2022.08.17
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教師の五感を磨く いつ、どこで、磨くのか(15)

「教師の五感を磨く」シリーズ、今回は、最終回です。これまで14回にわたって、教師の「聴くこと」「見ること」「嗅ぐこと」「味わうこと」「触れること」について、考えてきましたが、ここでは、それらを振り返りつつ、まとめてみたいと思います。

浜松学院大学 現代コミュニケーション学部 子どもコミュニケーション学科 教授  前浜松学院大学短期大部 幼児教育科 特任講師 川島 隆

つぶやきって大事ですね

最近、ある知り合いの方から、こんなお話をいただきました。
「『つぶやき』ってところを読みましたよ。私自身、自分がつぶやいたことでも、覚えてることありますよ。結構、素直な自分の気持ちがでちゃうっていうか。つぶやきって同じものがないんですよね。人それぞれ違うんです。だからこそ、大事ですね。我が子の『つぶやき』もちゃんと聞かなくちゃって思います」

この方は、教育関係者というわけではありませんが、「つぶやき」についての話“「教師の五感を磨く~聴くことの意味」つぶやきに耳を傾けて(1)”を自身の経験と重ね合わせながら読んでくださり、自分にひきつけて考えられていました。
教室じゃなくても、学校じゃなくても「つぶやきに耳を澄ます」って大事なんだなとあらためて思いました。

この「聴くこと」からスタートしたシリーズも、今回でまとめていこうと思います。

今、教師に求められるもの

教育公務員特例法の一部改正(平成29年4月1日施行)に伴い、校長及び教員の職責、経験及び適性に応じてその資質の向上を図るために必要な「教員育成指標」を策定されました。例えば、静岡県では、「採用時」「基礎・向上期」等4つのキャリアステージ毎に、「教育的素養」「総合的人間力」「授業力」「生徒指導力」「教育業務遂行力」「組織運営力」の6つの資質能力を高めていくことが求められています。

また、中央教育審議会の答申『「令和の日本型学校教育」の構築を目指して(令和3年1月26日)』においては、2020年代を通じて実現すべき「令和の日本型学校教育」の姿(教職員の姿)が、以下の通り示されています。
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教師が技術の発達や新たなニーズなど学校教育を取り巻く環境の変化を前向きに受け止め、教職生涯を通じて探究心を持ちつつ自律的かつ継続的に新しい知識・技能を学び続け、子供一人一人の学びを最大限に引き出す教師としての役割を果たしている。その際、子供の主体的な学びを支援する伴走者としての能力も備えている。
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つまり、それぞれの年代や経験に応じて、身に付けるべき資質能力を獲得すべく主体的に学び続けていく教師、そして、子どもの学ぶ力を引き出し、子どもに寄り添いながら支えていく力を持つ教師が必要とされているのです。

では、そうした力を身に付け、教師として成長していくのは、どのような時でしょうか。どのような場でしょうか。

教員の側からすれば、今やICTだの働き方改革だの、コロナ対応、新学習指導要領の着実な実施等々、やることいっぱいで、「この上に何をしろって言うんだ!」という声も聞かれそうです。

これからの教師の成長は、どうなる?

文部科学省国立教育政策研究所/令和3年度全国学力・学習状況調査報告書【質問紙調査】

さて、「令和3年度全国学力・学習状況調査報告書【質問紙調査】」によると、「個々の教員が,自らの専門性を高めていこうとしている教科・領域等を決めており,校外の各教科等の教育に関する研究会等に定期的・継続的に参加している(25)」「 教職員は,校内外の研修や研究会に参加し,その成果を教育活動に積極的に反映させている (26)」の二つの項目は、いずれも調査開始年度と比べ、若干の減少傾向がうかがえると考察されています。つまり、現在、校内外の研修・研究会への参加やその成果還元が十分になされていない状態になりつつあるということです。

文部科学省国立教育政策研究所/令和3年度全国学力・学習状況調査報告書【質問紙調査】

また、学習院大学特任教授佐藤学氏は、文部科学省による調査結果をもとに、この1966年から2018年にかけての50年間で、「校内研修の時間は5分の1に、個人研修は、3分の1に激減している」と指摘しています。さらに、今後も「働き方改革」による影響が少なくないと思われますし、さらにこの傾向が強くなっていくことが危惧されます。

