東日本大震災を伝える命と絆の授業(5) 命の大切さを意見文に(さいたま市立植竹小学校 教諭 菊池 健一さん)

東日本大震災を題材にした授業について、さいたま市立植竹小学校の教諭・菊池健一さんが全8回(予定)にわたり連載します。震災から14年。菊池さんは記憶の風化を防ぎ、命の尊さや絆の大切さを子どもたちに伝える授業実践に取り組んでいます。第5回では、国語科の授業で意見文を書く活動に取り組みました。自分の思いを言葉にすることで、子どもたちはどのような気づきを得たのでしょうか。
自分の意見を整理する

自分の考えを整理する児童
前回、報告したように、被災地を取材する記者と被災者の話を聞くことで、子どもたちは震災についてより実感を持って理解することができました。今回はその経験を生かして、国語科の学習で意見文を書いていきます。
単元が始まる前の学習アンケートでは、「文章を書くことが好き」と答えた子どもの割合はあまり高くありませんでした。この学年の子どもたちを数年受け持ち、これまで何度も書くことに関する指導をしてきました。しかし、なかなか書くことへの自信を持てていないことが分かりました。そこで、学習する内容を自分事として捉える経験をさせ、子どもたちが考えを進んでアウトプットしたいと思えるようにすることが重要だと考えました。
ゲストティーチャーである宮城県石巻市の日和幼稚園遺族有志の会代表・佐藤美香さんと、読売新聞社の関口寛人記者(佐藤さんや被災地の取材を続けている)からお話を聞き、それをもとにして、自分が「伝えたい」と思ったことを明確に決めることから始めました。
「ぼくは、やっぱり『命』の大切さについての意見を述べたい」
「佐藤さんが言っていた『当たり前は当たり前じゃない』という言葉について、自分の言葉で伝えたい」
「身近な人とのかかわりを大切にしなければいけないということを伝えたい」
子どもたちはそれぞれに自分が伝えたいことについて考え、書く内容をはっきりさせることができました。
説得力のある文章に
今回の国語科の目標は「説得力のある文章を書くこと」です。教科書では調べて分かったことや統計資料などを活用しながら意見文を書くことが示されています。
今回の学習では子どもたちが自分の考えを説得力のある文章にできるよう、ゲストの関口記者や佐藤さんから聞いた話を引用することにしました。子どもたちは2人の話から心に残ったことをたくさんメモしています。そのメモを生かして、意見文を書くことにしました。
「佐藤さんが娘の愛梨さんの『ただいまがまだ聞けていない』と言っていたことを引用したい。普段のあいさつが大切であることをより強く伝えられると思う」
「佐藤さんが今でも娘の愛梨さんのことを忘れずにいて、これまでも中学校の制服を作ったり、命日には愛梨さんが発見された場所を訪れたりしていることを書いて、大切な人のことは絶対に忘れないということを伝えられるようにしたい」
子どもたちは自分の考えに説得力を持たせるために工夫しながら文章を書いていました。書き始めると、一気に文章を仕上げる子が多く見られました。それだけ「伝えたい」という気持ちが強かったのではないかと思います。
新聞に投稿する意見文をまとめる

タブレットで意見文を書く
子どもたちは命について、そして身近な人との絆の大切さについて考えたことを意見文にまとめることができました。単元が始まる前のアンケートでは「書くことが苦手」と答えていた子が多かったのですが、全員が800字の意見文を書くことができました。そして、私が設定した「ゲストティーチャーから聞いたことを自分の考えの根拠として、あるいは具体例として活用した文章にする」という目標も達成できました。震災を自分事として捉えることができたからこそ、子どもたちが「自分の意見をアウトプットしたい」と思えたのだと考えます。
児童の意見文には以下のようなものがありました。
・僕は、東日本大震災で子どもを亡くした佐藤美香さんや、被災地を取材した記者さんの話を聞いて、当たり前だと思っていることは当たり前ではないと思った。これからは玄関までお父さんを見送ったり、あいさつを大きな声でしたりしたい。
・石巻の佐藤美香さんは幼稚園バスを待っている時に娘の愛梨さんとしていた遊びがこれからもずっとできると思っていたけれど、それが震災でできなくなってしまったと言っていた。私も、今会える人との大切な時間を大事にしようと思いました。
・石巻の佐藤美香さんは、いつも通りの朝が来て、あいさつをしたらそれが娘との最後の別れになってしまったと語っていた。私は今、思春期に入っていて無意識に人を傷つけてしまっていることがあると思っています。だから私も普段から言葉や行動に気を付けて家族や友達を大切にしていきたい。
子どもたちの意見文を読んで、今回達成したかった国語科の目標だけでなく、子どもたちが命や周りの人との絆の大切さについても考えることができたことを実感しました。そして、今回の経験が、これからの子どもたちの人生にも役立つと確信しています。
次回は、特別の教科 道徳で、被災地の方と連携した授業をレポートします。
文・写真:菊池健一
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