2022.06.16
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教師の五感を磨く 『触覚』を磨く 直にふれる感覚こそ大切にしたい(12)

「教師の五感を磨く」、今回は、いよいよ五感の最後「触覚」です。
「触覚」とは、その字のとおり「ふれる」こと。何に「触れる」か。そりゃあもちろん、何でも本物に触れることが大切だと思います。それから、間接じゃなくって、人に聞いた話じゃなくって直接に触れることも大事ですよね。大人も子どもも同じです。「本物体験」「直接体験」が、成長には欠かせない、そう思います。ここでは、小中一貫教育を切り口に、これまでと違ったことに直に「ふれる」こと、そこから生まれた「実感」について、つれづれ語ってみたいと思います。

浜松学院大学 現代コミュニケーション学部 子どもコミュニケーション学科 教授  前浜松学院大学短期大部 幼児教育科 特任講師 川島 隆

ドキドキ、ワクワクの小中一貫教育の体験

平成24年(2012)年、今からちょうど10年前、私が勤務していた中学校区が、小中一貫教育試行実践校として指定を受け、その取組を開始した年でした。私は、2つの小学校と1つの中学校を結ぶコーディネーターという分掌を任され、比較的自由度の高い立場で3校を行き来することができました。そこでは、目指す子どもの姿を学校と家庭・地域が共有し、どんな取組が小と中の子どもや教員を結ぶためによいのかを考え、様々な実践の提案をしていきました。
そして、そこから生まれる「実感」を大切にしたいと考えました。

3校の教員にとっても、子どもたちにとっても初めての「体験」。その「体験」から生まれてくる「実感」とは、一体どんなものか。それが私にとっては、とっても愉しみで、ドキドキ、ワクワクの連続だったのでした。
ここでは、子どもたちと私たち教員が経験した「小中一貫教育」の一端と、そこで生まれた「実感」を綴ってみたいと思います。

小学校の教員が、中学校の数学の授業に「ふれる」と何が生まれるか

10月23日から、2小学校のコーディネーターが、中学1年生4クラスを対象に、数学の授業に入らせてもらいました。1クラスあたり2時間、計8時間です。本取組のねらいは、「小学校教員が、中学1年生の数学の授業にT.T(ティームティーチング)として入ることで、個別の学習をサポートし、基礎基本となる力を身に付けさせる」ことと、「小学校教員が中学の学習について理解すること、中学とのつながりを意識した授業改善へ結び付けること、中学生となった子どもの理解を深めること」としました。

内容は、中学校の担当教諭による自作教材「方程式マラソン型ドリルプリントに挑戦」です。10級から1級まで、1シート各4題ずつの構成で、1級まで合格した場合は、入試問題にチャレンジすることとしました。

どの教室でも、生徒が私たち二人の教師を知っているので、笑顔で、温かく迎えてくれました。二人にとっては、それが何より嬉しかったですし、二人の緊張をほぐしてくれました。授業では、丸付けと言いながら、自然に声を掛けながら進めることになりました。特に、2時間目は、つまずきに対する個々への声掛けが中心になりました。子どもたちの「分かる」「できる」に少しでもつながるようにと思いながら、8時間の授業に入りました。

「先生がぼくらの成長を見てくれている」「気合いが入って真剣に取り組めた」 

取組後、子どもたちに簡単なアンケートに協力してもらいました。
その一つ「小学校の先生といっしょに授業をすることについて、どう思ったか」について、こんな声が聞かれました。

○ 先生がぼくらの成長を見てくれているというのがうれしかった。
○ 小学校の先生に教えてもらって、気持ちが少し楽になった。
○ 小学校の先生が来てくれたから、気合が入って、真剣に取り組めた。
○ 久しぶりに小学校の先生に会えて、懐かしくてうれしかった。
○ 小学校の先生との触れ合いもでき、成長したところも見てもらえた。

これが、正直な子どもたちの「実感」であると思いました。そして、「やってみないと分からない」、「やってみたからこそ生まれた」そういう「実感」であると思いました。そして、私は、中学の授業に「ふれた」ことで、子どもたちの成長を感じながら、小学校の教科で指導すべきこと、身に付けさせることの責任もあらためて感じました。

小学生が、中学の体育大会に「ふれる」と何が生まれるか

9月20日、中学で行われた体育大会。それを見学する時間を、2小学校でそれぞれに持ちました。これは、3校が徒歩数分で行き来できるという位置関係にあることが実現を容易にさせたのですが、お互いに顔が見える・お願いができる関係づくりがあったからこそかもしれません。小学生が、中学生が力強く躍動する姿を直に見ること。リレー、全校表現、ソーラン節。目の前の中学生の動きの一つ一つに、声をあげる小学生。これまでになかったことでした。

では、そこで生まれた「実感」は、どんなものでしょうか。

「より引き締まった空気の中で踊れた」「ぼくもあれぐらいにやってみたい」

小学生は、見学後、学級単位で感想を書きました。中学生も、大会を終えると、教室で振り返りをしました。中学校の運動場で、どんな「実感」が生まれたかを紹介します。

【小学生】

○ 最初に綱引きを見ました。すごかったです。次に、ソーラン節を見ました。みんな動きが合っていました。大きな声で言っていました。ぼくもあれぐらいにやってみたいです。かっこよかったです。
○ 『小学生と中学生とこんなに違うものなんだ』と思いました。私たち、6年生があと半年たつと、あの中に仲間入りします。ちょっとの不安と、ワクワク、ドキドキで胸がいっぱいになりました。立派な中学生になれるよう、半年頑張りたいと思います。

【中学生】

○ 小学生の子たちが真剣に見ていたから、より引き締まった空気の中で踊れた。踊り終わった後の拍手が大きく、体育大会がすごい盛り上がった。
○ 真剣に見てくれて、感心した。赤白帽子が懐かしかった。私が小学生の時も見に来たかった。ウチの伝統を受け継いでいってほしいと思った。
○ 去年までの観客席とは違って観客が多くなったので、緊張した。一緒にソーラン節を踊りたかった。次は、小も中も一緒に運動会、体育大会をやって盛り上がるといい。

中学の体育大会を参観することは、小学校教員からすれば、時間も手間もかかります。でも、そこで生まれた「実感」は、有形無形にジワジワと子どもの内に、外に広がり・深まり、子どもの育ちにつながっていくものだと思います。

むすびに

現実の世界や生活の世界と体全体を使って実際にかかわっていくことを「体験」といい、直接,対象に体で触れたり、かかわったりしていく体験を「直接体験」といいます。体全体というのは、「視」「聴」「味」「嗅」「触」といった全ての感覚器官を通して、全身でふれ、関わっていくことです。

教育の世界では、この「直接体験」が、子どもはもちろん、教員にとっても重要な意味を持っていると思います。そこには、必ずかけがえのない何かが生まれます。

川島 隆(かわしま たかし)

浜松学院大学 現代コミュニケーション学部 子どもコミュニケーション学科 教授
前浜松学院大学短期大部 幼児教育科 特任講師


2020年度まで静岡県内公立小学校に勤務し、2021年度から大学教員として、幼稚園教諭・保育士、小学校・特別支援学校教員を目指す学生の指導・支援にあたっています。幼小接続の在り方や成長実感を伴う教師の力量形成を中心に、教育現場に貢献できる研究と教育に微力ながら力を尽くしていきたいと考えております。

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