東日本大震災を伝える命と絆の授業(7) 風船に想いを込めて(さいたま市立植竹小学校 教諭 菊池 健一さん)

東日本大震災を題材にした授業について、さいたま市立植竹小学校の教諭・菊池健一さんが全8回にわたり連載します。震災から14年。菊池さんは記憶の風化を防ぎ、命の尊さや絆の大切さを子どもたちに伝える授業実践に取り組んでいます。
第7回では、これまでの震災学習をふまえ、子どもたちが被災地への想いを風船に込める活動に取り組みました。追悼の風船に託された子どもたちのメッセージを紹介します。
夏休みに閖上を訪ねて

宮城県名取市閖上にある伝承施設「閖上の記憶」
毎年夏休みに行っている、被災地をめぐる自主研究の旅で、今年は宮城県名取市の閖上(ゆりあげ)を訪ねました。閖上は東日本大震災の津波で壊滅的な被害を受けました。ここには、震災の伝承施設である「閖上の記憶」があります。施設には震災当時の閖上中学校に残されたものなどたくさんの展示があります。また、定期的に語り部の方が震災の経験を語ってくれます。
「閖上の記憶」の代表・丹野裕子さんは、震災で当時中学校1年生だったお子さんを亡くされました。現在は閖上の記憶を中心に、全国各地で震災の語り部をしています。私も数年前に丹野さんを訪ねお話を伺いました。丹野さんは、かつてお子さんが好きだった集英社の『週刊少年ジャンプ』を今でも毎週購入し、お子さんの部屋の本棚に並べています。
「たまには帰っておいで!」と、丹野さんがお子さんに毎年呼びかけています。
現在では閖上もだいぶ復興してきましたが、丹野さん曰く、「本当の意味での復興はない」とのことです。
やはり、町の様子は戻ってきても、元通りにはならないという現実があるのだと感じたことを覚えています。この夏も閖上を訪れ、伝承施設や、町に残された震災遺構を見学しました。改めて震災の激しさが伝わりました。
閖上の記憶では、毎年3月11日に追悼式が行われ、被災された方だけでなく、全国から寄せられたメッセージをのせたハト風船やカラー風船が空へ飛ばされます。私も毎年クラスの子どもたちと一緒にメッセージを書き、ハト風船やカラー風船を飛ばしてもらっていています。一昨年には、クラスの子どもたちとメッセージを書いたハト風船を私が現地に持参し、追悼式で飛ばしました。今年は現地には行けませんが、この取り組みには参加することにしました。
風船にメッセージを書く

風船にメッセージを書く子どもたち
子どもたちには、
「今年も閖上で飛ばしてもらうハト風船*にメッセージを書こう!みんなはもう小学校を卒業します。今年も震災について学習しましたが、3年生のときも5年生のときにも行いました。その経験を通じて考えたことを書いてください」
と、投げかけました。
子どもたちは3年生のときには、東松島市にお住いで、震災当時4年生だった語り部・武山ひかるさんから話を聞いています。震災当時の様子について詳しく話を聞き、特に、避難所での生活について詳しく教えていただきました。
そして、「子どもにもできることはある!」という言葉をいただきました。自分たちと同じぐらいの年頃で被災した武山さんの話を聞いて、子どもたちは初めて震災の怖さを学びました。
そして昨年度は、大川小学校の保護者であり、元教師だった佐藤敏郎さんから話を伺いました。大川小学校で何があったのか、そしてどうすれば命を守れるのかということについて詳しく教えていただきました。そして、「未来を拓く」という言葉をいただきました。
今年も震災学習を行い、石巻の佐藤美香さんや、佐藤さんを取材した読売新聞社の関口寛人記者にもお話を機会をつくりました。また、道徳の時間には、三陸ボランティアダイバーの佐藤寛志さんにも授業に参加してもらいました。
これらの経験をもとに考えたことなどを子どもたちはハト風船に書き始めました。震災から14年目となる3月11日に、閖上の空へハト風船が飛ばされることをイメージして……
子どもたちのメッセージから

子どもたちがメッセージを書いたハト風船
子どもたちの書いたメッセージには次のようなものがありました。
「これまでの震災学習で命の大切さが本当に分かった。これからも命を大切にします」
「当たり前は当たり前じゃない。これから始まる中学校生活を楽しく過ごしていきます」
「今生きていられることに本当に感謝。命を大切にしていきます」
「被災地で亡くなられた方の分まで一生懸命に生きていきます」
「たくさんの人たちに教えていただいたことを忘れません」
子どもたちのメッセージ一つひとつを読んで、これまでの学習を私も振り返ることができました。今回のクラスの子どもたちとは3年間にわたって東日本大震災と向き合ってきました。震災を取り上げた学習は、子どもたちが命を大切にし、よりよく生きるための種まきであると考えています。
子どもたちと取り組んできたことが、子どもたちの心にどんな花を咲かせるのだろうか……そんなことを考えています。3年間、たくさんの方に授業に関わっていただきました。普通ではできない経験と考えています。本当に感謝しています。私自身もさらに、取り組みを工夫していきたいと考えています。
次回は、3月11日・12日の新聞記事をスクラップしながら、学習のまとめに取り組む様子をレポートします。
※ハト風船について:太陽光で生分解される素材を使った環境にやさしい風船を使用しています。
文・写真:菊池健一
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