2021.07.13
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心を動かす言葉との出会いをつくるー「なんだか気になる」を共有する授業―(No.4)

この連載では、「生徒の言葉に対する感性を育てること」をテーマにしています。

今回は、これまで実施した授業の中から「詩の鑑賞」に関する実践をご紹介します。

小平市立小平第五中学校 主幹教諭 熊井 直子

「なんだか気になる」を共有する。

これまでの記事でも、生徒が自分の心の動きを意識し、それを言語化することの大切さについてお話してきました。授業の中でもこうした「自分はこう感じた」を共有することで心の動きを意識する練習をすることができます。その練習にちょうどよいのが詩を題材としてとり上げることだと考えています。詩は短い表現になっているため、比較的少ない授業時数で実施することができる上、言葉のひとつひとつに着目させやすいからです。

例えば、中学1年生の光村国語教科書「詩の世界」にある「一枚の絵」「朝」「未確認飛行物体」の3つの詩を扱う時、私は次のような手順で授業をつくります。

①3つの詩をそれぞれ音読する。

②自分が「なんとなく気になる詩」をひとつ選んでどこが気になったのかを共有する。

③自分が選んだ詩についてよくわからなかったところや、皆で考えを深めたいところを挙げる。

④グループに分かれて③で立てた問いについて考える。

⑤考えたことを発表する。

※①~③で1時間、④~⑤で1時間の合計2時間かけます。

「詩」というと比喩的な表現についての解説をしたくなってしまいますが、それを全て教師が行うと一方的な授業になってしまうので、全てを解説するのではなく、「生徒が気になったところについて話し合う」という活動を行う中で、おさえるべきところをおさえる、という形を取ります。

ポイント①「気になったところ」を言語化して共有する時間を作る。

教科書に複数の詩が載っている場合、その中でどの詩が「ちょっと気になる」かひとつ選ばせる、ということをよく行います。この「ちょっと気になる」は、前回の記事でも書いたように、「取り上げている題材が好き」「この表現がおもしろい」等、「プラスの方向に気になる」でも、「言っていることが全然わからない」「この部分はちょっと違うのではないか」等「マイナスの方向に気になる」でもどちらでも良いということを伝えます。

タブレット上で協働学習が可能なソフトを使用することができるのであれば、それぞれの詩のページをあらかじめ作っておき、自分が選んだ詩のページの画面にコメントを記入していくことで意見を共有することもできます。そうした活動ができない場合には、私は生徒が作業をしている間に誰がどの詩を選んだか聞いてグループを作っておき、作業が終わったらこちらで作ったグループに分かれて意見交換をさせます。

この時、「どの詩も選べない」という生徒がいる場合、協働学習ソフトのページをひとまず眺めさせることで他の人の考えに触れ、「自分もそう思う」「自分はちょっと違う」という判断をさせることで自分の心の動きに気づかせることができます。ソフトを使用していない場合は、意見交換の際に「ゲスト」としてどこかのグループに参加させ、一通り他の人の意見を聞いた後に自分の感想があれば伝えさせます。この時、この生徒に「ちょっと気になる詩」があるのであればその詩のグループに、全くない場合は、よく話している友達がいるグループに入れるようにしています。最終的にはどんな相手とでも意見交換ができるようになることが目標ですが、自分の考えを言語化することが苦手な生徒は、自分が活動に参加できていないことに対して引け目を感じていることが多いので、「普段からよく話す友達がいる」等、コミュニケーションのハードルをできるだけ下げてあげるように心がけています。

ポイント② 共通の問いにするか、自発的な問いを立てさせるか

続いて「③自分が選んだ詩についてよくわからなかったところや、皆で考えを深めたいところを挙げる。」「④グループに分かれて③で立てた問いについて考える。」の流れについてです。

「言葉に対する感性を育てる」ために心がけているのは、「自発的な感情を言語化する」だけでなく、「着眼点を示す」ことです。先程の「ちょっと気になる」というのは「自発的な感情」にあたります。この自発的な感情を言語化して共有することがまず一番大切であると考えていますが、先程もあった「どの詩も選べない」というような生徒がいる場合、どういったところに着目してみることができるか、という視点を示してあげることで、その視点を出発点にして自分の考えをもつことができます。

そこで、1時間目の終わりに「よくわからなかったところ」「皆で考えを深めたいところ」を挙げさせて、次の時間につなげます。こちらであらかじめ考えさせたい点は絞っておきますが、生徒からどのような問いが出てくるかを見てから次の授業で考えさせる課題を決めることが多いです。最終的には生徒が自分で問いを立ててその問いについて考えを深めることが理想ですが、最初の段階では生徒から出た問いをこちらで整理して「共通の問い」として意見交換をさせ、少しずつ「問いを立てて考える」ことにも慣らしていくようにしています。

形を定めないところから入る

学校の授業の中だと、生徒は正解となる考えを求めてしまいがちですが、こうした詩についての意見交換においては「正解」ではなく「おもしろい」「ユニークな着眼点」を求めるようにしています。形を定めないところから入り、「どんな考え方をしても良い。ただし、その考えを筋道立てて相手に伝えなければならない」という点を強調します。こうした意見交換を日常的に繰り返すことで、生徒は自分の感情や考えに気づき、それを言葉で表現するということが次第にできるようになっていくと考えています。

熊井 直子(くまい なおこ)

小平市立小平第五中学校 主幹教諭
英語もできる国語の先生を目指しています。2016年度に1年間フィンランドの高校で国語の授業を研究していました。英語教育に力の入る今だからこそ母国語教育のあり方を今一度よく考える必要があるのではないかと考えています。

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