねは、子どもたちが社会的事象を多面的にとらえ、より深い理解に到達するための土台となります。教師が適切な資料を提示し、思考を促す問いかけを行うことで、子どもたちは直感的な考えに根拠を付け足し、自ら確かめる学びへと進むことができます。今後も、子どもたちの思考を丁寧にすくい上げながら、根拠をもって考える力を育む授業づくりに努めていきます。

竹内 哲宏(たけうち てつひろ)
姫路市立白鷺小中学校 主幹教諭
世界遺産姫路城の目の前にある姫路市初の義務教育学校に勤めています。
資質・能力を育成するための授業づくりを中心に発信できればと考えています。
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