良質の研究の機会や時間が果たして、どのように確保されていくのでしょうか。

これからの教師は、備えるべき十分な力を付けていけるのでしょうか。

教師の成長は、いつでも、どこでも

さて、(資料4)では、独立行政法人教職員支援機構が作成した「教職員研修の手引き2018-効果的な運営のための知識・技術-」に教職員研修の体系が示されています。中でも、「校内研修」が組織内の教員の成長につながるものとして、子どもに、授業に還元されていくものとして、最重要であることは言うまでもありません。同時に、教師が自分を高める場は、一つじゃない、いろいろあるんだということです。

ですから、教員一人一人が日常生活の様々な場面で自分を磨こうと意識していくことも大切にしていきたいということです。「学びの場.com」をお読みの皆さんには、すでに求めて、こうして自己研修をしているわけですから(このHPを開いているわけですから)、釈迦に説法になってしまうかもしれません。

やはり、自分から求めて学び続けていく姿勢が肝です。だから、その意味では、教師としての成長は、いつでも、どこでも、できるんです。やればできる!

そして、そのためにも、学ぶ楽しさ・よさを教師自身がまず体感していくことがポイントになるんじゃないかと思います。

「あなたは、教師としてどんな力を身に付ける必要があると思いますか?」

以前、「成長実感」を伴う教師の力量形成に関する実践的な研究」というテーマで論文を書いた折、同僚にインタビュー調査を試みました。その中で、こんな問い掛けをしました。

「あなたは、教師としてどんな力を身に付ける必要があると思いますか?」

4人の教員は、それぞれ応えてくれました。

〇 「子どものことをよく知ること。指導案は、ネットを使えばでてくるけれど、そのまま授業をやっても難しい。目の前の子どもに合った発問や教材があると思うんです。だから、子どもをよく知ることが大事だと思います」20歳代(講師経験1年、教諭経験3年)男性A教諭 
〇 「我慢ですね。子どもの発言、子どもの考えを聴くということをやらなくちゃいけない。教材に関して研究をして、引き出しをたくさん持って臨んでいかなくちゃいけないなって思っています。専門的な知識も増やしていかなくっちゃいけないかな」30歳代(教諭経験12年)男性B教諭 
〇 「子どもに力を付ける、そのためには、『授業力』。そして、後輩を育てる力」40歳代(教諭経験10年)女性C教諭 
〇 「子どもの心を読み取れる、思いをくみ取れる力です。それともちろん、教師は『授業が勝負』ですから、『子どもの思いを大切にした授業を創る力』です」50歳代(教諭経験35年)女性D教諭 

さらに、C教諭は、力を付けていくために、意識していることとして、こう話してくれました。
「今日の授業でどんな力を付ければよいかを明確にすること。そして、後輩・若手を育てるために、その教員をよく見るようにしている。見取った上で、『こういうところを伸ばすといいな』って思いながら、声を掛けている。それと、『子どもと接する上で困っていること、T男さんのこと、こういう対応の仕方がいいね』そんな話をしています。『授業がうまくいかない』って言ったら、ちょっと見に行ったり。『こういう方法もいいんじゃないかな』って話もしていますね」

彼らの語りに共通しているのは、何でしょうか?

子どもや同僚をよく見ることであり、声に耳を傾けていくこと、聴くことですよね。やっぱり教師の成長に欠かせないものなんですね。五感は。

ごく当たり前の見る・聴く・嗅ぐ・味わう・触れることから

難しいことを言うよりも、まず人がごく当たり前にしている見る、聞く、味わい、嗅ぎ、触れる。
常には、一つ一つ意識していないものですが、これを大切にしていくこと。

その、それぞれを少しずつ意識してみると、違ってくるんじゃないかなと思います。
教室の中でなくてもいいと思うのです。
街中だって、いろんな人やものが見えます。
それらをつぶさに見る、じっと見る。視点を変えてみる。
いろんな声が、音が聞こえてきます。

それらを注意深く聴く。耳を澄まして聴く。心を無にして聴いてみる。
すると、何かが変わってくるんじゃないかと思います。
もちろん、匂いや味わいや触れることも同じです。少し意識して、感じ取ってみる。

夏休み後半、教師として、いやいや、まず人としての五感に磨きをかけてみませんか。

川島 隆(かわしま たかし)

浜松学院大学 現代コミュニケーション学部 子どもコミュニケーション学科 教授
前浜松学院大学短期大部 幼児教育科 特任講師


2020年度まで静岡県内公立小学校に勤務し、2021年度から大学教員として、幼稚園教諭・保育士、小学校・特別支援学校教員を目指す学生の指導・支援にあたっています。幼小接続の在り方や成長実感を伴う教師の力量形成を中心に、教育現場に貢献できる研究と教育に微力ながら力を尽くしていきたいと考えております。

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