東日本大震災を伝える命と絆の授業(3) 学習へのいざない(さいたま市立植竹小学校 教諭 菊池 健一さん)
東日本大震災を題材にした授業について、さいたま市立植竹小学校の教諭・菊池健一さんが全8回(予定)にわたり連載します。震災から14年。菊池さんは記憶の風化を防ぎ、命の尊さや絆の大切さを子どもたちに伝える授業実践に取り組んでいます。東日本大震災で娘を亡くした佐藤美香さんの語り部活動や新聞記事を通じて、児童たちが意見文を書く授業が始まりました。連載第3回では、震災の記憶を未来へ伝えるために、児童たちがどのように学びを深めていくのか、その様子をご紹介します。
石巻の佐藤美香さんとの出会い
今回の震災学習は、国語科の意見文を書く言語活動を取り上げた単元を活用します。授業では「根拠をはっきりさせて自分の意見を書くこと」を身につけることを目指します。そこで、意見文として各テーマを「命の大切さ」「自分の周りにいる人との絆の大切さ」としました。
石巻市の日和幼稚園遺族有志の会代表を務める佐藤美香さんは、東日本大震災で幼い娘の愛梨ちゃんを亡くしました。震災後から現在に至るまで、「命の大切さ」をテーマに様々な場所で語り部活動をされています。私も佐藤さんのお話を聞き、児童にもぜひ話を聞かせたいと思っていました。今回の授業では、佐藤さんがオンラインでゲストティーチャーを引き受けてくださることになりました。
佐藤さんから1冊の絵本『2人の天使にあったボク』を寄贈いただきました。この絵本は、日和幼稚園遺族有志の会の願いから生まれました。主人公の男の子が大地震に遭い、2人の女の子の導きにより高台に避難して命を守るというお話です。2人の女の子のうち1人が佐藤さんの娘・愛梨ちゃんです。絵本は、幼児にも避難の大切さがわかりやすく伝わるようにまとめられています。
児童にこの絵本を読み聞かせて、感想を話し合いました。
「このお話は東日本大震災の話だね」
「お話に出てくる2人の女の子は誰なんだろう」
「この2人の女の子は実際にいたのかなあ」
児童には、絵本に登場する「あいりちゃん」は実際にいたこと、そして愛梨ちゃんのお母さんである佐藤さんから絵本をもらったことを話しました。それを知った児童は佐藤さんへの関心を持ち始めました。
佐藤さんが取材された新聞記事を読んで
愛梨ちゃんが発見された場所
次に、授業前の時間を使って、児童と一緒にある新聞記事を読みました。それは2022年3月12日の読売新聞に掲載された記事です。記事には石巻の佐藤美香さんがコンクリートの道路で祈る写真が掲載されています。東日本大震災があった3月11日は娘・愛梨ちゃんが発見された場所で、祈りを捧げているとのことでした。
児童たちはこの記事を読んで、次のような感想を話し合いました。
「佐藤さんはどんなことを考えて愛梨ちゃんが発見された場所にいるんだろう」
「どうして毎年同じ場所を訪れているのだろう」
「佐藤さんは震災当時、どんなことを考えたのだろう」
また、記事をスクラップしたワークシートには以下のような感想がありました。
「佐藤さんの中では愛梨ちゃんは幼いころのままだけれど、今、愛梨ちゃんが生きていたらもうすぐ成人。生きていたら佐藤さんの生活はどのように変わっただろう。そして愛梨ちゃんはどんなふうにせいちょうしていたのだろうと考えました」
「場所の景観などが変わっても、ずっと忘れずに娘が亡くなった場所を覚えていることはすごいなと思いました。震災当時、佐藤さんは子どもがいたからすごく心細かったのではないかと思いました」
「今、隣にいる人も今日一緒に笑っている人も、明日は隣にいないかもしれない。だからこそ、この記事を読んでいつも一緒にいる人がどれだけ大切か、日常の日がどれだけ幸せかを考えることができました」
すでに、今回の学習を通して考えてほしいことに気づき、考え始めている子もいました。佐藤さんの話を実際に聞くことで、考えを深めてほしいと願います。
児童たちには、記事に掲載されている佐藤さんの写真にも注目させました。
「この写真を撮った記者さんは、みんなにどんなことを伝えたいと思っているのだろう」と投げかけました。
写真を撮影したのは読売新聞社編集局写真部の記者・関口寛人さんです。関口さんは、震災直後から継続して被災地の取材をされています。今回お話を聞く佐藤さんについても、何度も取材を重ねています。
児童たちは普段から新聞を活用して学習しています。その学習を深める意味でも、被災地の取材を続けている関口記者からもお話を聞くことにしました。
国語科授業の目的を知る
最初の国語の授業の板書
連載第1回で触れたように、今回の震災授業のテーマは「当たり前は当たり前ではない~命の大切さ、周りにいる人たちとの絆の大切さを考える~」です。そして、国語科では「根拠をはっきりさせて意見文を書く」ことを目標としています。授業ではゲストである佐藤さんや関口記者の話を聞き、それをもとに調べたことや考えたこと、友達と話し合ったことを生かして意見文を書きます。そのことについては、初回の授業で児童に伝えました。
さらに、意見文は新聞社に投稿し、たくさんの方に読んでもらう予定であることも児童たちに告げました。児童は佐藤さんや関口記者の話を真剣に聞き、しっかりと意見文を書きあげようと考えているようでした。
次回は、佐藤さんと関口記者をゲストに招いた授業についてレポートします。
文・写真:菊池健一
※当記事のすべてのコンテンツ(文・画像等)の無断使用を禁じます。
ご意見・ご要望、お待ちしています!
この記事に対する皆様のご意見、ご要望をお寄せください。今後の記事制作の参考にさせていただきます。(なお個別・個人的なご質問・ご相談等に関してはお受けいたしかねます。)
この記事に関連するおススメ記事

「教育エッセイ」の最新記事
