2024.08.25
  • twitter
  • facebook
  • はてなブックマーク
  • 印刷

種まく教師でありたい

「先生、もうそんな時代じゃないんですよ」
私が、給食で野菜をほとんど食べない子に「先生が子どものころは、給食を食べ終わるまで残されて食べさせられたものだよ」と冗談交じりに言ったことに対してクラスの子どもたちからの反応です。
教員になって26年。
食育の重要性は若いころから感じており、給食などを題材に授業などで取り組んできました。

さいたま市立植竹小学校 教諭・NIE担当 菊池 健一

食育に取り組んではきたけれど・・・

日和幼稚園事故の子どもたちの慰霊碑

昨年度は、JAや新聞社の協力を得て、秋田県の大豆農家さんから話を聞くことができました。食料自給率がかなり低い国産の大豆を大切に作り続けている方の話を聞いて、大豆の良さを学びました。また、地域で有機農法に取り組まれている若い女性の農家の方にも来ていただき、野菜作りの仕事への思いを語ってもらったこともありました。
その後は、毎日の給食を題材に、食材の産地を調べたり、栄養について学んだりする活動もしました。身近な食材を通して、社会を見る目を養い、同時に栄養についても興味をもってもらいたいとの願いからです。自分なりに子どもたちの関心を高められたという実感があり、指導をしていて私自身も楽しく活動できました。

しかしながら、野菜が苦手な子はなかなか野菜を食べるようにはなりません。給食後に野菜を残している姿を見ていつも残念に思います。

「あれだけ、野菜作りに関わる方の話を聞いたのになあ」
「毎日、野菜の魅力や栄養などを伝えているのになあ」
と、少し愚痴めいたことを言ってしまうこともしばしばでした。
そして、あまり意味がないように思えてきたため、取り組んできたことをやめてしまおうかと思うこともありました。しかし、これまでたくさんの方に協力していただいたことや私自身の教師としての思いから続けています。

震災学習も13年目に突入

食育とともに、震災を取り上げた実践にも取り組んでいます。東日本大震災以降、被災地を取材した記者の方や、被災地の語り部の方を招いて毎年、児童にお話をしていただいています。
現在担当している児童は、3年生と5年生の時にも担当し、震災を取り上げた取り組みを行ってきました。震災があったときに自分や大切な人の命を守るためにできることを考える。そして今、隣にいる自分にとって大切な人との関わりを大事にしてほしいとの思いからでした。

3年生の時には、東日本大震災の際に宮城県東松島市で児童と同じぐらいの年齢で被災された方をゲストに迎え、お話をしていただきました。

「地震が大きすぎて、机に潜れずに、机と追いかけっこをしている状態だった」など、その時の様子を詳しく教えてくださいました。

また、昨年度、5年生の時には宮城県石巻市の大川小学校の御遺族で中学校の教員でもあった、佐藤敏郎さんにお話をリモートで伺いました。普段から震災に備えて準備をしておくことの大切さを学びました。また、今、生きているという当たり前に思えることが実は当たり前ではないことも学びました。

そして、折に触れて新聞などを使った学習で被災地や震災のことについて学び続けてきました。現在受け持っている子たち以外にもたくさんの児童と共に震災を題材にした学習を続けてきました。言ってみれば、子どもたちに命の大切さについて考えるための「種まき」を、震災を題材にして行ってきました。その取り組みも今年度で13年目になります。今年度は担当する児童が卒業する年ですので、最後の種まきになります。児童と共に学んでいこうと考え、準備を始めました。

さあ、今年も震災学習を

今年度6年生の彼らに震災授業の「種まき」をするのは最後の機会になります。これまでの学びでも、児童に本物と触れ合わせたいという願いから、様々なゲストティーチャーを招聘しました。今年度は、石巻の日和幼稚園被害者有志の会代表の佐藤美香さんです。佐藤さんは、東日本大震災で愛する6歳の娘・愛梨さんを亡くしました。それも、通っていた幼稚園の判断ミスで命を落とす結果となりました。佐藤さんは、現在でも命の大切さを訴え、語り部活動をしています。その佐藤さんにZOOMで子どもたちに話をしていただくことにしました。

そして、佐藤さんの取材をずっと続けている写真記者の方にも来ていただき、震災や佐藤さんの取材で感じたことなどを話していただく予定です。それらの活動を通して児童が考えたことを意見文にまとめ、最後は新聞社に投稿します。自分たちの考えを社会にアウトプットすることを目標にした国語授業で、今回は震災の学習を取り上げます。

国語科の目標を達成しながら、児童の心の中に、
「命は大切だなあ」
「今、隣にいる友だち、そして一緒に暮らしている家族はかけがえのないものなんだなあ」
という気持ちが芽生えてくれたらうれしいと思っています。

そして、今回の授業が、私から児童への最後のメッセージとなります。授業を通して、しっかりと児童にメッセージを伝えたいと考えています。

菊池 健一(きくち けんいち)

さいたま市立植竹小学校 教諭・NIE担当
所属校では新聞を活用した学習(NIE)を中心に研究を行う。放送大学大学院生文化科学研究科修士課程修了。日本新聞協会NIEアドバイザー、平成23年度文部科学大臣優秀教員、さいたま市優秀教員、第63回読売教育賞国語教育部門優秀賞。学びの場.com「震災を忘れない」等に寄稿。

同じテーマの執筆者

ご意見・ご要望、お待ちしています!

この記事に対する皆様のご意見、ご要望をお寄せください。今後の記事制作の参考にさせていただきます。(なお個別・個人的なご質問・ご相談等に関してはお受けいたしかねます。)

pagetop