2025.01.22
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東日本大震災を伝える命と絆の授業(2) 石巻への旅~佐藤美香さんを訪ねて(さいたま市立植竹小学校 教諭 菊池 健一さん)

東日本大震災を題材にした授業について、さいたま市立植竹小学校の教諭・菊池健一さんが全8回(予定)にわたり連載します。震災から14年。菊池さんは記憶の風化を防ぎ、命の尊さや絆の大切さを子どもたちに伝える授業実践に取り組んでいます。第2回では、震災を授業で伝えるために再び石巻を訪れます。そこで日和幼稚園の被害者遺族・佐藤美香さんと出会い、命の尊さと防災の大切さについて考えました。

再び石巻へ

 

震災遺構・旧石巻市立門脇小学校校舎

震災について取り上げる毎年の授業では、その教材研究のために被災地を訪れて、私自身も学んでいます。授業で取り上げる内容について、本物を見たり、現地でしか手に入らないものを集めることで、授業づくりに生かすことができます。今年度の夏休みに再び宮城県石巻市を訪れました。石巻市は東日本大震災で甚大な津波被害を受けました。最初に訪れた時はまだ復興に向けての工事が行われていましたが、現在では工事もだいぶ進み、街には静けさが戻っています。昨年の震災学習では、石巻市の大川小学校に通っていた児童の保護者で、女川町の中学校教師でもあった佐藤敏郎さんにゲストティーチャーをお願いしました。その際も石巻市を訪れ、実際に大川小学校の様子を見ています。

石巻市では、近年震災遺構として公開されるようになった市立門脇小学校の旧校舎を見学しました。門脇小学校は津波被害の後に、火災も起こり、校舎にはその爪痕が今でも残っています。校舎に入ると、まるで13年前の震災当時にタイムスリップしたような気持ちになりました。もし自分がこの学校の教師だったら……そんなことを考えながら見学しました。この学校では、校長先生をはじめとする先生方の適切な判断により、学校にいた児童はすべて無事に避難できました。学校の裏にある日和山へ、訓練通りにすぐに避難したためです。私も実際に日和山に登り、津波被害を受けた石巻市南浜町の様子を上から眺めました。震災当時、この山の上では雪が降り、寒さをしのぐために先生たちがブルーシートを広げ、児童が雪に濡れるのを防いだといいます。

「子どもたちはどんなに心細かったであろう。そして、先生方はどんな思いでこの場にいらっしゃったのだろう。保護者の方はどうだったのだろう」
と、当時の様子に想いを馳せました。

現在では、津波被害を受けた南浜地区は防災公園となり、公園内に伝承館も整備されました。近くには復興住宅も建設され、穏やかな生活が戻ってきつつあります。震災当時の傷は見た目にはわからなくなっています。この近くにある日和幼稚園では、当時津波に向かって出発してしまったバスの事故のために、尊い命が失われることになりました。今回児童に話をしていただく佐藤美香さんの娘・愛梨ちゃんは、その中にいました。

佐藤美香さんとの出会い

 

津波到達場所を指さす佐藤美香さん

今回、ご厚意により、日和幼稚園被害者有志の会の佐藤美香さんにお話を伺うことができました。佐藤さんの娘・愛梨ちゃんは、乗るはずではなかった幼稚園バスに乗り命を落としてしまいました。助けられたはずの命、失われるはずがなかった命…それがどのようにして失われてしまったのかを佐藤さんから詳しく話をお聞きしました。事前に本や動画などで学んではいきましたが、佐藤さんに実際にお話を聞くことで本などではわからないことをたくさん知ることができました。

佐藤さんに最初に案内していただいたのが、震災遺構門脇小学校の近くにある伝承施設「南浜つなぐ館」です。ここには愛梨ちゃんが事故当時に身につけていた上履きやクレヨンが展示されています。ケースが焼け焦げてしまい、中が見えなくなったクレヨン。このクレヨンで愛梨ちゃんはどんな絵を描いたのだろう……そんなことを考えてしまいました。佐藤さんは、「ここに展示をしたのは、この遺品を見た方が娘のことを少しでも考えてくれたらうれしいからです」と言います。

その後、佐藤さんに案内していただいたのは、子どもたちの命を助けられる最後のチャンスとなった場所(幼稚園の先生がバスに追いつき、幼稚園に戻るように運転手さんに話をした場所)、子どもたちがバスを降りてここまで上がっていれば被害を受けなかったはずの高台、さらに、愛梨ちゃんが発見された場所などです。実際にその場を訪れて感じたのはそれぞれの場所の近さです。これまではもっと遠い場所であったのだろうと思っていました。

「どうしてだれも子どもたちを探しに行かなかったのだろう」
「どうして子どもたちをバスに乗せてしまったのだろう」
と、いろんな思いが頭をよぎりました。

佐藤さんのお話から強く感じたのは、平時の備えの大切さです。頭では分かっているつもりでしたが、本当に大切であると実感しました。そして隣にある命はいつ失ってしまうか分からないということです。佐藤さんから防災の大切さを学ぶと同時に、命の尊さや隣にいる人とのかかわりの大切さを感じられる授業づくりをしたいと思いました。

授業づくりへの想い

愛梨ちゃんの遺品(クレヨンと上履き)

 

児童が佐藤さんから学ぶための単元として、国語科の意見文を書く授業で震災を題材に扱うことにしました。佐藤さんの話に加え、佐藤さんをずっと取材している記者からも話をお聞きしました。その話をもとに、命の大切さ、そして周りにいる人とのつながりについて考え、文章にまとめる学習にしました。ゲストの話を聞いて、自分のこと、そして友達、家族などいろんなことを考えるはずです。そうした中から自分の考えを構成し、文章として発信させます。児童の意見文は新聞社に投稿する予定です。考えたことをより多くの方に読んでほしいと考えています。

私はこの児童たちを、これまで3年間受け持ちました。毎年震災について取り組んできたため、とても思い出に残っています。今回の取組はこの児童たちと行う最後の活動になります。児童と共に大切なことをしっかりと学ぼう!と決意しました。

(次回は、佐藤美香さんについて学ぶ児童の様子をレポートします。)


文・写真:菊池健一

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