2024.10.12
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授業づくりの旅

毎年、授業づくりの一環として、様々なところに教材研究を兼ねていくのが好きです。授業で取り上げる内容について、本物を見たり、現地でしか手に入らないものをもらってきたりすることで、授業づくりに熱が入ります。今年も夏休みには教材研究の旅に出ました。毎年、東日本大震災を取り上げた授業づくりを行っているので、今年も宮城県の石巻を訪れました。石巻は東日本大震災で甚大な津波被害を受けました。石巻を訪れたのはこれで5回目。最初に訪れた時はまだまだ復興に向けての工事が行われていましたが、現在では工事も終わり、静かな町が帰ってきています。今年も石巻への旅からスタートです。

さいたま市立植竹小学校 教諭・NIE担当 菊池 健一

今年も石巻へ

石巻南浜地区

石巻では、まず震災遺構の市立門脇小学校の旧校舎を見学しました。門脇小学校は津波被害の後に、火災も起こしており、校舎にはその爪痕が今でも残っていました。13年前の震災の時にタイムスリップしたようでした。もし自分がこの学校の教師だったら…そんなことを考えながら見学をしました。この学校では、校長先生をはじめ先生方の適切な判断により学校にいた児童はすべて避難をすることができました。学校の裏にある日和山へすぐに避難できたためです。私も日和山に上り、津波被害を受けた町の跡を眺めました。

「当時、子どもたちはどんなに心細かったであろう…」
と、当時の様子に想いを馳せました。

現在では、津波被害を受けた南浜地区と呼ばれる地域は防災公園となり、伝承館も整備されました。また、近くには復興住宅も建設されました。今では、震災当時の傷は見た目にはわからなくなっています。しかし、この地で起こったことから得られる教訓は忘れてはいけません。今でも、語り部の方がここを訪れる人たちに語り継いでいます。今回は、授業の教材研究もかねて語り部の方に会いに行きました。

佐藤さんから話を聞いて

石巻でお話を伺ったのは、日和幼稚園被害者有志の会の佐藤美香さんです。佐藤さんのお嬢さんの愛梨さんは、乗るはずのなかった幼稚園バスに乗り命を落としてしまいました。決して助けられなくはなかった命、失われるはずがなかった命…それがどのようにして失われてしまったのかを佐藤さんから教えていただきました。

最初に案内いただいたのが、震災遺構である門脇小学校の前にある伝承施設です。ここには愛梨さんが事故当時に身に着けていた上履きやクレヨンが展示されています。このクレヨンで愛梨さんはどんな絵を描いたのだろう…そんなことを考えてしまいました。佐藤さんは、「ここに展示をしたのは、この遺品を見た方が娘のことを少しでも考えてくれたらうれしいと思うからだ」……と。

その後に佐藤さんに、幼稚園の先生たちが園バスに追いつき、子どもたちの命を助けられる最後のチャンスとなった場所、そしてバスを降りてここまで上がっていれば被害を受けなかったという高台、さらに、娘の愛梨さんが発見された場所…等々を案内いただきました。これまで新聞報道や書籍等で日和幼稚園のことや佐藤さんのお嬢さんのことは知っていました。しかし、今回実際にその場を訪れて感じたのはそれぞれの場所の距離の近さです。

「どうしてだれも子どもたちを助けに来なかったのだろう…」
「どうして子どもたちをバスから降ろして幼稚園に戻さなかったのだろう…」
と、様々な疑問が思い浮かびました。

強く感じたのは、やはり平時の備えが大切であること、そして隣にある命はいつなくなってしまうか分からないことです。そこで、佐藤さんから子どもたちと共に学び、防災の大切さと同時に、命の尊さや今隣にいる人とのかかわりの大切さを感じられる授業づくりをしたいと思うようになりました。

授業で命の大切さを考えさせたい

今回、佐藤さんのお話を子どもたちにも聞かせたいと思い、国語科の意見文の単元を使って震災を題材に授業を行うことにしました。佐藤さんのお話や佐藤さんをずっと取材している記者から話を聞いて、その話をもとに、命の大切さ、そして周りにいる人とのつながりの大切さについて考えたことを文章にまとめる学習を行います。ゲストの方のお話を受けて、自分のこと、そして友達のこと、家族のことなどいろんなことを考えると思います。そうした中から自分の考えを構成し、発信させていきます。児童の意見文は新聞社に投稿する予定でいます。多くの意見文を取り上げていただけたらと考えています。

この単元の学習の後も、引き続き震災の学びを深めていきます。3月11日が近づくと震災に関係する報道も増えます。また担当する子どもたちと毎年取り組んでいる被災地の追悼式で飛ばされる風船にメッセージを書く活動も引き続き行いたいと考えています。

現在受け持っている児童は3年間担当しました。毎年震災についての取組を行ってきたのでとても思い出に残っています。今回の取組は児童と行う最後の活動になります。これから中学生になる児童たちがよりよく生きるためのいわば種まきになったらと思っています。

菊池 健一(きくち けんいち)

さいたま市立植竹小学校 教諭・NIE担当
所属校では新聞を活用した学習(NIE)を中心に研究を行う。放送大学大学院生文化科学研究科修士課程修了。日本新聞協会NIEアドバイザー、平成23年度文部科学大臣優秀教員、さいたま市優秀教員、第63回読売教育賞国語教育部門優秀賞。学びの場.com「震災を忘れない」等に寄稿。

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