宮城県の視察(1)
東日本大震災から10年間が過ぎました。これまで担当する学年の児童を対象に何らかの形で震災を取り上げた学習を行ってきました。取り組んだ実践は「学び場com」の「震災を忘れない」のコーナーで紹介いただいています。震災の記事を児童と読む活動や地震が起こった際にどのようなことに心がければよいかを調べる学習、または、自治体の防災の取り組みを調べてさらに必要なことを考える学習などに取り組んできました。
さいたま市立植竹小学校 教諭・NIE担当 菊池 健一
震災を取り上げた実践のため被災地へ
東日本大震災が起こって以来、各学校においての安全教育も変わってきました。私が勤める学校でも、通常の避難訓練のほか日常的な安全指導、そして教員を対象にした安全教育に関する研修なども行われるようになりました。児童が使用する教科書にも震災に関する事項が取り上げられ、指導計画にも安全指導にかかわる内容を盛り込むようになりました。しかしながら、各教科等で資料として震災のことが取り上げられていても、児童が実感を持って防災の大切さや命の大切さなどをとらえることができないのではないかと考えていました。そこで、これまで10年間にわたり、教科横断的に震災を取り上げた実践を行ってきました。
これまでは、児童に東日本大震災が起こったときに自分がどうしていたか、家族はどうしていたかなどを考えたり調べたりする活動からスタートしてきました。自分の経験を思い出すことで、震災について自分事としてとらえられるようになるからです。しかし、現在指導を担当している児童は東日本大震災後に生まれた世代のため、当時のことを知りません。これからは、児童が震災について自分事としてとらえられるようにするための工夫がさらに必要だと感じました。そこで、今回も夏休みを利用して、被災地への視察に行くことにしました。視察ではたくさんの学習のヒントをいただくことができました。
石巻市立旧大川小学校で
宮城県視察で最初に訪れたのは、石巻市立旧大川小学校の校舎です。ここでは震災当時、学校管理下にありながら、74名の児童と10名の先生方の尊い命が津波によって失われました。学校の裏には児童も普段上っている山があり、どうして、山に避難できなかったのかということが今でもはっきりとしていません。石巻市はこの大川小学校の校舎を震災遺構として残すことを決め、今年の夏から一般公開されました。
この大川小学校では、当時6年生だったお嬢さんを亡くされた鈴木典行さんにお会いしました。鈴木さんは、遺族の方が作った「大川伝承の会」の共同代表として、語り部活動をされています。また、様々なメディアにも登場され、大川小学校での教訓を伝えています。先日行われた東京オリンピックの聖火リレーのランナーにも選ばれ、亡くなった娘さんの残した名札をつけてリレーを走られました。その鈴木さんにお話を伺うことができました。
大川小の事故についての概要は分かっているので、鈴木さんがどんな気持ちで語り部をしているのかということを中心に伺いました。鈴木さんは「(娘たちが)亡くなったことを無駄にしたくない。もう二度とこんな悲しい思いをだれにもしてほしくないからつらいことを話している」「子どもたちには地震が来たら逃げるんだよ。逃げなかったら死んでしまうんだよとストレートな言葉で話している」とおっしゃっていました。
鈴木さんの案内で、もし避難していたら助かっていたであろうといわれる裏山にも登ってみました(写真参照)。裏山には校庭から約1分で到着することができました。ここに登っていれば命が助かっていたと思うと残念でなりませんでした。そして、震災の時に自分が大川小の教員だったらきっと山に登ろうという主張はできなかったと思います。大切なのは緊急の時ではなく、平時にいかに備えておくかであるということを学びました。
今回の学びで生かせること
今回、大川小学校の旧校舎では地震や津波の際にどのようにすればよいかを平時に考えておく(決めておく)ことが大切だということを改めて学びました。2学期にも学校で避難訓練があります。その際の事前学習として、大川小学校で学んだことを児童に話したいと考えています。そして、しっかりと避難をすることが自分の命を守るためには必要であることに気づかせたいと思います。何よりも、いつ災害があっても適切な行動がとれるようになることを目指して指導をしていきます。
今回の取り組みの教材として、大川小学校旧校舎で話を伺った、鈴木さんを取り上げた記事を使いたいと思います。鈴木さんが東京オリンピックの聖火ランナーを務められたことや大川小学校の旧校舎が震災遺構としてオープンしたことなどがあり、鈴木さんが新聞などの多くのメディアに取り上げられました。新聞記事には鈴木さんが考えていることが盛り込まれています。それを読み、私が実際に聞いてきたことを児童と確認して、避難訓練の事前学習としたいと考えています。
菊池 健一(きくち けんいち)
さいたま市立植竹小学校 教諭・NIE担当
所属校では新聞を活用した学習(NIE)を中心に研究を行う。放送大学大学院生文化科学研究科修士課程修了。日本新聞協会NIEアドバイザー、平成23年度文部科学大臣優秀教員、さいたま市優秀教員、第63回読売教育賞国語教育部門優秀賞。学びの場.com「震災を忘れない」等に寄稿。
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